第16話 MPは何て呼んでる?
「ちなみに、私はそこで碧が結界を張るまで貴女に普通じゃない力があるって全然分かって無かったんだけど、碧には私が退魔師になれる能力持ちだと視えるの?」
1ヶ月ちょっと付き合ってきたが、碧が人より多く魔力を保持しているとは気が付かなかった。
まあ、魔力の少ないこの世界では精神感応か霊視の術を使うか、真剣に集中して視ようと努力しない限り人の魔力は見えない。
少なくとも私には。
土着(?)の能力使いである陰陽師や巫女だとそう言うのがもっと視えているのだろうか?
「遠藤さんが親睦会の誘いに来た時に、凛が式神みたいのを飛ばしたのが視えた気がしたの。
あとは花見の現場で何か術を掛けたでしょう?
白龍さまが誰の力なのか答え合わせしてくれたから確信を持てたのよね」
あっさり碧が答えた。
「式神って言うか私は使い魔って呼んでるけど、似た様な物かな?
あれにも認識阻害の術を掛けてあったんだけど」
「ああ、だから物は見えなかったのね。
何か力の塊を遠藤さんに付けたから、式神なんだろうと思ったの」
なる程。
認識阻害に使った魔力が視えていたのか。
基本的に認識阻害の術は、周囲の光を屈折させる事で物理的に対象を見え無くした上で周囲と魔力濃度を揃える事で魔力探知にも引っ掛かりにくくする。
・・・考えてみたら、前世の魔法陣をそのまま使ったから魔力濃度の設定が前世のレベルだわ〜。
あれじゃあ今世では魔力を見える人間にはかなり目立つだろう。
アホか。
今晩にでも魔法陣を修正しなくちゃ。
「そう言えばさ、独学だから適当にやっている事や事象にゲームやラノベの言葉を当て嵌めてきたんだけど、術を行使するために使うエネルギー、要はゲームのMPって正式にはなんて呼ばれているの?」
前世の言語は当然日本語とは違う。
ただ、私は自分の事を『魔導師』、やっている事を『魔術』だと認識しているから、ラノベ言語的に『魔素』とか『魔力』とか『魔法陣』と日本語訳を当て嵌めている。
だけど考えてみたら魔術師系って西洋的な感じだから、陰陽師とか巫女とかだと彼らの術に使うMPは違う名称で呼ばれているのでは無いだろうか?
碧が何とも言えない顔をする。
「MP・・・確かに、若い世代ならほぼ誰でも理解できる、誤解の生じない共通な言葉よね、それ。
自分や知り合いに当て嵌めて考えると物凄く違和感があるけど!!
基本的に、私達はMPそのものは『霊力』、威力とかパワー的な物は『力』って呼んでるかな?
西洋魔術系の人は『魔力』とか『パワー』って呼んでた気がする」
「西洋魔術系の人もいるんだ?」
碧が肩を竦めた。
「明治時代に意外と来ていたみたい?
流石にあの頃になると『教会が主導する魔女狩りで火焙りの刑』って言うのは無くなったって話だけど、それでもキリスト教やイスラム教圏で魔術師とか魔女だと身バレしたらリンチの危険がそれなりにあったらしいし、あちらで何故か『日本では衆道と呼ばれて男性愛も普通に認められている』って話が広まったせいで、性癖がバレて投獄されそうになったゲイの人とかも来たらしいわ。
見た目が外人な人達は第二次世界大戦の時に国を出る羽目になったけど、彼らに教わった弟子や混血して日本人っぽい見た目になった子孫は細々と西洋式魔術を伝えてきているの。
まあ、アニメやニンジャに惹かれて新しく来たガイジンさんもいるけど」
「何とも言えない実情だね。
そんな情報が退魔協会で伝わってるの??」
ぶっちゃけ過ぎじゃない??
『あの頃は色々と面白い奴らが好奇心に駆られて話をしに来たんじゃ』
ふわふわと浮きながら白龍が口を挟んだ。
「・・・もしかして、今の情報って協会経由ではなく、白龍さまの思い出話??」
思わず蛇サイズ氏神さまの方にお辞儀をしながら碧に尋ねる。
「平安時代の話もしてくれるからね・・・明治なんてまだまだ『こないだ』だよ」
碧が苦笑しながら答えた。
何と!
