第24話 お洒落はハードルが高かった

「これ、ぼろぼろ外れちゃう〜」

「あ、千切れた!」

「ぎゃぁぁ、手に刺さった!!」


ラノベ生活クラブは久しぶりに活気に包まれていた。

残念ながら、叫び声の中身は微妙だが。


符を学ぶのは来週からと言う事になり、それなら先にこちらをと八幡先輩を誘って藁編みの試みを再開したのだが・・・全く経験の無い、動画を見ただけの大学生が藁からお洒落な籠を作ると言うのはちょっとハードルが高かった。


動画では手際よくすいすいと分かりやすく解説しながら作っていたので、簡単に出来そうに見えたのだが・・・世の中、そこまで甘くは無かった。


まあ、考えてみたら異世界で収入源になると思ってマスターしようとしているのである。

さらっと見ただけで習得できるのではあっという間に真似されて終わりだろう。


あの懇親会モドキの前に、届いた藁を個々人用に分けて作る予定のお洒落な籠のデザインを解説している動画も各自ネットで見つけておき、人によっては必要そうな図のプリントアウトも用意してあったのだが、まだ作業を始めていなかった。


そこで八幡先輩に声を掛けてもらってサークル活動を再開したのだ。

意外にもリサーチ派も何人かおずおずと参加してきた。

どうも遠藤あの女とその取り巻きに嫌味を言われるから検証派に近付かなかったが、実は興味があったらしい。


まあ、元々ラノベ生活を研究したいと思ってサークルに入った人達なのだ。

興味がある者が多くて当然と言えよう。


想定外に参加人数が増えた事で藁が多少足りなくなったが、作る予定の籠を一回り小さくしようと話し合い、藁を再配分して皆でスタートした。


が。

実際に始めてみて、お洒落で複雑な模様を目指していた私(とその他ほぼ全員)は思い掛けぬ挫折を経験していた。


籠ぐらい簡単に作れると思って、内心では自信満々だったのだが・・・。

自分の場合、寒村時代は基本的に自給自足生活で籠も自作していたのに。


残念ながら、どうやら籠作りは体で覚える類いの技能だったらしい。

知識は一応残っているが、指先が思うように動かずサークルの他の皆と同様にばらばらと藁が崩れてしまう。


魔術は魔力が足りない以外は問題なく使えたので、籠作りもそれなりにスムーズにいくと思っていたのだが、どうも脳裏にある知識は魔術としてなら問題なく出力アウトプットできても、体が実行する系の作業はダメらしい。


思うように指が動かず、イライラしながら藁を編み込んだのだが、お洒落な模様どころか基本的な『物を入れて持ち上げても壊れない』だけの完成度すらない籠未満になってきた。

これでは売って収入を得るのは程遠い。

それこそこのままでは自分の畑で育てた野菜を収穫するのにすら使えなさそうだ。


(これって折角習った合気道や薙刀も来世で役に立たないってこと?!)

思わず内心で叫びをあげる。


来世は準備万端だぜ〜!と密かに思っていたのに、この調子では訓練の仕方や技の形の知識はあっても、ネット動画を見て覚えた素人と同じで実際に時間をかけて鍛錬しないと全く役に立たないという事になるにではないだろうか。


来世こそスタートダッシュだ!と内政チート的と言わずとも、少しは楽な展開を微妙に期待していた身としてはちょっとガッカリだ。


毎回全ての人生で肉体作業的な事を全部一から学び直さなければならないとは・・・考えるだけでうんざりである。


◆◆◆◆


「う〜ん、中々現実は厳しいね」

机の上に並べられたヘロヘロな籠の数々を見て、八幡先輩が苦笑混じりに言った。


「これ、物を乗せたら崩壊しそうですね」

昔取った杵柄と言うか、一応どの程度の強度が無いとダメかは分かっているので私が作った籠は時間は掛けたものの最終的には一応実用に耐えられる物になったと思う。

見た目はとっても、切ないぐらいにお粗末だが。

他の人のは8割がた、ティッシュより重い物を入れたらあっさり底が抜けるだろう。


「もうちょっと藁を購入して腕を磨きましょう!」

碧が提案する。


「そうねぇ。

ちゃんとある程度お洒落な柄のを作れるようにならないとね。

取り敢えず、今晩にでも再挑戦する人数を確認してオーダーしとくね」

八幡先輩が言った。


先輩なのに自分で動くなんて、良い人や〜。

お陰で楽できて助かる。


まあ、やっていた何人かはうんざりって顔をしていたから籠作りはもう良いって辞退してきそうだけど。


籠が出来上がったらバスケットとかバックパックを編むのも提案したかったんだけど、遠慮して自分一人でやるべきかもなぁ。

一応提案だけはしておいて、不評だったらあまり押さずに他の人の意見に流されておこう。


両手を空けて動けるバックパック的な容器は重要なんだけどねぇ。

とは言え、街中で迂闊に使うとガンガン中身をスリに盗まれるだろうから、街の中で使う際には入れる物をあらかじめ吟味しておく必要があるが。


冒険者になる考えはほぼ捨て去ったので、極端にバックパックに固執する必要はないんだけどね。

とは言え、藁だけ有れば出来る籠編み系は準備的な面ではダントツに楽で、空き地にススキみたいな雑草が無い様な先進国の都市部に生まれない限り現実的だと思うだよなぁ・・・。


手軽に作れてお洒落っぽく見えるデザインを頑張ってネットで探してみよう。







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