第14話 ちょっと痛い因果応報
「聞いた?
遠藤さんの取り巻き達、デートレイプ・ドラッグを使った罪で刑事告発されたんだって!」
バタバタしていて数日ぶりにサークルの部室に行ったら、碧が居てあの親睦会モドキについての顛末を教えてくれた。
「あ、やっぱりあの連中、薬を盛ってたんだ?
八幡先輩がああも早く酔うなんて、変だと思ったんだよね」
リサーチ派が何かヤバい事したかもと言う疑惑をあげたのが私だったせいか、後から出てきた保健所の人も警察官も何も教えてくれなかった。
とは言え、集団食中毒事件の筈の案件で警察官が出てきた時点で事件性は確実だとは思っていたが。
「ほぼ検証派全員のグラスにアルコール度のめっちゃ高いウォッカが入っていたらしいよ。
あれを勧めたのはリサーチ派だったって皆が証言したし、どうも凛の撮った写真にも肩を掴んでかなり強引に勧めている姿が端っこの方に写っていたらしくて、私達に絡んできてたリサーチ派は全員1ヶ月停学処分だって!
あと八幡先輩や私のグラスには睡眠薬も入っていたんで、私達に酒をかなり強引に勧めてきた3人は強制性交未遂って事で刑事告発、大学からも退学勧告を受けたって聞いた」
碧が詳しく説明してくれた。
デートレイプ・ドラッグって、捕まるとそこまで影響が大きいんだ?!
あれって直ぐに体内から排出されちゃうせいで泣き寝入りしたっていうネット上の書き込みが多かったけど・・・実質現行犯で捕まると影響が半端ないな。
「睡眠薬って事は、後でラブホにでも連れ込むつもりだったの、あいつら?」
前世でもロクデナシは嫌と言うほど見たが、平和な上に豊かでしかも階級社会でもない日本で、本当にそんな事をする人間がいるなんてちょっとショックだ。
今となっては前世で隷属魔術に縛られてやらさせられた悪事は他人事と言うか、実感が薄い『知識』なのに対し、今回の事件は一歩間違えば私や私の親しい人間が酷い目に遭わされていたかも知れず、怖いぐらいに生々しい。
探偵業とかで依頼人のトラブルに首を突っ込む様になったらそれなりに危険な目にはあうかもとは思っていたが、まさか普通に女子大生をやっていて地味系なお気楽サークルでこんな事件に巻き込まれるとは。
「多分?
彼ら的にはちょっと睡眠薬を入れたら性格が丸くなる程度にしか考えていなくって、デートレイプ・ドラッグに相応するっていう認識すら無かったらしいけど」
『理解を超える』言いたげな顔で首を振りながら碧が応える。
「なんだってあの連中はそんな事をしようと思ったのかね。
今までにもレイプもどきな事をやっていた人たちだったの?それとも
最初に絡んで来た頃は、自分に都合よく判断しがちな楽天家ではあっても人を踏み躙るようなタイプには見えなかったけど」
部室の使い方で苛立っていたのは遠藤だ。
男どもは『ちょっと邪魔だなぁ』程度で、私達の活動を『そんなんじゃあ内政チートは無理だよ?』と言いたげな
「そうだよね。
ハーレム好きと言っても、あいつらは『命を救ったら惚れられちゃって、困ったな〜』系の男女関係が好きだったもんねぇ。
多分、今までにこんな事はやっていないと思う。
ちょっと睡眠薬で丸くなって貰って仲良くなろうって程度にしか考えて無かったんじゃ無い?