「良いなぁ・・・歴史がとっても身近に感じられて楽しそう」
『そうじゃろう?!
なのに此奴は儂の事をジジイ扱いしおって』
氏神さまをジジイ扱いとは凄い。
まあ、それだけ親しい間柄なのだろう。
想像もつかないが。
「んんっ。
ちなみに、退魔師の分類って『陰陽師』と『巫女』と『魔術師・超能力者』みたいな感じになるの?
それとも碧の言う神道の氏神さまの力を借りる系も京都の朝廷系とは別種な陰陽師扱い?」
咳払いして取り敢えず氏神さまをジジイ呼ばわりしている点はタッチせずスルーして、次に気になった点を確認する。
一応暗黙の了解的な何かがあるなら先に知っておきたい。
日本人と言うのは『暗黙の了解なんて重視してはいけない』的な綺麗事を言って教えてくれない癖に、知らないとバカにする傾向がある気がする。
はっきり言って、他者を馬鹿にして優越感を感じる為に暗黙の了解を作っているんじゃ無いかと密かに思っているぐらいだ。
「朝廷系の由緒ある陰陽師って言っても、使っている術は山伏とか経由で我々神社系のところにも流れてきているんで特定の家に伝わる秘伝の術とか以外はそれ程違いはないんだ。
ただ、京都や奈良の系譜以外の人間が陰陽師を自称すると色々と煩い事を言ってくる連中がいるからねぇ・・・。
神社系の人間は自分の事を単に退魔師、もしくは
そんでもって西洋魔術系や独学系に人たちは・・・何でもありだね〜」
『何でもありだね〜』に何やら不穏なニュアンスを感じる。
気のせいかな?
「・・・取り敢えず、私は自分の事を『退魔師』って呼ぶね。
能力系統的には魔法陣を使った魔術師。
やっている内容が他の魔術師と違いがあるか確認したいから、そのうち退魔協会経由で他の魔術師の人に会わせて貰えるかな?
特に、私と同じように独学で何とか魔力の使い方を身につけた人に会ってみたい」
「う〜ん、個人情報保護法が施行されてからは協会も色々煩くなったからなぁ。
協会の職員で魔術師系の人がいたら紹介して貰えると思うし、どこかに弟子入りしたいから紹介して下さいって頼むのも可能だと思うけど、ただ会って話を聞く為だけに情報を欲しいって言っても、難しいかも。
協会から『こう言う人がいますが、そちらの個人情報を教えても良いですか?』って連絡してOKが出たらって感じだね」
そう言われると、かなり可能性が低そうな気がしてきた。
少なくとも、私だったら『新しい会員の子が好奇心から話を聞きたいと言ってきているけど、そちらの名前と連絡先を教えても良いか?』とメールが来たら、『嫌です』ってまず答えるだろう。
とは言え。
私は『独学で魔術をマスターした』と自称しているが、現実的な話として私の知っている大部分の魔術は独学で何とかなる程単純な物では無い。
確かに私も時空魔術は独学で何とか身につけたが、魔術全般の基礎理論は最初の人生時代にみっちり魔術学院で学んだのだ。
しかも私の場合、自分の待遇を何とか出来ないかと卒業後もあらゆる機会を利用して必死に色々と研究したから、ある意味普通の魔術師よりも知識は豊富だったと思う。
そう考えると・・・『独学』系の人はもしかして私と同じような転生者なのではないだろうか?
あの古代遺跡から発見された魔法陣を使うと、どうやらずっと転生し続ける様なのだ。
古代遺跡を作った古代文明の人がそれなりに転生し続けていると考えてもおかしく無いだろう。
もっとも、この世界では陰陽師や氏神なんて言う前世の常識にない力の使い方も存在している。
魔術だって本能プラス試行錯誤で何とかなってしまう程度に使い勝手がいいものがある可能性も否定はできない。
どちらにせよ。
他にも転生している人がいるなら、色々と聞いてみたい。
例えば転生先の傾向とか、性別とか。
3回の転生で毎回女って言うのは単なる偶然なのか否か、是非ともはっきりさせたいところだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます