霊障鑑定
第77話 久しぶりの霊障鑑定
「う〜。源之助が心配〜。
さっさと帰りたいぃ・・・」
青木氏に案内された建物の階段を登りながら碧が呻く。
「シロちゃん経由で源之助の様子なら分かるでしょ?
視れば良いじゃない。
まだ家を出て1時間も経ってないのよ、これで夏休みが終わったらどうするの?
猫と一緒にいる為に大学中退なんて事になったら皆がドン引きするわよ!」
グダグダな碧を叱咤しながら背中を叩く。
シロちゃんも源之助も落ち着いた事だし、短時間の仕事でまず留守番が問題なくできるか確認しようと青木氏の霊障確認の依頼を3件程受けることにしたのだが・・・。
想像以上に碧の源之助禁断症状が酷い。
溺愛していたから仔離れが難しいかもと思って、比較的早い段階で否が応でも外に出る仕事をしようと持ちかけたのだが・・・正解だった様だ。
シロちゃん経由で源之助の様子を逐次確認できるのにこうも戻りたがるなんて、マジもんの禁断症状だ。
『ウェブカメラでペットの見守り』っていうのは最近よくネットなどで話題になっているがあれは意外と死角があり、よく動き回る子猫の場合なんかはちゃんと写らない事があってかえって心配になることもあるらしいが、なんと言っても源之助の場合は本猫の首輪につけたシロちゃんの分体と、見守っているシロちゃん本体がすぐそばにいるのだ。
今日は更にシロちゃんに首輪をしてもらってそれにクルミの分体も付けてあるので、シロちゃんが源之助のそばにいるのは私も確認できている。
家には散々碧に『くれぐれも、くれぐれも宜しく』と執拗に頼まれた炎華もいるし。
長期的には昼寝しそうで子守りとしての信用度は微妙だとは思う炎華だが、流石にあれだけ頼み込まれた留守番初日は彼女だってしっかり源之助に注意を払っているだろう。
今日の源之助は間違いなく世界で一番見守られて安全な子猫だ。
それでも碧の独り言が止まらない。
「子猫はちょっと目を離すと思いがけない悪戯をしますからね〜。
でも、ちゃんと子守りを頼んだんでしょう?
きっと大丈夫ですよ」
青木氏が碧を宥める様に声を掛ける。
迎えに来た段階で帰りたいと呻いていた碧の状態を説明する為に、シロちゃんを単なる『子猫の見守りを頼んだ猫好きの知り合い』とした上で源之助の話をしたら、青木氏も猫派だったらしく車の中では猫の可愛さについての話題で盛り上がっていたのだが・・・現地に辿り着いて会話が途切れた途端にこれである。
碧、このままじゃあ引き篭もりになっちゃうよ??
「お、ここは霊障ですね〜」
階段を登る時から悪霊が上にいるのは感じていたが、部屋までは分からなかったので階段をえっちらおっちら登って来たのだが、扉を開けたら目の前に恨めしげな中年男性の霊が居座っていたのであっさり青木氏に断言する。
「・・・早いですね」
玄関で靴を脱ごうとしていた青木氏が動きを止め、こちらを多少疑わしげに見る。
どうやら碧の源之助コールのせいで、手抜きして早く帰ろうとしているのではないかと疑われたっぽい。
「霊障じゃない場合は『いない』のを確認するのに時間が掛かるんですよ。
特定の条件下で悪さする悪霊の場合も、その条件に当てはまっていないと残り香が何処から来ているのかの確認にはそれなりに注意が必要ですし。
ですが、目の前で悪霊に睨みつけられていたら、中に入る必要すらないですから」
これからの付き合いあるので、時間が掛かるケースの説明をしておく。
「・・・目の前に、いるんですか」
青木氏が微妙そうな顔で周囲を見回す。
あれ〜?
前回会った時の言動からして、彼も多少は感知能力があるっぽかったのに。
「感じられません?」
「背中がちょっとゾクゾクしますがそれ程ではないので、気のせいかと思っていたんですよ・・・」
ちょっとがっくりした様な顔で青木氏が答えた。
おやぁ?
霊障じゃないと思ってこの案件を引き受けたのかな?
「まだ悪霊化して日が浅いから出来る悪さは限られているのかも知れませんが、放っておいても離散はしなさそうですよ。
さっさと退魔師を頼む方が長期的には安上がりでしょう」
これで『大したことは無さそう』と放置して普通の人に貸し出したりしたら、その人の活気や健康を食い散らかした悪霊がパワーアップして除霊に必要な退魔師のランクが上がっていく。
だからさっさと初心者レベルなうちに対処しておくのが正解だよ〜。
まあ、『初心者レベルな退魔師』と言うランクに私も現時点では当て嵌まるので、利益誘導っぽく受け取られたら嫌だからそこまで言わないけど。
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