考え無しだけどそれで前科持ちになるなんて、微妙に可哀想かも。
まあ、実害が無かったからこそ言えるセリフだけど」
溜息を吐きながら碧が言った。
「まあ、気軽に人にデートレイプ・ドラッグを盛ろうとする人間がウチの大学の卒業生として社会に出て、同じ様な事をされても困るけどね。
ちなみに、
「どうも彼女が唆したらしいけど、当然本人は『誤解です、そんな同じ女性を踏み躙るような事を自分が提案する訳がない』と言い張っているし、証拠も無いから教唆罪で起訴どころか飲み会に遅れてきたせいで停学すら無いだろうって。
ただ、刑事告発された連中の親が『夢見がちだけど優しい子だったのに、毒婦に洗脳されたせいで人生が台無しになった』って彼女の事を訴えたから、ここ数日は大学にも姿を見せてないわね」
ふんっと拳を握り締めながら碧が答えた。
こちらが被害者でも暴行を加えたら別カウントだから、彼女がこの場にいなくて双方にとって良かった。
まあ、優しいかどうかは知らないが、確かにリサーチ派は夢見がちではあったし、
とは言え。
「『優しい子』なら、人に睡眠薬を盛ってラブホに連れ込もうとするのはダメだっていう一般常識を親がちゃんと教え込むべきだったんじゃ無いかという気もするけど。
と言うか、日本の学校教育も安易な性善説に立って怠けてないで、馬鹿な若者が気軽に手を出すような犯罪についてもっとしっかり教えるべきだよね」
「教えるって?」
碧が微かに首を傾けて尋ねる。
「被害者がどのくらい後々苦しむのかもっと生々しく見せる、自殺した人や大学や会社をお辞めちゃった人の数を教えて『こう言う犯罪はやる方は気軽な悪戯半分の行動かも知れないが、相手を社会的もしくは生命的な意味で殺す事になるかも知れない事をちゃんと理解しろ』って言い聞かせなきゃ。
そんでもって被害者が死んでも相手が弱かっただけだなんて言うようなロクデナシ対応の為に、捕まった際の刑罰、日本での前科者の就職可能性、生涯年収みたいな情報も提供。立件出来なかったとしても民事訴訟されて示談金を払うことになった際の金額とか、ネットでの悪評の拡散による就職や結婚への影響も知っておくべきでしょ。
あと、性犯罪の加害者が刑務所でどう言う扱いを受けるかもじっくり教えると良いよね」
黒魔導師時代は、私達を使って悪事をやっていたのは権力者だった。彼らは法を実質超越していたので、国王本人の怒りさえ買わなければ何をやっても罰せられる事はほぼ無かった。
だが、日本は建前上は法治国家なのだ。
証拠があり、ネットで情報が拡散しているのに毎回罰を逃れられるとは限らない。
そこら辺のリスクをよ〜く分からせて、金持ち坊ちゃん達にも安易に人を踏み躙らないよう教育すべきだろう。
罰則や自分の将来への悪影響を分からせて、恵まれた若者達のふにゃふにゃで弱っちい倫理観をしっかり補強すれば良い。
溜息と一緒に嫌な思いを吐き出し、疑問に思った点を尋ねる。
「そう言えば、洗脳罪なんて無いと思うけど、親達はどう言う罪で
王族が平民どころか貴族にまで魅了や洗脳の術を掛けさせて日常茶飯事的に好き勝手やっていた前世と比べると、実際に起きた被害に対して加害者側へのインパクトが大きそうでちょっとビックリだ。
まあ、悪事を企んだのだ。
法の範囲で罰せられるなら、因果応報ってやつだろう。
「詐欺に対する損害賠償かな?
詳しい話は学内にも流れてないから私も知らないけど。
・・・ねえ、今日も部活動は無理みたいだから、ちょっとアイスでも買いに散歩に行かない?」
訴訟の話を振り払うかのように緩く首を横に振り、碧が外へ出ようと誘ってきた。
「良いね。
この雰囲気の中で籠編みは無理っぽいし」
検証派や『親睦会』に来ていなかった幽霊部員が集まって小声で興奮した様に色々話している部室を見回し、サークル活動は諦める。
もう暫く籠編みはお預けかな。
再開する事が決まったら教えて下さいと後で八幡先輩にメールでも送っておこう。
部室を出て大学生協のある建物に向かうかと思ったのだが、碧は左手の木立のある方へ足を進めた。
天気が良いし、アイスを買う前に遠回りして散歩かな?
が。
大きな楠の木の影に入った所で、碧が手を叩いたら空気が変わった。
うん??
結界??
私が知るタイプの風や魔力で遮断する結界では無いが・・・空間が遮断されているのは感じられる。
「こちらはうちの氏神様の白龍さま。
私も退魔師として働く人間の一人だから隠さないで教えて欲しいんだけど、凛ってもしかして・・・未登録の陰陽師?
何か理由があって隠れているなら助けになれるかも知れないから、助けが必要なら言ってね」
何やらいつの間にか碧の斜め後ろに浮いている蛇っぽい存在を手で示しながら、碧がとんでもない事を言ってきた。
うじがみさまって・・・神様!?!?
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