第21話 門限と悪霊祓い
「基本的に、退魔師の仕事は悪霊祓いよ。
不動産業界からの依頼が一番多いけど、曰く付きの骨董品を買ったら悪霊まで付いてきたとか、古い蔵の整理をしていてうっかり封印が破けてしまったなんてケースもあるわね。
あとはごく稀に呪詛返しの依頼もあるけど・・・これは失敗するとこちらが呪いを受ける事があるし、そうでなくても下劣な術師が関わっている場合なんかは返した呪詛が無辜の第三者に飛ばされてたりして死亡事故が起きる事もあるから人気がないね。
私も余程のことがない限り請けない」
碧が異世界に関する失望から立ち直ったので、私たちは碧のマンションへ来ていた。
実家から大学までの通学時間が2時間弱とちょっと厳しかったので、私は無利子元本返済型の奨学金で生活費を水増ししつつ親に援助してもらって学生寮の小さな部屋で暮らしている。
寒村時代に比べれば全然問題なしなのだが、人を呼ぶにはちょっと狭いし防音機能も物足りないので碧の部屋に来たのだ。
碧は中々快適そうな1LDKに住んでいた。
退魔師の仕事について説明を受けているのに、思わず周りに目がいってしまう。
「素敵な部屋だねぇ。
私も将来こんな所に住みたい」
黒魔導師時代は王族の気が向いた時に直ぐに呼び出せるよう、黒魔導師はほぼ全員王宮にある狭い居住区域の部屋に住んでいた。
当然、トイレバスは共有。
社会人として10年以上働いていたのに、今の学生寮に毛が生えた程度の部屋だった。
そんでもって寒村時代は1LDKプラス物置部屋がある小屋での家族四人暮らし。
今世は、大学を卒業したらワンルームでいいから自分だけの部屋に住みたいなぁ・・・。
学生寮も個室だが、寮母さんとかが掃除やら何だかんだでちょくちょく入ってくるので意外とプライバシーは微妙なのだ。
まあ、どちらにせよ卒業したら学生寮は追い出されるが。
「凛も退魔師として働き始めたらマンションに住めるよ。
符の作り方を覚えれば月に数枚収納の符を作ればそれでかなりの収入になる筈だし、退魔の依頼を受ければ一件で一月分の家賃ぐらいになる事が多いから。
ただ、退魔の仕事って夜にやる羽目になる事が多いんだよね。
それもあって防音と周囲の治安がしっかりした所を選んだらここになったんだけど、あまり依頼を受け過ぎると大学生活に支障が生じるから、在学中は長期休暇の時期以外は符の作成に重点を置く方が良いかも」
碧が部屋にチョイスについて説明した。
なるほど。
悪霊は夜の方が活発になる。自己主張が激しいタイプ以外は、日中に見つけて祓うのは確かに難しいかも知れない。
「今住んでいるのは学生寮だから、門限があるし外泊もあんまり多いと実家に連絡が行くって噂なんだよねぇ。
そうなると、仕事量と収入はしっかり考えて計画しないと生活が破綻しかねない感じかぁ。
退魔協会に登録する前にちょっと符の作り方を教わってみても良い?
学生の間は符の販売を主にしますって言っておいて、やってみたら符を作れなかったなんて事になったら恥ずかし過ぎる。
それとも、退魔師になれそうな人って発見次第協会へ報告・出頭が必要なの?」
最悪、悪霊退治に頑張りすぎて実家に連絡が入った場合でも、頼めば家族への『退魔師になりました』的な説明を退魔協会が手伝ってくれるとは思う。
だが・・・超常的な能力についていつかは家族に打ち明けるにしても、出来れば自分で決めたタイミングでやりたい。
とは言え、登録後に退魔協会がどの程度依頼の拒否に協力的かは心配だ。
そして公式に認識されている異端な能力を持つ場合、治安維持とリスク管理の為に能力の登録が義務化されている場合は多い。
黒魔導師時代の祖国はまさにそれだった。
子供を全員一律調査し、才能があれば国が資金援助して寮に集めて魔術の使い方を教えると言うのは親に負担をかけず子供が栄達する手段として平民からは歓迎されていたが、後から考えてみればあれは実質的には魔術適性持ちの強制登録と紐付けの為の手法だった。
日本政府だって危険かも知れない能力者の数を把握出来ない事は嫌がるだろう。
能力者は一律『悪霊祓いを行う退魔師』という位置付けなようだが、私の様に人の精神とかに影響を与えられる術師だって他にもいる筈だ。
それに周囲に被害が出る様な符を作れる人間がいるのだ。ならば人間バズーカーの様な火力のある能力者だっているだろう。
流石に能力者に対して問答無用で退魔協会への登録と悪霊祓いへの参加の強制という事は無いだろうが、それなりに強く要請はしてくると思われる。
そして能力持ちで思想的に危険な人物の場合は能力を封じるか・・・暗殺するぐらいの対応手段を取っていても不思議はない。
能力を悪用する気満々な術師の存在を国が知っているなら、ちゃんと見張っておいて問題を起こしたら即座に拘束・処罰してくれと言うのが税金を払っている善良な一般有権者の期待だろう。
現代社会の一般有権者は陰陽師や魔術師の存在を信じていないので、そういった能力を持っているのに倫理観が欠如している場合の対処に関して現実には心配はしていないだろうが・・・もしも問題が起きた場合は『ガス管爆発』なり『テロリストによる攻撃』なりとして説明された被害に関して、政権に不満を持つことは間違いない。
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