第49話 会社名
「まあ、幸いにも私らは二人とも借金は必要ないから、適当にやっていけばいいんだけどさ。
まず最初の関門が・・・」
碧が勿体ぶって言葉を切る。
「関門が?」
「会社名をどうするかよ!
最近はオンライン決済の会社とかが会社設立のサポートまでオンラインでお手軽に手伝ってくれるんだけど、まずは社名を決めない事にはどうにもならないの!」
成る程。
「『魔女の宴』とか、面白そうだけど親や知り合いに就職先として言えないからダメだね。
ちなみに、表向きは何をやっている会社とする?」
流石に悪霊退治や符販売の会社とは言えないだろう。
・・・言えないよね?
「つうかさ、退魔師とか魔術師ってなんでオープンになってないの?
政府が発見報告で所得税免除するとか正式に存在を認めているんだから、もっとオープンに一般市民にも知れ渡っていても良さげだけど・・・実際は魔術も霊力も迷信だと思われてるよね?」
前世の記憶が覚醒するまで、私は魔術師なんて居ないと思っていたし霊っぽいモノが目に入っても目の錯覚だと信じていた。
私の家族も友人も同じだったから、覚醒してからも前世とか転生とか魔術とかに関して人に話せなかったのだ。
が。
転生はまだしも、実は魔術や退魔師は実在していると国が認めていたと言うのだから、びっくりである。
だったらもっとオープンにしてくれれば私もあれだけ悩まないで済んだのに。
「紀元前の頃はどこでもオープンだったんだって。
だけど一神教のキリスト教やイスラム教が広まるにつれて、宗教母体が魔術を自分達の権威への脅威になると思ったのか魔術を悪だと断じて魔女狩りを始めたせいで、魔術師がオープンに自分の能力を公開しないようになって・・・いつの間にか迷信だと思われる様になったみたいね。
魔女狩りが行われない時代になった頃では既に魔術よりも近代武器と数の暴力の方が強くなっていたから、下手に魔術師だなんて言い出して暗殺とか言った影の職業に押し込まれるのを嫌がった魔術師が多かったらしいよ。
彼らが頑張ったせいで、魔術に関して公開しようとすると詐欺師扱いされて有耶無耶にされるようになったの。
日本は明治維新の際に欧米を見習って『退魔師は迷信だ』路線を進むことを政府が決めたのが大きいみたいね。
明治維新で社会が激変した際に、退魔師も迷信の一部だと思い込まれるようになったの。
それでも戦前までは一応老人なんかは実情を分かっていたんだけど、日本を占領したGHQのトップが魔術師を知らない人だったせいで教育とか法規制からも退魔師の言及が消されて、気が付いたら日本でもすっかり迷信とされちゃった訳」
肩を竦めながら碧が説明してくれた。
なる程。
黒魔導師時代は魔素が世界に満ちていて、元素系魔導師なら戦場の趨勢を変え兼ねない程の攻撃能力を有していた。
戦争での切り札になるから国は魔導師になれる人間の発掘と教育、確保に真剣だったし、戦略級魔導師でなくても日常生活の中で魔術師は色々と役に立っていたので、魔術は生活の一部だった。
だが地球の魔素濃度では・・・ミサイルや機関銃どころか自動小銃クラスにすら魔術師が勝てない可能性が高い。
生活での実用性も然程ないし。
便利な収納とかは治安上の必要から利用法を制限されちゃっていて、利便性が大きく落ちている。
それこそ白龍さまの様な氏神さまが協力すれば一時的にならどんな敵でも押し返せるし奇跡だって起こせるかも知れないが、大々的な戦争になったら白龍さまクラスですら一国を守りきるのは無理だろう。
そうなると・・・魔術師や退魔師でなければ出来ない役割は悪霊退治程度へと一気にランクダウンする。
治療も一国に一人いるか否かな聖女レベルの適性持ちが居れば現代医療を凌駕出来るが、そんな治療が必要な病人の数と回復が出来る人間の希少性と魔力の回復量を考えると出来る事は限られてしまうし。
だとすると、下手に呪いや悪霊が実在すると広く知らしめない方が良いのかも知れない。
恨み辛みで悪霊になって復讐しようと自殺する人間が増えたら堪らない。
「そっか。
じゃあ現状の非公開状態はまず変わらない、と。
う〜ん、ウチらがやる事で一般にオープンに出来る事って言ったら健康グッズの研究開発と販売ぐらいかな?
だとしたら・・・『快適生活開発研究所』とか?」
私の安眠符と碧の肩凝り解消符のどちらも、それっぽい形と理由付けをして売り出せたら上手くいけばそれなりに人気が出てもおかしくない。
何と言っても、使ってさえみれば実際に効くんだから。
実際には悪霊退治と回復や収納の符からの収入がメインになるとしても、業界外の人間への説明には悪くないと思う。
「う〜ん、ちょっと野暮ったいから『快適生活ラボ』でどう?」
碧が代替案を出してくる。
「うん、良いんじゃない?」
野暮ったくない名前は重要だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます