第9話 冒険者=フリーター?!

「ねえねえお母さん、犬を飼っても良い?

ちゃんと私が面倒を見てお母さんには迷惑を掛けないから!」

夕食時に、母におねだりしてみた。


もしも来世が剣と魔法の世界だった場合、少数の人間相手ならまだしも魔物を倒すには黒魔導師では攻撃力に欠ける。


不意打ちで一体倒すだけなら眠りスリープの術を掛けて倒せば難しく無いが、あれは対象が興奮している時は効きにくいので先手を打てない遭遇戦では厳しい。


大量に死体を使って死霊使いネクロマンサーとして動くと言う選択肢も無きにしもあらずだが、基本的に人里には近づけなくなるので人間社会と決別する羽目にならない限り、この選択肢は避けたい。


となると、犬か狼、もしくはその系譜の魔物を従属化させてテイマーとして身軽な冒険者として動くのが良いかと思い、ちょっと従属化の練習も兼ねて犬を飼いたいと思ったのだ。


が。

母の言葉は厳しかった。

「何を言っているの。

犬だって最近じゃあ7〜8年から場合によっては15年ぐらい生きるのよ?

どこか地方の大学に行く事にしたり、地方で働く事になったらどうするの。

犬を飼える学生寮や独身寮なんて無いわよ?」


おっと。

そうか、犬の寿命は私の学生時代の残りよりも長いんだった。


「うう〜ん、ウチから通える大学に通って、ここから働ける就職先を探す・・・のは約束できないかぁ」

大学は自分である程度選べるが、就職先は難しい。


就職せずに自営業チックになる可能性もあるから、犬を飼うのは独り立ちしてからにするか。


「そうよぉ。

命に対する責任は重いのよ。

猫だったらお母さんが後々面倒を見ても良いけど、犬は嫌よ」

サラダの皿を差し出しながら母が言った。


ウチはペットを飼った事が無かったので気がついていなかったが、どうやら母は猫派だったようだ。

クルミと気が合うかな?

まあ、ぬいぐるみが念話して動くなんてショックが大きすぎるだろうし、私が転生者だと教えなければならなくなるんでクルミを母に紹介するつもりは無いけど。


それはさておき。

気まぐれな猫は魔物と闘う際のパートナーには向いていないらしいからなぁ。


もう少し来世の備えに関しては考えねば。


◆◆◆◆


『自律的に後を着いてきて迎撃までしてくれる武器は便利だけど、人に見せたら間違いなく狙われるんだよねぇ』

テイマー準備作戦が失敗した私は、部屋に戻ってクルミ相手に愚痴っていた。


従魔作戦は難しい。

ならば骨や木のナイフや盾に適当な動物の霊を憑けて、自律行動をしてくれる防衛・攻撃機能付き使い魔はどうかと思ったのだ。

鋭いナイフが自律的に戦ってくれれば、それなりの攻撃力になる。

ただ、それを人に見られたら高級な魔道具だと思われて狙われる可能性が非常に高いのがネックだった。


同業の冒険者だけでは無い。自律式迎撃装備だと思われたら貴族も襲撃対応用に欲しがるだろう。


そして奪ってみて魔道具でない事がバレたら、黒魔術で造られたモノだと推測されるのは時間の問題だ。


来世が最初の記憶にある社会ほど黒魔術を使う者に厳しい世界であるとは限らないが、どんな世界であっても便利な能力を持った弱者は搾取対象になる。


どうするか・・・。


『ちなみに、何でそんなに闘う手段に拘るにゃ?』

悩んでいるとクルミが聞いてきた。


『一番自由で身軽に動ける職業が冒険者なんだけど、その分自己責任で危険に対処しなくちゃならないからね』


『冒険者ってなんにゃ?』

地球の猫霊には馴染みがない職業な様だった。

当然か。猫はラノベなんぞ読まないのだから。


最初の人生では猫や鳥も『冒険者』を知っていた。

場合によっては襲いかかってくる危険な存在として。

食糧となりうる鳥はまだしも、猫は迷子探し依頼以外で冒険者が追いかけ回す事なんてないと思うのだが。

それとも貧しい初心者冒険者は猫の皮を売ったり肉を食べたりしていたのだろうか?


そんなことを考えながらクルミの質問に答える。

『う〜ん、家や組織のしがらみに捕われない代わりにギルドとかの保護もない、半戦闘職?

どの程度の依頼を受けてどのくらい稼ぐかを自分の判断で決めていくから、ちょっと危険だけど自由なの』


『自己責任で働くにゃんね!

異世界版『ふりーたー』のことにゃ?

撫でさせてやる契約をしていた人間は、『ふりーたー』と言う職業に危険があるとは言ってにゃかったけど』


思い掛けない言葉が返ってきた。

『クルミの最初の飼い主はフリーターだったの?』


ぽんっと机の上でクマが宙返りをした。

何やら複雑な想いがあるらしい。

『『ふりーたー』だったのが『せいしゃいん』になって喜んでいたと思ったら段々元気がなくなって帰って来なくなったにゃ』


どうやらフリーターから正社員にランクアップしたものの、就職先がブラック企業だったっぽい?

元気がなくなって帰って来なくなったとは中々心配な話だが・・・こちらに出来ることは無い。


それよりも。

・・・冒険者がフリーター?!


ラノベのイメージのせいで来世は冒険者になろうかとちょっとワクワクしていたが、考えてみたら確かに冒険者は自己責任でリスクを取り、怪我をしたり病気になったら誰も助けてくれない刹那的な生き方だ。


言われてみれば、フリーターか・・・最近流行りのウーバー○ーツの配達員に近い。

頑張れば食っていけるけど将来性はほぼ無く、健康を害したら困窮一直線な職業。


・・・よく考えたらほぼ負け犬じゃん、これ!?


ラノベのイメージに惑わされていた。

折角色々知識をゲットできる現代日本に生まれたのだ。どうやって冒険者として生きていくかを考えるよりは、どうやって街の中で安全に暮らしていける職業に就くかを考えるべきだった。


今までの転生履歴を鑑みると、次も私は女に生まれる可能性が高いのだ。

人の少ない森や辺境に女が一人や少人数のグループで行くなんて、襲って下さいと言うようなものだろう。


前世では無かったが、もしも来世にダンジョンとかがある場合も、死体を始末する必要すらない理想的な襲撃場所にノコノコと定期的に通うカモだ。

絶対に長生き出来ない。


いや、悪人どもに襲われて奴隷化されたら寿命はそこそこ長引くかも知れないが・・・死んだ方がマシ状態になるのはほぼ確実だろう。


黒魔導師では牽制として見せつけられる攻撃手段も限られるし。

殴られて頭が朦朧としていたら魔術を使いにくいし、ぼやぼやしている間に殺されるか、隷属化の首輪でも嵌められたら目も当てられない。


冒険者になる為に闘う術を身につけるよりも、思考誘導を使って雇って貰っても周囲が不満に思わない程度の技能を身につけておくべきだ。


『手に職って言っても、何が良いかね?』


『知らないにゃ!』


今世での収入を得る方法も見つけなければならないし、来世への準備もしなくちゃいけないし。

色々やる事が満載だ。


覚醒前は、魔術師として転生したらもっと人生がお手軽になると思っていたんだけどなぁ。

甘かった・・・。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ここで『覚醒』の章が終わります。

色々課題がありまくりですが、そこは堅実な凛ちゃんが色々コツコツと努力していっていると想像しておいて下さいw






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