共同生活
新しい家族
第66話 ペットと使い魔
新居に引っ越した。
少ない筈の荷物なのに何故か片付くのにやたらと時間がかかった段ボールがやっと全て消えたと思ったら、碧が突然朝食の場で意外な提案をしてきた。
「猫を飼いたい」
今日は木曜日なのだが、碧も私も授業は午後からだけなのでのんびりと和風な焼き魚とご飯にお味噌汁の朝食を食べていたのだが・・・。
「どうしたの、突然?
炎華も十分猫っぽいと思うんだけど」
こちらの事を気にせず日当たりの良い場所で昼寝ばかりしているなんて、正しく猫だ。
まあ、気が向いたら撫でさせて喉を鳴らすという芸はしないけど。
「餌をあげて撫でて一緒に寝たいのよぉ〜。
見て、今ではあちこちに保護猫を世話して里親を探しているNPO法人があるんだって!」
碧が夜中に目を通していたらしきウェブサイトをタブレットで見せてくれた。
あ〜。
春先に妊娠して生まれて保護された仔がもうそろそろ引き取り先を探す時期なのか。
だけどなぁ。
「ペットショップやブリーダーでお金を出して買う分には煩い事を言われないけど、こう言う保護猫紹介の団体って何故かやたらと上から目線だから、学生二人の共同生活なんて多分断られるよ?」
以前、近所の知り合いが引き取ろうとしてビックリするほど上から目線な質問を答える羽目になった上に断られたのだ。
就職先から収入額、将来家を買ったり引っ越す予定はあるのか、大よその毎日の留守番時間や獣医を見つけてあるか、そこの休館日のカバーは考えてあるのか、窓や玄関に脱走防止策を施しているか等々、『そこまでしなくちゃ猫って飼えないの?!』とその知り合いは叫んでいた。
我慢してプライベートな事まで答えたのに、結局一人暮らしの勤め人では留守番の時間が長過ぎて子猫の面倒は任せられないと断られていた。
多分扱いが難しくて人気の無い成猫だったら引き取れたんだろうけど、その知り合いは折角だから子猫の可愛い時期も楽しみたいと希望を曲げなかったのだ。
その後、彼女はブリーダーから猫を買って十分問題なく猫と共同生活していた。
結局、保護猫って言うのがやたらと扱いが難しいのか、それとも保護猫紹介の団体が神経質になり過ぎて非現実的な事を要求しているのか、不明だ。
だが、取り敢えず将来独身寮に入ったり転勤したりするかもしれない学生では引き取らせてくれないんじゃないかね?
「え、マジ?
保護猫って里親を求めているんでしょう?」
碧が眉を顰める。
「最近は野良猫の避妊手術をするNPO団体が増えて保護猫自体も減っているし、里親になろうとする人も多いから健康で五体満足な子猫の貰い手にはそれ程困っていないんじゃないかな?成猫で人間を信頼していない様な『野良猫』タイプは里親になってくれる人を常時探しているんだろうけど。
私らは起業して研究開発しつつ退魔師として生きていく予定だから、ここか、ここと同等の物件に住むのはほぼ確定しているけど、普通の学生だったら卒業後は独身寮に入ったり、狭いペット不可なワンルームに暮らしたり、下手をしたら就職し損ねて実家に戻ったりする訳じゃない?
そうなるとちゃんと猫の面倒を寿命が尽きるまで見るか分からないって見做されると思うよ。
実家に協力してもらって、実家に住んでいる事にして家族で飼いますって嘘をついて引き取ってから連れてくるなら可能だろうけど」
碧が唸った。
「行き先のない保護猫を引き取ってあげたら丁度良いと思ったんだけど、駄目かぁ。
嘘ついて家族を迎えるのもアレだしねぇ」
「炎華でダメなら、猫の霊から使い魔を造る?
猫の縫いぐるみにこないだの石英を入れれば喉を鳴らせるぐらいに再現度が高い猫の使い魔も可能だよ?」
「どれだけ可愛くてもそれって死んだ霊をベースにした使い魔でしょう?」
碧が渋い顔をした。
「猫の霊だから同じぐらい気まぐれだよ?
しかも病気にならないし、おしっこでマーキングしたりしないし、泊り掛けで出かけても餌を初日に食い尽くしてお腹を空かしているんじゃないかって心配しなくて良いし。
しかも意思の疎通が出来るから不満があったら話し合える!」
まあ人間と違って『話し合う』事が出来ないところがペットの良い所なのかもだけど。
「でも、死んでるじゃん!
病気だったら治せるし、オシッコはちゃんと躾ければ猫は綺麗好きだって言うし!
やっぱり暖かい本当の体が良いよ〜!」
碧が叫ぶ。
『死んでてもお腹が空かない程度でそれ程違いはないにゃ?』
私たちの話し合いを眺めていたクルミが口を挟む。
私もそう思うんだけどねぇ。
でもまあ、生きた猫の温もりが欲しいなら・・・死霊じゃあダメだよねぇ。
元が猫でも。
「白魔術師の碧に死霊から始めるって言うのはハードルが高いか。
普通の猫を飼って、死んだら使い魔化するのもありだよね。
追加に魔力を使えばそのままの体でキープ出来るし」
死体だから餌を食べたり排泄したりはしないが、魔力が足りればほの暖かさを保って喉を鳴らす程度の擬態は可能だ。
人間サイズのアンデッドを生きているかの様にキープするにはかなりの量の魔力を必要とするが、体が小さく、生きていても寝てる事が多い猫ならそこまで厳しくは無い。
寝てばかりいる使い魔ってどうなの?と言う気もしないでも無いが。
「最近は猫も20年近く生きることもあるらしいから、死ぬことはまだ考えなくて良いよ。
それより、保護猫を引き取るんじゃなかったら、ペットショップかな?」
タブレットでペットショップの検索を始めながら碧が言った。
なんか随分と前のめりだねぇ。
そんなに猫が飼いたかったの??
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