第32話 符作成:ある意味、予想通り

「やっぱりダメか。

こんなに沢山の魔素入り和紙を無駄にして、ゴメンね」

結局、スリプルの符に成功した後に火、水、風、土、雷、氷の元素系と回復術(回復と解毒)の符に挑戦したのだが・・・どれもダメ。

高額な(と思われる)和紙を8枚無駄にしただけだった。


「いいのいいの。

失敗して和紙を無駄にするのはよくある事だから。

だから今回は練習用にと思って品質クオリティチェックで落とされた奴を持ってきたんだし」

呑気にクッキーを齧りながら碧が言った。


品質クオリティチェック。

そんなモノがあるのか。

まあ、野菜ですらサイズや形、見た目などでそこそこの数が売れないと見なされて破棄されるのだ。

その何十倍以上もする符やそれ用の和紙なら、見た目に多少でも問題があったら落とされても当然か。


お陰であまり心労なしに練習できるので、ありがたい。

「そんじゃあ次は、魔法陣を試してみるね」


魔法陣なら和紙に魔力を込めて刻むだけなので、簡単な筈。

今までは魔力を保持できる素材が無かったから数日おきに魔力を補填するタイプの魔道具モドキしか作れなかったが、この和紙なら大丈夫だろう。


「取り敢えずは・・・眠りの術でも刻んで、さっきの符と比べてみようか」

霊視の術を使って先程の符を確認し、ほぼ同量の魔力を込めるよう集中しながら眠りの術の魔法陣を刻み込んでみた。


すぅっと魔力が和紙に刻み込まれ、定着する。

和紙が魔力を保持しているお陰で、前世の魔石使用型と似たような感じに完成している。魔石のように動力源を付け替えられないが、数回程度だったら和紙に魔力を充填できそうだ。


「うっし。

ちゃんと出来たみたい。

ちなみに、使用制限はどうやって付けるの?」


比較的安全な眠りの符だって、うっかり子供が悪戯で運転中の母親にでも使ったりしたら大惨事だ。

前世だったら自分の魔力を流す事で起動するようにしていたから幼児が使ってしまうなんてことは無かったが、こちらの世界の符はそう言うタイプでは無いっぽい。

今回は使う意思さえあれば貼った瞬間に起動するようになっているが・・・このままでは危険過ぎる。


「あ"。

ゴメン、言うの忘れてたけど使用制限は符を作る時の文言なり、紋様なりの一部にしなきゃいけないの。

完成してからは修正出来ないんだ。

それとも、凛の前世では修正出来た?」

碧が済まなそうに謝りながら言った。


どうせ使っているのは碧が持ってきた和紙なので、無駄になっても構わないだろうに謝るなんて・・・人が好いねぇ。


「土系の適性があると素材をリセットしてもう一度魔法陣を刻み直せたんだけど、私の適性では無理ね。

取り敢えず、この二つの符を今晩と明日の晩に使ってみてくれる?

ちゃんと機能するか確認したいから。

そんでもって改めてもう一枚符を作ってみるから、使用制限の方法を教えて」


さっさと収納の符に取り掛かりたいが、使用制限は重要なので先にマスターしておくべきだろう。

収納だったら使用制限が無くてもそれ程問題は無いかも知れないが、安眠や痛み止めあたりの符なら退魔協会経由で売れるかも知れないので、これらに使用制限を付けられる様になっておく必要がある。


それに収納の符だって、子供がこっそり使って変な物を隠し持ってしまっては困るだろう。

まあ、使い捨て型なので『隠し持つ』事よりも高額な符を『こっそり使う』事の方が現実的な問題になるかな?


「使用制限は符の文言を書く時の最初か最後に『未成年及び精神に異常のある人間は使用不可』って書いても良いし、もしくはこの紋様でもほぼ同じ効果だよ」

碧がファイルの最後のページを開けて何やら花びらが所々抜けた薔薇のような模様を見せてくれた。


「・・・この細かい紋様を、他の部分と一緒に一線たりとも間違えずに墨が乾く前に書き切るの?

ちょっと厳しく無い??」

普通に『未成年及び精神に異常のある人間は使用不可』と書き込むので良い気はするが、来世で魔道具に使用制限を付与する際に露骨に異国の文字っぽい文言を書き加えるのは危険かも知れないので、出来れば魔法陣にどさくさ紛れに使用制限の紋様を付け加えてしまいたいのだが・・・可能なのか?


「ガンバ!」

にっこりと碧に微笑まれた。


「ちなみに、この『未成年』って18歳?それとも20歳?」

20歳で自分も使えなくなったりしたら笑えるのだが。


碧が肩を竦めた。

「『未だ成年になって無い』って事で作成者が子供と認識している年齢になるみたい。

だからお年寄りが作ると20歳になるし、私が作ると15歳ぐらいかな?」


おっとぉ。

作成者によって制限年齢が変わるとは。

まあ、それこそ高校を卒業するぐらいまでは符なんぞ必要になるような危険な事はしないのが一番って事かな?

高卒で退魔師として働き始める場合、符の購入は要注意かもだが。


それはさておき。

取り敢えず、最初は適当なDMの裏を使って練習してみた。


が。

「だぁぁぁぁ!

また切れた!」

一筆書きしなければならないと言ったような条件は幸いにも無いのだが、途中でうっかり筆が浮いてしまって線が切れるとどうしても紋様が変になるのだ。


「こことここで息を吸う感じで筆を上げて一息つきながら書くと失敗しにくいかも?」

三度目に失敗したところで、アイスを手に台所から戻って来た碧が紋様の二箇所を指で指しながら教えてくれた。


「取り敢えず、模様を暗記してスラスラと書けるようにするわ。

ちなみに、筆じゃなくて万年筆でも使ってインク代わりにこの墨を使うんじゃダメなのかな?

筆には馴染みがないから相当やりにくいんだけど」

筆だと毛先の方向とかも気にする必要があるし、丁度いい高さで筆をキープしなければならないしと、紋様を書くだけで一杯一杯な私にはかなりきつい。


「筆を使って書く方が本物っぽく見えるから高く売れるんだけど、自分用だったらガラスペンとかが一番お手軽かな?

インク代わりの墨は毎回磨らないとダメだから、万年筆だと濯ぐのが面倒なんだよね。

だけど、考えてみたらさっきの魔法陣を刻んだこれって筆もペンも使ってないのにちゃんと力が籠ってるけど、同じように出来ないの?」

テストして貰う為に渡した符の試作品を手に取って、何も書かれていない表面を見ながら碧が言った。


あ。


そうだった。

魔法陣を直接和紙に刻んだ方は、魔力で刻んだだけだった。


ちなみに、後から使用制限を付け加えられない事が判明し、碧がテストするだけだったら偽造用の紋様を書かなくてもいいやとそのまま碧に渡した符は見た目は何も書いていない白紙状態。


偽造用の紋様の練習も必要だが・・・確かに、符の作成自体は魔力で直接刻む方が楽そうだ。

「出来てもおかしく無いよね、考えてみたら」


馴染みのある魔法陣と形の傾向が違うのでやり難いが、筆で書くよりはマシだろう。

多分。

墨代も節約できるし。


うっし、頑張るぞ!










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