第76話 変身!
「良いねぇ、凛々しくも可愛い!
流石シロちゃん!」
碧がハスキー犬のぬいぐるみに憑いたシロちゃんに声を掛けた。
結局、あの後シロちゃんとクルミ、そして碧で数多くの洗えるぬいぐるみをあちこちのサイトで見て回ったのだが、やがて碧の鞄の中での休憩が終わった源之助が出てきた事で碧が脱落し、結局シロちゃんとクルミで選んだのが、この白と灰色のハスキー犬のぬいぐるみだ。
そこそこリアルっぽく、30センチ強あり、尻尾がふさふさしている。
早速源之助が尻尾に飛び掛かっているので、この尻尾には強化の術をかけて引き抜かれない様にした方が良さそうだ。
洗えるぬいぐるみとは(もしかしたらぬいぐるみ全般なのかも知れないが)何故か寝ている形の物が多く、それだと動き回るのに支障があるとクルミ達は色々探し回る羽目になっていた。
私に頼まれ事をされていない時は暇に任せてネットを見ているクルミがネットショッピングについて詳しかったお陰で、最終的には良い感じのぬいぐるみを作っている直輸入のサイトに辿り着いたのだが・・・。
何やら機械翻訳を使っているのか日本語の説明文は意味をなさず、かなり怪しげだった。
これに1万円以上払うの???と密かに私は心配したのだが、太っ腹な碧はぬいぐるみの姿を一目見て気に入り、躊躇なくポチッとオーダーのボタンをタップしていた。
で、2日後に届いたぬいぐるみは・・・見た目は可愛かったし縫い目とかもしっかりしていたが、何やら薬品臭くって源之助があっという間に逃げてしまった。
まあ、源之助は嗅いだ事が無い臭いに驚くと逃げる習慣があるだけなのだが、ちょっと人間にも刺激臭が強かった。
そこでお洒落着用液体洗濯洗剤を溶かし込んだぬるま湯で半日漬け洗いし、さらにもう一度洗ったら匂いは殆ど落ちたのか、やっとそばに寄ってくる様になった。
「・・・これって今回は良いけど、次回からシロちゃんが憑いている状態で洗濯機に入れたら目が回らない?」
ベランダに外干しして良い感じにふかふかになったぬいぐるみを抱きしめていた碧がふと呟く。
『分体の方に意識を移しておけば良いにゃん。
シロちゃんも本体と分体とで意識を移す練習をしておくにゃ!』
使い魔契約は碧が主人、シロちゃんが契約した霊だが、どちらもあまり慣れていないのでコツについては私とクルミが指南する事になっている。
今回の使い魔契約は私の魔術が役に立った数少ない機会だった。
まあ、白龍さまでも似た様な事は出来ただろうが、ぬいぐるみと少量の魔力を使う節約型使い魔契約と言うのは氏神さまにはあまり縁が無い技術らしいので、碧が自分の霊力で賄いたいと希望した今回は私が間に入ったのだ。
「みゃぁ!」
シロちゃんが入った事で動く様になったぬいぐるみの尻尾が揺れ始め、それに興味を惹かれた源之助が飛び掛かろうとして届かず、不満の鳴き声をあげた。
「お〜よちよち、こっちで遊ぼうね〜。
シロちゃんの尻尾はオモチャじゃ無いのよ〜」
碧がシロちゃんを下ろし、赤ちゃん語で源之助に声をかけながら猫じゃらしを振る。
何故か子猫って赤ちゃん語(って言うのかな?)で話しかけたくなるよねぇ。
ちなみに、結局源之助を咥えて動かせるだけ口の稼働範囲が大きなぬいぐるみは見当たらず、源之助が悪戯をしているのを止める際にはシロちゃんが本体を間に押し込んで源之助を押し退ける事で悪戯を止める事になった。
試したらちゃんと出来たし、柔らかいぬいぐるみの体で押されても源之助は遊んでもらっていると思ってご機嫌だったので問題は無さそうだ。
源之助が大きくなりすぎて今のぬいぐるみで押しやれなくなる頃には・・・あの子も成長して危険な遊びはしなくなっていると期待したい。
ちなみに、隣家のオバサン犬霊との顔合わせは問題なくいったらしい。
時々一緒に散歩に行こうと約束したと話していた。
ちょっとした熟年ロマンスかね?
まあ、どっちも子供は作れないから寄り添うだけなら問題ないし、それこそシロちゃんが希望するなら隣のオバサン犬霊を使い魔にしてもいいんだけど。
一応話を持ちかけてみたら、隣の中年男性の事が心配らしいのでそれはまだ待ってくれと言われた。
どうやら心残りの対象がまだそのまま存在しているらしい。
これだったら源之助の子守りを頼み込んでも断られたっぽい感じなので、シロちゃんが応じてくれてラッキーだった。
さて。
「シロちゃんは問題なく動ける様だし、源之助も家に慣れて来たみたいだし、もうそろそろ青木氏が依頼してきた不動産霊障簡易鑑定の依頼でも受ける?」
ロクデナシの案件でそれなりに潤ったが、源之助だけでなくグッズも色々買いまくったし、もうそろそろ仕事をした方が良いかも?
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