第48話 世知辛い職業訓練事情

「賀茂 雅也かぁ。

退魔協会も本気で来たね。

賀茂家の有力分家の長男だよ」

あと1日でオリエンテーション研修が終わるので、折角の質問受付コーナーを活用しようと私は碧の家に普段だったら直ぐに協会が答えてくれないような質問が何かあるか聞きに来た。


ついでに状況を説明したところ、碧が呆れたように呟いた。

「知ってるの?」


「そりゃあね。

藤山家だってそれなりに旧家だし、何と言っても私は数少ない現世に出て来て実際に助けてくれる氏神様の愛し子だからね。

賀茂家も乗り気だったらしいよ」


ふうん。

碧で躓いたから、そのパートナーになる私で代用しようとしてるのかね?

退魔協会の情報共有、早過ぎ。

個人情報の保護はどうなった??


「やっぱりアイツもロクデナシ?」

研修の印象では軽薄で考え足らず。

でも極端に悪人という感じでは無かったかな?

友人としても恋人としても要らないが、見たくも無いと思うほど酷くはないと言った感じだったが。


「悪霊退治に活躍している格好いい自分が好きすぎて、結婚とか子供に時間をかけるつもりは無いみたいだったね。

いつか結婚しなくちゃならないから、煩く拘束しようとしないなら結婚しても良いよって言われたわ」

肩を竦めながら碧が答えた。


「なにそれ?!

随分と上から目線ね」


「まあ、私が高校生2年でアイツが大学卒業間際ぐらいの時期だったから、色々ストレスが溜まっていたのかも?

少なくとも『体に言い聞かせよう』とか考えるタイプじゃなかったから協会から斡旋されたパートナー候補の中ではマシな方ね」

凄いな。

それでマシなのか。

一体退魔協会はどれだけ男尊女卑なの??


雅也氏は多分そんな本音丸出しのセリフを他のパートナー候補にも吐いたのがバレて怒られたんだろうなぁ。

少なくとも今回はもう少し取り繕って誘ってきている。

一体賀茂家は何を餌に私の誘惑を彼に合意させたんだろう。


「同期になった少年も父方は賀茂家らしいんだけど、一般人の母親と結婚した際に父親は勘当。

そして交通事故で死んだ父親の葬式に来た弁護士は、才能持ちの蓮少年と妹は賀茂家で養子として引き取っても良いけど母親と弟は生活保護でも頼れって言ったんだってさ。

ちなみに、蓮少年は父親が霊力の使い方を教えていたから退魔師として働けるけど、教わってなかった場合はどうなっていたの?

退魔協会の研修は悪霊退治の方法を知っている前提で進められてるけど」


碧が溜息をついた。

「協会も、退魔師が足りないって煩く騒ぐんだからもう少し訓練の方もなんとかすりゃあ良いのにねぇ。

現状では、霊力の使い方が分からない場合は誰かに後見して貰う必要があるの。

まず、弟子入り料の相場が大体100万円。

毎年の授業料も大抵は100万円ずつ。

独り立ちできると認められるまでは依頼に後見人か補助役の人がついてくるから、報酬の半額は没収。

普通は一気に何百万円も払えない人の方が多いから、退魔協会がローンでお金は貸してくれるし、借金漬けの奴隷もどきにされない様にちゃんと訓練を受けている事や、能力が本当に独り立ちに達していないかは抜き打ちで退魔協会が調査する。

とは言え、後見人として斡旋されるのは協会幹部の一族が多いから、抜き打ちって言ってもどれだけ抜き打ちかは不明だけどね」


「うわぁ。

普通に一般人として暮らす方が良くない?」


前世での魔術学院での教育は最低3年、長いと5年は掛かった。

それでも基本的に国が資金提供したから借金漬けにはならなかった。

借金を返せなかったら隷属化なんて言う様な条件では無いとは言え、入門代と授業料で600百万円もの借金を背負うぐらいなら・・・普通に奨学金を貰って大学に行って会社勤めする方が良さそうだ。


「バンバン悪霊退治が出来る才能があるなら600万円の借金でも数年で返せるって退魔協会が言い聞かせるのよ・・・」


「借金しまくった挙句にバンバン倒す才能がなかった場合は?」

魔力量が少ない、もしくは戦い方が下手な場合、倒せる悪霊もショボいのになるから収入もショボくなる。


まあ、背伸びして危ない橋を渡って死んだら・・・退魔師としての仕事で死んだ場合の協会による遺族補償はしっかりしているから家族は安泰かもだけど。


いや、考えてみたらローン契約に生命保険が付いているかにもよるか。

退魔師として働けるだけの技能をちゃんと教え込んでくれなかった弟子入りや授業料のローンで遺族補償が相殺されたら切なすぎる。


どちらにせよ、退魔師としてがっつり稼げないなら借金を負う意味は無いだろう。

だけどそこら辺はしっかり力の使い方を学ぶまでは分からないことが多そうなのが問題だよねぇ。


溢れるほどに魔力があるなら最初から分かるが、魔力過多だと子供のうちに精神病になったり事故死することも多い。


魔力の使い方を身に付けなかったのに無事に気も狂わずそこそこの年齢になれた人間と言うのは・・・魔力があまり多くない可能性も高いのだ。


「期待していた程才能がなかった場合は一生退魔協会に借金で縛られた下っ端になるわね。

上の言う事に全く逆らえない協会職員なんてそれの典型例らしいよ」


マジか。

何とも世知辛い。







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