第23話 超有名どころじゃん!!

「あ・・・ゴメン、符の作成に関する考え方とか注意事項に関する資料をこっちに持って来てないや。

今週末にでも実家に帰って取ってくるから、符作成の練習についてはちょっと待ってて」

私が符作成に頑張ろうと決意をしていたら、碧が水を差してきた。


あらら。

「まあ、注意事項とかは最初にしっかり聞いた方がいいんだろうね。

ちなみに、実家はどこ?

私の為なんだから交通費を出すよ」


パタパタと碧が手を動かして私の言葉を振り払う。

「良いって良いって。

入学してから一度も戻ってないせいで色々言われていたから、丁度良いし。

ついでに実家に置いてある収納の符も持って来るよ。

高いから1枚しか無いんだけど、参考になるかもだし」


それは助かる。


黒魔術系は魔道具を作った経験があるので術を込めるコツもそれなりに想像がつかなくも無いが、時空魔術は前世で特に魔道具化する必要を感じなかった(というか、魔道具化出来る様な素材を自由に使うだけの経済的余裕が無かった)ので、イマイチどうやって符にするのか想像できない。


最初の前世では基本的に魔道具は魔物の皮や骨を部品として使い、魔石か使用者の魔力を動力源にしていた。

魔物がいない日本ではどう言う仕組みになっているんだろ?


「なんか、色々とやって貰うみたいで悪いね。

まだ知り合ってから1ヶ月ちょっとしか経っていないのに、そんなに信頼して尽くしちゃって良いの?」

それともそれなりな旧家の娘さんっぽいから、既に私の身元調査をやってあるのだろうか?


ある意味、命の危険がある悪霊退治を一緒にやろうと誘うのだ。

逆に、前もってそのぐらいの事をする用心深さが無いと怖いかも?


「白龍さまが『悪しき者では無い』って言って、一緒に組むのに賛成しているんだもの。

これ以上ない保証だよ」

笑いながら碧が答える。

後ろで蛇サイズの白龍さまが偉そうに胸を張っている。


「・・・私、悪しき者では無いですか」

思わず、白龍さまに尋ねる声が掠れた。


寒村時代も、今世も、出来るだけ自分の能力を悪事には使わぬよう努力して来たが、何分最初の人生では命じられたからとは言え、酷い事に色々と加担する羽目になった。

あの罪がまだ私の魂に染み付いているのでは・・・と夜中なんかにふと思う事もあった。


ここ2回の人生はちゃんと人間として生を得ているし、今世は暮らしやすい日本に転生出来たんだから、それなりに罪を濯げたかもと密かに考えてはいた。

でも、白龍さまのかんなぎと共に行動させても良いと信頼される程だと言われる程だと分かるのは・・・今までの努力が認められたようで、本当に嬉しい。


『うむ。

安心してよいぞ』


「・・・ありがとうございます。

碧、そう言えば結局実家ってどこなの?」

本物の龍神さまが具現化して巫と一緒に出歩く神社だ。

歴史があるのは間違いないだろう。


「長野県の諏訪神社の一つ。

総本社の大社は戦国時代に武装化した挙句に金に執着しまくる生臭になっちゃって白龍さまに見放されたんだけど、ウチは明治維新の時に世襲も禁じられなかった位ちっさな神社」


神社って世襲・・・だよね、ネット小説なんかに出てくるような普通のところだと。

そうかぁ、大きな神社では世襲が禁じられてんだぁ・・・と言うか!

「ええ?!諏訪湖の龍神さま?!?!」


『大きな水には力が宿りやすい。

昔は水量の多い湖や河川には大抵龍か蛟がいたものよ』

私の叫び声に、どうと言う事は無いと言いたげに白龍さまが応える。


「でも、今は数える程しか現世に残っていらっしゃらないよね?

白龍さまは偉大なんだから、白龍さま自身でも貶しちゃダメ!」

文句を言いながら碧がピシリと白龍さまを叩く。


卑下や自虐が良く無いのは分かるが、叩くのは良いのか。

・・・白龍さまが何処となく嬉しそうにしているので、良いんだろう。


「しっかし、超有名どころじゃん。

神様って神社から出歩いちゃって良いの?」


思わず碧に尋ねる。

これって神様による職場放棄じゃないの?

やっぱり苦しい時に神に縋る側の一般人としては、神社に神様が居てくれる方が嬉しいのだが。

特に、神様が本当に実在すると分かった今となっては。


『本体は神社におる。

第一、個々人の祈りを一々聞いておったらキリが無い。

せいぜい年初にでも広範囲に及ぶ祈りがあったら対応する程度で良いんじゃ』

碧が答える前に、白龍さまが口を挟んだ。


そうか。広範囲で多数の人間が祈らないと神様は一々耳を傾けてはくれないのか。

まあ、それこそ学問の神様系なんて、祈っている人の願いを全部叶えていたら大学とかの合格人数を超えちゃうよね。


「なるほど。

ちなみに、礼儀として私が白龍さまに直接話しかけるのは許容範囲内なのでしょうか?

直接話しかけるのが失礼なのか、そこにいらっしゃるのに碧に話しかけるのが失礼なのか、どちらにすべきか分からないのですが・・・」


『敬意を持って接する分には話し掛けても良いぞ。

答えるに値しないと思ったら無視するが』

あっさり答えが返ってきた。


そうか。

話し掛けてもいいんだ。


今度、時間がある時にでも地球上の魔力量の推移に関して聞いてみよう。







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