第15話 神様?!?!

えぇぇぇえ?!

神様?!?!

そんなのいるの?!?!

いや、『氏神さま』って言ってたから、世界創造する系の神様じゃなくって、ちょっと超常な力を持ってて自分を祀る一族とか地域の住民とかを守る系だよね?!

あんなに小さくて守れるの?!

地球に龍がいるんだ!?


まるでケージに設置した回し車の中で爆走するハムスターの様に暫し思考が暴走したが、やがてハムスターの走りが遅くなり、考えが落ち着いてきた。


氏神だけでなく陰陽師とか退魔師が実在するというのもびっくりだが、どうやら表に出ていないだけで現代の地球でも魔力を使う人は居るようだ。


まあ、動物霊だけで無く人間の霊も普通にそこら辺にいるのだ。

悪霊化する霊もある程度の数になる筈。

そう考えると、いくら魔素が薄い地球とは言え、悪霊を除去する存在が居なければそのうち悪霊だらけになっていくだろう。


他者を騙したり、傷付けたり、見下して優越感を感じたりする存在がほぼ確実にどんな集団の中にもいるのが人間社会だ。

恨みの蓄積の方が、魔素不足による悪霊の消散より絶対に早い。


世界で一番幸せな国とか言われているブータンとかなら違うかも知れないが、間違いなく日本では放置したら悪霊数が純増する。

大体、年間2万人以上も自殺しているのだ。

誰かを恨む気力のない霊もいるかも知れないが、自殺そのものだってそれなりにエネルギーを使う。

自分で終わりを選ぶところまで追い詰められた人間なら、大抵は無意識にでも自分を助けてくれなかった社会に恨みを抱いている。


そうなったら死後は悪霊化とか地縛霊化一直線だ。


それはさておき。

詳しくは知らないが、日本における陰陽師や退魔師は海外の魔女の様に歴史的に迫害された存在では無かった筈だ。

そうなると、もしかしたら退魔を行う国家的な組織も普通にあるのかも知れない。


だとしたら周囲の人に詐欺師とか可哀想な人と思われない様なカバーを提供しつつ、適度な難易度の仕事も提供して貰えるかも??


覚醒して以来頭を悩ませてきた将来の就職問題が一気に解決する可能性が出てきた。

『未登録の陰陽師』とか『隠れている』とかちょっと不穏な言葉もあったけど、助けてくれると言っているのだ。

ここは大いに相談に乗ってもらおうじゃあ無いか!!


「私は独学に近い感じで力の使い方を覚えたんだけど、陰陽師とか退魔師って登録しないといけないの?」

ふうっと大きく息を吐き出し、考えを纏めて取り敢えず一番気になった事を尋ねる。


正直なところ、一番気になったのは蛇サイズのミニ白龍さまが本当に神様なのかだが、聞くのは失礼だろうし私の将来にとって重要な点では無いので後回しだ。


「あ、再起動した。

白龍さまを紹介すると驚かれる事は多いんだけど、ああも見事に処理落ちしてフリーズするのを見たのは初めてかも」

碧がくつくつと笑いながら言った。


「碧が今まで氏神さまを紹介した相手って同業者とか親族とかでしょ?

神様の存在なんぞ信じていない一般人だったら、びっくりして思考が一時停止しても当然だと思う」

寒村時代はまだしも、黒魔導師時代は魔力を使う教育を受けた人間の大部分は神なんて信じていなかった。

神殿が白魔導師を多く集めて神の恩恵とか言って癒しを提供していたが、白魔術を使えるか否かは単なる魔力の適性の話であって本人の性格も信仰も関係なかった。


どれだけ神のことを貶そうと、神官に金さえ払えば癒やして貰えた。

国自体が神殿を単なる白魔導師の利権団体の一つと見做していたのだ。

例え神がいたとしても、遙か彼方昔に人間の社会に介入するのを止めていたのは明らかだった。

どれだけ祈っても救いは与えられなかったが、代わりに神や神殿をどれだけ侮辱しようが天罰が降ることもなかった。


地球における宗教を理由とした殺し合いの歴史(地域によっては現状とも言うべきだが)を鑑みると、前世の無神論的なドライさの方が平和だと思う。


「言われてみたら、そうね。

親族以外で、退魔協会経由で会ったんじゃない人に白龍さまを紹介したのって初めてだったわ」

あっさり碧が合意した。


「でしょ!!

