第47話 蓮少年
ちなみに、蓮ママは退魔能力持たない完全な一般人らしい。
父親はそれなりに歴史のある退魔師の名家に生まれたらしかったが、一般人の母と恋に落ちて結婚した段階で勘当されて一族の事務所(やっぱあるらしい)からも追い出された。
母親は一人っ子だった上に両親が既に他界しており、親族的なサポートがない事に蓮パパはそれなりに危機感を抱いていたので、比較的早い段階から蓮少年に退魔師の技術を教え込んでいたそうだ。
退魔協会には報告していなかったがこっそり悪霊退治にも連れて行って経験も積ませていたので、今回の登録も蓮少年的にはごく自然な流れらしい。
「ちなみに、お父さんが亡くなられて親族の誰かが手を差し出してくれるなんてことは・・・?」
言うことを聞かなかった本人はまだしも、子供に罪は無いのだ。
「俺と、才能持ちの妹は養子として一族に引き取っても良いって葬式に来た弁護士が言ってたよ。
才能を継がなかった弟と母親は生活保護でも受けたらどうだってさ」
むっつりと蓮少年が答えた。
うわ〜。
「そのロクデナシな一族の名前って高木家なの?
ちょっと近寄らないようにしたいんだけど」
もしもいつの日か、『ちょっと良いな』と思う男に会ったとしても、この蓮少年の父方の親戚だったらやめておこう。
「いや、高木は母親の名字なんだ。
父親の方は賀茂とか言うらしい」
・・・なんか聞いたことがありそうな名前?
歴史に出てくる様な名家なのかも。
まあ、名家だろうが歴史があろうが、ロクデナシになって良い理由ではない。
近づいてきたら即スルーだな。
業界の事や悪霊退治の事など色々話し合って(と言うか私が蓮少年を質問攻めにして)いたら、開始時間5分後になって会議室の扉が開き、そこそこ整った顔立ちの若い男性が入ってきた。
「やあ、長谷川さんと高木君だね。
賀茂 雅也だ。普段は退魔師として働いているんだが、職員の都合がどうしてもつかないとかで今回のオリエンテーション研修を頼まれた。
講師としては不慣れかも知れないが、5日間よろしく」
おいおい。
ハニトラで同期に突っ込む人員を見つけられなかったからって講師枠で入れてきたの?!
しかも賀茂ってことは蓮少年の父方のロクデナシな一族?!
どう考えても蓮少年が居る場で賀茂家の人間を使うのは間違いだろうに。
他に若い男がいないんかい。
意外と退魔師の業界も人材不足なのかね。
それとも退魔協会のハニトラ/パートナー/お見合い手配係がお馬鹿なのか。
「「・・・よろしくお願いします」」
思わず一瞬絶句した私と蓮少年だったが、図らずも声を揃えて返事をした。
ちゃんと教えるべきことを教えてくれよ〜?
資料だけでもしっかり目を通した方が良さそうだな。
これは偏見かもしれないけど、顔が平均より良い名家の若い男って大抵能力的(特に事務的な方向)には平均以下な事が多いんだよねぇ。
周囲が忖度して事務作業は頼まなかったり、何か間違えていても軽く注意する程度で(場合によってはそれすら無く)修正してあげたりするから、よっぽど几帳面で真面目なタイプ以外は本人が思っている能力が実際の能力の5割増しぐらいだったりする。
本人はちゃんと出来ていると思っているから改善しようともしないし。
ある意味、本人も不幸な状況の被害者と言えるかも。
まあ、流石にハニトラにせよ非公式お見合いにせよ、あまりにもこいつが馬鹿で私が怒ったら意味がないから極端に無能ってことは無いだろうけど。
それでもお偉いさんは細かい点なんかどうでも良いって考えてそうだけど、大丈夫かなぁ。
と言う事で研修が始まった。
基本的に賀茂雅也が資料を読み上げる。
だけ。
事務手続きなんてしないのか、自分の失敗談を語るという手法も使えないらしく・・・マジで退屈だった。
何か質問しても、最初の2回ほど安易に答えて間違えを蓮少年に指摘されてからは、全て『確認するから』と言う返事になった。
しかも2日目からは中年の女性事務員が記録係という名目で静かに会議室の後ろの方に座るようになり、彼女がメールか何かで質問を伝えているようで毎回休憩になると誰かが教室に上がってきて書類を賀茂雅也に渡し、それを彼が私達に読み上げると言う形になった。
誰だよ、こいつを講師役に選んだの?
無能すぎて笑えてくる。
その癖、毎日講義が終わった後に『一杯飲みに行かない?』とか『美味しい店を知っているんだけど、そこが良い魚(やジビエやその他素材)を仕入れたらしいんだけど、どう?』と誘ってくる。
はっきり言って、資料だけ貰って自習式にした方が効率的だった。
まあ、賀茂家の威信にかけてなのか、どんな質問も次の休憩までに答えを出してきてくれるのが便利って言えば便利だったが。
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