第20話 人権は幻想?
「子孫の守護霊になる話は取り敢えずいいとして、剣と魔法の世界ってどんな感じなの?
ラノベの想像にそれなりに近い?」
どうやらがっつり転生前の世界の事を聞きたいのか、碧が傍のベンチにどっしりと腰を落ち着けて聞いてきた。
私としては早く碧のマンションへ行って退魔協会関係の資料を見せて貰ったり、詳しい話を聞かせて貰ったりしたいところなのだが・・・同じラノベ好きとしては碧の気持ちも分かるので、暫く付き合う事にした。
下手に急かして碧のマンションへ行く途中の電車の中で『前世の話』を尋ねられたりしたら、めちゃ痛い妄想好きな女子大生二人組と周りから思われかねない。
もしも碧か私を知っている人間が近くに居合わせたりしたら悲劇だ。
あっという間に大学仲間にSNSで拡散してしまうだろう。
「日本と発展途上国での生活が想像出来ないぐらいに違うみたいに、国や時代によって大分と違うと思うけど、私の国では魔術と魔道具がかなり発達して活用されていたね。
子供は10歳の時に魔術の適性検査を受けて、魔術師になれると評価されたら王都の魔術学院の寮に入って魔力の使い方とかを学んだの。
学生の寮や独り立ちした魔術師が住む寄宿舎には魔道具で暖かいお湯の出るシャワーがあったし、トイレも水の魔道具を使った水洗式だった。
魔物が駆逐されていない辺境地帯では魔物の脅威があって常に誰かが戦っていたし、他国との戦争も時折あったけど・・・私の国はある意味魔道具という先端技術品を売る先進国だったから、態々貧しい周辺国を征服して販売先を減らして仕事を増やすよりは、魔道具を高く売りつけて食糧とか布とかの素材を買い叩いて優雅に暮らす事を求めていたな。
だから時折攻め込まれていたけど、基本的に魔術の力で便利に暮らしながら圧倒的な火力で他国を退けていた感じ?」
魔術師や魔導師と言った魔術を使う人間のランクについての説明はいらないだろう。全部『魔術師』と言っておく方が簡単だ。
「・・・なんか、魔法がある日本みたいな感じ?
いや、軍事力も考えると魔法のあるアメリカかな?」
碧が微妙な顔で聞いてきた。
ある意味、ラノベというのは我々読者が優位にあるからこそ読んでいて楽しいのだ。
異世界が日本よりも暮らしやすそうな
「う〜ん、アメリカは格差の実情をよく知らないから何とも言えないね。
取り敢えず、分かる範囲だと生活水準は日本、人権や自由度は中国って感じかも?
少なくとも私の印象だと、
つまり、あの国の『人権』って言うのはお偉いさんに都合が良い時にしか存在しない幻想の様なものだと最近の新聞を読んでいて思ったんだ。
まあ、日本だって実は権力層に近くなれば不都合な真実とかはガンガン握り潰されているとは思うけど、人権は建前ではあっても幻想ではないでしょ?」
「・・・え、つまり異世界では人権が無い?」
碧が愕然とした顔で聞いてきた。
「に等しいね。
王族や、それなりな権力の座に就いた人が他の人の権利を幾らでも踏み躙れる国。
それに対して皆が不満を持って立ち上がったりしないように、色々生活を豊かかつ便利にしている。
だから踏み躙られた人は運が無かったって皆目を逸らして生きていた」
そして踏み躙る為の道具が私たち黒魔導師だった。
今から思い返してみたら、前世の私は他の魔導師を羨んでいたが・・・彼らの中にも踏み躙られて泥を啜る様な生活に突然叩き落とされた者もいた。
私がその一端を担わされた事もある。
前世って実は一握りの人間以外にとってはいつ不幸になるか分からないスリル満点な世界だったよねぇ。
「うわぁ〜〜〜。
なんかがっかり・・・。
まあ、考えてみたら内政チート・ハーレム勇者のラノベ世界だって次から次へと女性をピンチから救っているって、つまりはそれだけ危険な世界だって事だよね。そんでもって危険な世界じゃ人権なんて二の次かぁ」
碧が嘆きながら頭を抱え込んだ。
「まあ、私の生まれた国が特に酷かっただけで、もっと暮らし易い国もあったと思うよ?
だから、もしも次に転生したら良〜く状況を見極めて、必要があったらすたこらさっさと別国へ逃げるつもり。
その為にも、生きるのに便利な知識を身につけておこうとラノベ生活クラブに入ったんよ」
来世がどんな世界になるか知らないが、知識と生活力は選択の自由度を広げる。
最初の前世の様な状況に囚われないよう、逃げて逃走先で堅実に生きて行ける為の準備はしっかりしておきたい。
「まあ、二度あることは三度あるとも言うしねぇ。
色々準備しておいても損は無いよね。
あ〜あ、いいなぁ。
私はいくら頑張って情報収集しても、来世では全部忘れてるんだろうなぁ」
溜息を吐きながら碧が大きく背中を伸ばした。
「過去の人生の経験とカルマは年輪の一部になるって白龍さまも言っていたじゃない。
今世の知識や修練の結果が、来世で閃きとか才能っていう形で表層に滲み出てくるかもよ?」
「そうねぇ。
まあ、楽しければいいんだし。明日にでもまた八幡先輩に声をかけて活動を再開しようか!
あんな奴らのせいでサークルが活動停止になるなんて、冗談じゃない」
納得したように頷いて碧が立ち上がった。
記憶を保持したままの転生なんて、確実に一度きりと言うのでない限り羨ましがられるようなものではない。
私の人生は言わば否応なしに永遠に繰り返される人生ゲームだ。
折角億万長者になって満足して
しかも魔術を使ってズルをし過ぎると、カルマが悪化して罰ゲーム状態になりかね無いと言う制約付き。
もしも最初の人生の世界にいつかまた生まれ変わったら、私は何を犠牲にしてでもあの古代遺跡を調べて転生魔法陣の効果を切る方法を探すだろう。
人生ゲームも双六も、終わりがあるからこそ楽しいのだ。
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