私の反応は普通だよ!」

思わず力を込めて主張したら、碧に笑われた。


「よしよし分かった、笑ってゴメンね。

取り敢えず本題に戻るよ?

まず、退魔師として協会に登録しないと仕事を回して貰えないから、悪霊退治や呪詛対応の仕事をしている人は基本的に登録してる。

やっぱり信用度が全然違うし、直接の相対取引だと報酬を踏み倒されたり、後から詐欺だったって訴えられる事があるから」


「踏み倒すのはまだしも、後から訴えるっていうのは酷いね」


碧が肩を竦めた。

「怖い思いから解放されて直ぐは感謝の気持ちで一杯だから高い報酬に文句を言わずに払うんだけど、暫くして落ち着いてくると『悪霊なんている訳がない、自分は騙されたんだ!』って思い込んで金を返せって怒鳴り込んでくる人は多いし、挙句の果てに訴訟を起こすタイプもある程度いるの。

その点、退魔協会経由だと社会的信用がある人がまず悪霊が実在する事を説明するし、それでも後からイチャモン付けてきたらもう一度怖い思いをさせて悪霊の実在に関して『説得』する担当もいるから、楽なの」


おいおい。

もしかして、納得しなかったらもう一度悪霊を憑けるの??

まあ、暴力団チックな人や対抗訴訟で脅すのも、悪霊で脅すのも、『脅す』事には変わらないんだから、ちゃんとコントロール出来てる悪霊でちょこっと脅すのが一番お手軽かもだが。


「私でも登録できるかな?」

悪霊退治ならできるが、呪詛対処はどうだろう?

何が『呪詛』なのかによるから、魂を傷つけるんじゃなくって単に遠隔攻撃で物理的に害を及ぼすタイプだったら難しい気もする。

退魔協会に参考書でもあると期待したいところだね。


「退魔師になれる人って限られてるから、才能があるんだったら協会の方で試験に合格できる様に訓練先も紹介してくれるから大丈夫だと思う。

がっつり技術を上げたいなら弟子入りするのも可能だし。

退魔師として登録する際にオリエンテーション研修もあるよ、一応」


弟子入りよりは参考資料を読んでどうにかなって欲しいところだね。

研修に期待しよう。

「まあ、取り敢えず試験を受けて私の実力の判定をして貰ってから要相談ってところかな?」


「うん、それが良いだろうね。

ちなみに、退魔師は大雑把に言って私みたいな神道絡みの氏神さまの力を借りる系統と、陰陽師系と、超能力みたいな独学系とに分かれるの。

陰陽師たちって他派の人には干渉してこないんだけど、血族内ではかなり拘束が厳しいみたいなんだよね。

時折家出してきた庶子とか分家の子が退魔協会に独立系として登録して、後から実家や本家が連れ戻そうとして騒ぎになるの。

もしかして凛もそっちかと思ったんだけど、大丈夫そう?」

少し心配げに碧が尋ねた。


「少なくとも親族に力の使い方を習った事はないし、父方も母方も京都とかと縁は無い上に歴史がある家とも聞いていないから、大丈夫じゃない?」

会ったことも無い親戚が退魔協会に登録した途端に変な事を言って干渉してきたら、断固として拒否して必要に応じてやり返すつもりはありまくりだが。


やっと比較的快適で安全な人生に行き当たったのだ。誰にも私の今世に干渉するのを許す気は無い。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る