第4話 俺たちと組んでくれ

 海賊船にされた戦艦に招かれたサシャ。戦艦の持ち主は、サシャの同時期に海賊家業を始めた兄弟子と呼べるカインだった。


「カイン船長、この船の名前は?」


 長身な海賊カインは、指輪の宝石を磨きながら自慢げに答える。


海賊共和国ガーディアン オブ 守護天使ザ・リバタリア号にした」


「ははっ。こんな船がいれば海賊共和国も安泰ね」


 海賊共和国とは、海賊たちが集まり不法占拠の果てに自治を宣言したレオネ島の事をさした。


 サシャが、海賊共和国の話題を出すとカインは切長の目に、大義か狂気を宿して話はじめた。


「旧世界の連中は、俺たちを徹底的に滅ぼすつもりらしい」


 サシャは、まともに取り合わなかった。海軍や旧世界の国々は以前から海賊を取り締まっていたし、何より海賊は“噂”が好きなのだ。


「5年くらい前から毎月のように誰かしらがそう言ってるでしょう………」


 実際にカインの戦艦に乗り込んだサシャ。彼女も船の持ち主として、この船の質の良さには驚かされていた。


「……こんな素晴らしい船があれば、どこの軍もちょっかいなんか出さないでしょう」


 船を褒められる、気をよくしたように見えるカイン。


「確かに俺は、天才的な頭脳を駆使さして、この最強クラスの船を手に入れた」


 カインは、甲板の血を拭いている船員を跨にながら操舵輪の元へと歩いき、サシャを見下ろした。


「素晴らしい船だ。だが、ヴンドニア人はこれと同じものを既に4隻も持ち込んでいる。小さい船はさらに多く、個人の私掠船や海賊ハンターも続々と集まってきている」


 カインの言う“敵の多さ”はサシャもとっくに知っている。


「カイン。話が見えない。私と海賊家業の世知辛さについて語り合いたいの?」


 カインは片手で操舵輪を、もう片手は硬い拳を作って空に突き上げた。


「旧世界の軍隊と正面から対決して、俺たちの自由を手中に収める。だから、お前も力を貸して欲しい」


 サシャは、自分が目を見開いたのを自覚した。この海賊は、海軍との戦争をしようと言っているのだと。


「カイン船長。私は断る。本物の軍隊相手に勝ち目はない」


 海賊はどこまで突き詰めても個人主義の集団で、統率力と信用に難があるとサシャは言い切ったが、カインは明確な敵が存在する時には団結出来ると信じていた。


「俺たち海賊は衰退し始めているのは分かるだろう? ここらで歯止めをかけなければ、首吊り台の順番待ちと変わらないぞ!」


「…………」


 サシャはもう一度思案した。このまま協力を拒否すれば、もし彼が勝った時、彼らの海賊仲間からは冷遇されるの間違いない。

 しかし、それ以上にカインについていけば海の藻屑になりかねないと。


 サシャは、迷った末に回答を引き伸ばす事にした。


「海賊らしく生きて死ぬか………取り敢えず、エンデバー諸島に行ってから決める」


 エンデバー諸島に行くは、そのまま“金の入る予定がある”と言うのと同義で、大義よりも金儲けに走る事は海賊としては正常ですらあるはずだが……。


「エンデバー諸島……」


 カインはそうオウム返しに呟き怪訝な顔をした。


「サシャ。エンデバー諸島の周りは海賊ハンターだらけで、そもそもあそこに居を構えていた盗品商や俺たちに好意的な貿易商はみんな逃げたのを知らないのか?」


 大砲が直撃したらこんな感じなのだろうというレベルの衝撃がサシャを襲う。


「い、い、いつの話?」


「2週間前。あの島に、新しい総督が就いてから、海峡なんかにも厳重な警備を引き始めているんだ。あの辺はもう昔のようにはいかない」


 を持っていたので、女船長はこの軍艦の持ち主の話を信じる事にした。

 サシャの頭の中の計画が破綻すると、カインがもう一度だけ訪ねた。


「俺たちが自由の為に戦えばまたになる。俺たちと組んでくれ」


 カインの説得を受け、サシャは「艦隊に加わる」と答えた。


 「勝てば……元通りね………」


 そう言って戦列艦の甲板の手すりを撫でるサシャ。

 カインの勝ち取った船の手すりには、


「………宝は埋めておくかな」

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