第7話 時空魔術!(2)

『え、亜空間の中に入りたいの??

生き物は入れたら死ぬんだけど・・・クルミはどうなんだろ?』

亜空間の中では時間は経過するものの空気の入れ替えが無いので、物を入れた際に流入した空気が尽きたら生き物は死ぬ。


クルミはぬいぐるみに憑けた死霊なので、呼吸は必要ないから問題ないかも知れないが・・・どうなのだろう?


折角使い魔っぽく仲良くなってきたのに、亜空間に入れた事で消滅してしまっては残念なのだが。


『う〜〜〜ん。

そうだ、分体を作ってみない?』


ここ数日でそれなりに魔力を与えているので、クルミも小さな分体だったら創り出せるだろう。

分体ならば亜空間で問題が起きてもクルミ自身には『ちょっと痛い』程度のフィードバックで済む筈だし、問題がない様だったら、分体を収納に入れておけばクルミ本体と逸れた時に何かが起きても亜空間から取り出して協力させる事が出来る様になる。


『分体?』

器用に私の頭の上から机へと飛び降りながらクルミが尋ねる。


『生きている魂って切り分けるとそれだけで弱るけど、死んだ後の魂って何故かかなり融通が効くのよ。

完全に同等の分体は難しいけど、下位の分体だったらエネルギーさえ有ればそれ程作るのは難しく無い筈』


死霊の使い勝手が良すぎる事も、黒魔導師を人々が『死霊使いネクロマンサー』と呼び恐れ嫌う様になった理由の一つだと私は思っている。

お陰で散々最初の生では苦労したのだ。

せめて今世では最大限にそのメリットを享受させて貰わなくちゃ。


『凛に任せるにゃ』

クルミの方は特に悩むでもなく、あっさり合意した。


『そうしたら・・・分体は何にしようかしらね。

もしもの時用に実用性がある躯体にしたいけど』


某メーカーから売り出されたサイボーグモドキな猫が最終的には一番クルミに合いそうな気もするが、そんな物を買う資金は無いし、大きすぎて収納するのも厳しい。

それにそれだけの躯体を動かすのに必要な魔力も馬鹿にならない。


死んだばかりのフレッシュで綺麗な猫の死体でもあったらそれでも良いのだが、今世では15年間生きてきて一度も猫の死体なんて見た事がない。

なので必要になったからと言って簡単に見つかるとは思えない。


この際、適当な猫のぬいぐるみをゲットして、カッターかハサミでも中に仕組んでおけば良いだろうか。

後ろ手で手錠でも掛けられても逃げ出せる様に、ニッパーでも仕込みたい所だが・・・猫のぬいぐるみがニッパーを使いこなせるのかちょっと疑問だ。

考えてみたら、ニッパーその物に分体を組み込んでも良いか。


躯体そのものだったら、クルミの分体が比較的簡単に動かせるはず。


分体と話しているところを見られて、工具をひたすら無言で見つめる女学生というイメージが定着するのは微妙な気がしたので、ネットで可愛いニッパーを探したら中々可愛らしい文鳥の形をしたニッパーケースがあった。


とは言え、値段は三千円近く。


ニッパー本体も買わねばならない事を考えると、ちょっと厳しい。

暫し考えた結果、適当にフェルトと刺繍糸を買ってきて文鳥デザインを借りて自作する事にした。


前世では家族の服は基本古着のリメイクだった。

ミシンを使いこなせるかは微妙だが、手縫いなら問題ないだろう。


まだ店が開いていないだろうし、ニッパーとフェルトを買いに行く前に収納利用の応用編を試そう。

教科書の出し入れは問題なく出来た。

前世と魔力消費の仕組みが同じか確認する為に、ニッパーを買いに行く際にも収納したままにしておくつもりだが・・・それより問題は携帯である。


携帯を収納に入れたままでも使えるか。

現代社会では死活問題と言えるぐらい重要だ。


まずはストップウォッチのアプリを立ち上げて、スタートボタンを押してから収納する。


『何をやっているにゃ?』

タッチペンを使ってタブレットで色々なニッパーを見ていたクルミも興味が湧いたのか、タッチペンを置いて近づいてきた。


猫の霊だけあって、好奇心は旺盛な様だ。


『携帯の機能が収納していても働くか、確認してるの』

元々、私の収納に時間停止機能はない。

もしかしたら時間停止機能付きな亜空間に収納する魔法陣を生成したら時間停止も可能かも知れないが、前世で収納の魔法陣を生成した時はそんな事を思い付きもしなかったし、現代日本で暮らす分には苦労して時間停止機能を開発する必要は特にないだろう。


リュック一つ分程度しか入らないから非常食を入れておいてもあまり意味がない。それに防災用非常食だったら2〜5年は常温でキープ出来るのだ。

ペットボトルだって500cc程度のサイズにしておけば悪くなる前に飲み終わるだろう。


どうしてもアイスクリームを収納したい場合はちょっと問題だけど。

そこは諦めるしかない。


『さて、どうかな?』

収納から取り出した携帯のスクリーンを覗き込む。

ストップウォッチは普通に時間が進んでいた。

携帯その物は亜空間でも機能しているらしい。


『次は、受信できるかだよね』

それに、受信できても着信音が聞こえなければ意味が無い。


取り敢えずもう一度携帯を収納し、2階にある家の固定電話の子機から自分の携帯番号へ掛けてみた。


ーーおかけになった電話は、現在電波の届かない場所にある、または電源が入っていないため、かかりませんーー


『ダメっぽい』

『ふうん』

気のない返事をしてニッパー探しに戻ったクルミからタブレットを取り上げ、携帯のアドレスへメールを送る。


送信完了から2分ほど待ったが、メール着信の音はしない。


携帯を取り出したら20秒後ぐらいにメールを着信したが、電話の不在着信は無い・・・と思ったら何やらSMSに『着信があった』という知らせが来た。


どうやら亜空間に携帯を収納すると、電波が届かず連絡を受ける手段としては使えなくなる様だ。

『ダメかぁ。

・・・鍵を絶対に無くさないで身に付けておけるだけでもラッキーと考えるしかないね』


でも、残念だ。

亜空間収納に携帯を入れておけば落としたり忘れたりする心配もなく、安心だったのだが。

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