第22話 なんて現実路線。
退魔協会へ私の事を知らせないと罰則が有るかという問いの答えは・・・退魔師を気持ちよく動かす為の飴のオンパレードだった。
「人材を発掘した際に報告しなくても罰則は無いけど、報告するとその年の所得税がゼロになるから大抵の場合は報告するね〜。
見い出された方は2週間オリエンテーリング研修を受けて最後に簡単なテストにパスして登録したら50万円貰えるから基本登録するし。
登録時には『依頼を受けるか否かは本人の選択』って言われるけど、ある程度依頼を熟すとあちこちの契約温泉宿が格安で使えるようになる退魔協会の健康保険組合に無料で加入できるから、殆どの人は最低限の数は受けてる」
「所得税免除って・・・才能がある若いのが弟子入りを認められるか否かが、師匠のタックスプラニングに左右されそうな話だね」
金一封ではなく、所得税免除というところが何とも世知辛い。
これって誰かを報告した年は、免税中にがっつり稼ごうとバリバリ働きそう。
才能ある人間が見つかる上に、退魔師が自発的に頑張って働くんだから国にとっては良い事づくめなんじゃない?
「由緒ある陰陽師の家系なんかは、一族の子供の『弟子入り』が綿密にスケジュール管理されているらしいよ。
タイミングが合うまでは例え成人していても家事手伝いとか秘書扱いされるの。
まあ、あんまり待たせると本人が別の誰かに報告権を売り込んじゃうから、成人式前後で大体都合良く能力が『発現』するらしいね」
碧が薄く笑いながら私のコメントに同意した。
そうだろうねぇ。
まあ、私には関係ないから良いけど。
罰則が無いだけ良心的と言えるかな?
「所得税なら年末までに報告すれば良いということだよね。じゃあ、取り敢えず符の作り方を教えて?
出来れば夏休みにオリエンテーリング研修を受けられると良いけど、符の作成技能取得に時間が掛かるようだったら冬休みを目指そう」
それまでは外であまりクルミを動かしたり術を使ったりしない様、気を付けねば。
「まあ、私の所得税なんて高が知れているから無理はしなくても良いよ?
今回みたいな事件に巻き込まれてバレる事もあるし」
碧が肩を竦めながら応じた。
「あ、今回の事件で突然皆が吐き出したのってやっぱり怪しまれた?」
デートレイプ・ドラッグとウォッカで一気に十人近くがほぼ同時に嘔吐するというのはちょっと珍しい反応だ。
薬が安物の粗悪品だったら有り得ることだが、実際にドリンクをテストして粗悪品が出てこなかった場合、保健所や警察首を傾げるかもと私も気になっていたのだ。
しかも薬まで仕込まれたのは少数だったようだし。
「『悪しき物が私や友人の飲み物に混入されたのに気づいた白龍さまが手を打った』って退魔協会担当の警察官に知らせておいたから、大丈夫」
なるほど。
それで碧が刑事告発の事とか知っていたのか。
「・・・もしかして、碧や白龍さまが関与してたから今回の事件は有耶無耶にされなかったの?」
今回の事件の後、気になって色々とネットで類似事件を調べてみたのだが。
掲示板なんかの書き込みを見る限り、飲み会でデートレイプ・ドラッグが使われたり、アルコール濃度が高い酒をこっそり仕込まれたりと言うのは実は大学では比較的よくある話っぽい。
少なくとも『グラス半分程度しか飲んでいないのに、急に意識が朦朧とした』で始まり、『泣き寝入りした』とか『泣き寝入りしないにはどうしたら良いでしょう?』と続く書き込みが意外な程に見つかった。
数日後に精神的に落ち着いてからでは既に証拠の確保が難しい上に、大抵の場合は『まだ将来のある若者の人生を潰すのは忍びない』とか『悪戯のつもりで悪気は無かった』などの大学側のおためごかしや保護者からの圧力などのせいで話が示談程度で終わってしまう事が多いようだ。
こう言う悪事を働くのが、甘やかされて何でも許されて育ってきた資産家や政治家の息子が多いのも偶然では無いのだろう。
今回は物的証拠があったし早い段階で当局が呼び込まれたから運良く刑事告発まで行ったのかと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
「まあねぇ。
どうせあんな事件が起きたらサークルは滅茶苦茶でしょ?だったら加害者側に変な言い訳されたり嘘の話を広められたりするよりも、何があったかをはっきりさせて消えて貰った方が良いと思って、『白龍さまが激怒している』って匂わせておいたの。
警察や検察側も、氏神さまの
ははは。
祟りねぇ。
ある意味、国家権力よりも怖そうだ。
「ナイスだ、碧!」
「でしょ?
まあ、こんな感じに治安当局は退魔協会とそれなりに繋がっているから、私が居ないところで力を使う羽目になったら警察から協会に話がいくと思った方が良いよ」
麦茶を冷蔵庫から取り出しながら碧が言った。
「そうかぁ。
そんじゃあ出来るだけ急いで符の作成をマスター出来るよう、頑張ってみよう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます