第25話 代替収入案

「そう言えばさ、悪霊退治と呪詛返しは良いにして、退魔師にとって符の他に収入源はないの?」

微妙な籠編みが終わった後、碧の家に遊びにきた私はついでに将来の収入源の代替案ついて聞いてみた。


前世では土木工事なんかも元素系魔導師の収入源だった。私みたいな精神に効く系の能力だったらトラウマ治療とか不眠症対策なんかも出来る。


それとも精神治療系も普通の医者と同じで業界団体が邪魔するのかな?


「う〜ん?

普通の地鎮祭なんかはウチの実家の主たる収入源だけど、それは違うよね?」


「・・・ちなみに、地鎮祭をやるような神社のうち、意味のある退魔能力を持っている宮司がいるのって何割ぐらい?」

思わず違う方向に気が逸れる。


「普通の値段だった3割ぐらい?

ヤバい場所だって事で特別料金を払ったら退魔協会から助っ人も行くんで、悪徳神社に引っ掛かったんじゃない限り100パーだけど」

碧が肩を竦めながら答えた。


それでも普通に頼んだ神社のお祓いとかで約3割は本当の効果があるのか。

お祓いを頼む際に諦めずに三か所回れば何とかなるかも知れないと考えると、悪くない確率かも。


「例えばさ、成仏前の亡くなって直ぐな人とかペットの霊と話を出来ますよって言うサービスとかは?

あ、従属魔術を使えば生きてるペットの躾も出来るよ?」

流石に集中力を上げるとか、記憶力アップとかは短期間しか効果がないのでサービスとしての提供は難しいだろう。


碧が微妙な顔をした。

「退魔協会登録していない推定詐欺師だったら霊媒師として何をしようと規制は掛からないんだけどねぇ。

本物を呼び出しちゃう私らは、死者の2親等以内、もしくは法定相続人の依頼じゃないと霊の呼び出しは禁止されているの。

ペットは問題ないと思うけど」


「何で本物だけ規制??」

まさか詐欺師メインの偽物による業界団体の圧力って事はないでしょうに。


「以前退魔師と結婚した税務署の人が、亡くなった富豪を片っ端から旦那に呼び出して貰って隠し財産の詳細を聞き出して相続税の脱税を摘発しまくってね。

丁度金持ち連中がそれに気がついてなんとかしようとロビー活動を始めた時期に政治家の大物が亡くなって、その税務署の人が脱税情報に加えて政治献金の不正や賄賂の情報まですっぱ抜いちゃって。

しかも亡くなった政治家本人だけでなく、まだ現役な党の有力者の情報も含めて検察庁に提供したの。

あっという間に『死者のプライバシーの不当な侵害だ』って流れになってひっそりと規制法案が通っちゃったって訳」


なんと。

正義を貫かれるのは不都合だと政治家と富裕層に思わせちゃったのね。

「目の付け所は良かったのにね、残念。

もっとしっかり富裕層や政治家の脱税を取り締まれれば、日本の債務超過も少しはマシになっていただろうに」

戦後に富を築いた金持ちな高齢者がもうそろそろ寿命を迎える時期なのだ。黒魔導師を税務調査に活用すれば国にとって大幅な税収アップになり、私の魔術も世の役に立てる可能性もあっただろうに、勿体ない。


「本当にそうね!

私が大人でそう言うのを知っていたら、白龍さまにお願いしてそんな法案を通そうとする政治家は全員祟るぞって脅して貰ったんだけどねぇ・・・」

碧も残念そうだった。


おっと。

中々効果的ではありそうだが、国の権力層に個人で喧嘩を売るのは危険だからね。


「ちなみにペット関係のはどうかな?」


「退魔師は高くつくし、何と言っても怪しいからねぇ。

生きてるペットの躾だったら普通にペットトレーナーを雇うと思う。

ペットの霊に関してはアリかもだけど、確実に呼び出せるの?」

碧が首を小さく傾げながら尋ねた。


「あ〜。

ペットが住んでいた家とか遊び場でだったら上手く行く可能性は高いけど、遠かったら微妙かな。

場合によってはペットって自分の事を飼い主がつけたのと違う名称で認識していることがあるし、猫なんかはかなり気まぐれだしねぇ」


しかも金持ちのオバサンとかが独りよがりに溺愛していた場合なんかはペットに嫌われていた可能性もある。

そうなると呼んでも来ないか、来ても言動が依頼主の望む物では無いかも。


「じゃあ、私は無理でも碧は?

ペットを癒しますって怪我専用のマッサージ師みたいな振りをして治したら?」


『治療』や『診療』と言う言葉を使ってはダメだろうけど、怪我を負ったペットのリハビリ用マッサージとでも言えば金を取っても問題ない気がするがどうだろう?


「・・・確かに、適当なペットマッサージの学校で資格っぽいのをゲットしてビジネスを始めて、想定以上に効きが良いお陰で客が高額でも診て欲しいって大量に押し掛けても違法じゃあないよね」

ちょろっとネットで調べた碧がニヤリと笑った。


「って言うか、考えてみたらマッサージ師って資格はあるけど揉み解しとかリラクゼーションとかって言えば普通の人でも出来ちゃうよね?

揉みほぐしをしている振りで腰痛とか治せないの?」

思わず興が乗って更に提案する。

やはり白魔導師系は潰しが効くよねぇ。

羨ましい。

しかも医療団体が人間の治療を禁じているし、白龍さまと言う強力なボディーガードもいるしで、誘拐→軟禁リスクも低そうだし。


「確かに、マッサージもどきと言う名称で人に触れて、顧客の体を楽にしてあげるサービスに対して金を取るのは大丈夫そうだよね。

とは言っても、客をどうやって集めるかが問題かな?

退魔協会経由で大々的に客寄せしたら、あっという間に医療団体に邪魔されるんだろうなぁ。

細々とやるんだったら退魔師として働く方がお金になるだろうし」

溜息を吐きながら碧が言った。


「そこら辺は、大学にいる間に色々考えよう!

目指せ、安全で違法じゃ無いグレー収入!」






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