第15話・第一章Ⅰ「捜索」

 地底に広がる広大な大地。その全ては、かつて魔王が作りだしたものだ。何層にも分かれた大地の最下層に建つ、巨城。魔王が住む、魔城である。


「--フンッ・・・!ハァッ!ムゥン!!」


並び立つ者なき剣技、無尽蔵とも言われる魔力、魔族の頂点に立って久しい魔王は、自らの力に驕ることもなく、自らの武を高め続けていた。もちろん、魔王としての職務も果たしながらである。


 日課である鍛練を終えた魔王は、玉座に戻り、おもむろに声を発した。

「ガイ・・・おるか?」


「は・・・魔王様、ここに。」


玉座の前方の空間が歪み、人影が現れる。魔王が全幅の信頼を置く六人の魔将。その中でも最古参であり、まさに魔王の片腕とも呼ばれる、鉄壁の防御力を誇る鎧の魔将ガイ。


「くだんの勇者の件、何か掴めたか?」

魔王が勇者を退けてからしばらく経った。が、未だ発見の報告は入っていなかった。


「申し訳ありません。今のところ、目撃情報はありません。現在、潜伏と探知が得意な魔物を魔城から放射線状に配置し、探らせております。」


「うむ。引き続き頼む。何かわかれば伝えてくれ。」


「はっ!」


「して、ガイよ。そちは奴をどう思う?」


「・・・どう、と申されますと?」


「我はまだ一度だけだが、そちは既に幾度も、奴と刃を交えたのであろう?我はそち達の情報により、勇者が復活していると判断したが、お前自身はどう思っておる?鎧の魔将を傷つけることなど、この千年誰にもできなかったことだ。」


「・・・は。奴の体捌き、剣筋、動きの細かいクセ・・・間違いなく同一のものかと。しかも・・・その力、その速さ、対峙するごとに洗練され、研ぎ澄まされていっております。」


「あり得ると思うか?人の身でありながら、この短期間でそれだけの力をつけることが。」


「あり得ませんが、事実です。それにそれを仰るのでしたら・・・。」


「・・・復活することがそもそもあり得ぬ、か。ふははは、違いない。」


「魔王様・・・どうしても我ら魔将に、勇者討伐を任せてはいただけないのですか?」


「そち達のことは信頼しておる。我を守ろうとしてくれておることもな。我には過ぎた部下たちよ。」

ふ・・・と、魔王の眉間から皺がとれ、優しい笑顔を向ける。


「勿体なきお言葉でございます。」

ガイは、片膝をつき、深々とかしずいた。


「前にも申したが、魔将には我の傍らにて守護を命じる。そち達の真の力、借りることになるやもしれん。それも、そんなに遠くない未来にな。」


「まさか・・・」


「その時に、魔将が既に傷ついていては支障がでよう?」


「・・・は。他の魔将達には、私から釘を刺しておきましょう。特に・・・」


「剣の魔将、オードか。あいつは昔っから強者と戦うことに執心しておったな。そちを傷つけた勇者の出現に血が滾っておるのだろう。ふふ・・・。」


「笑いごとではありません、魔王様。」


「ああ、すまぬ。少し、昔の我を思い出してな。しかし、人間か・・・。」



 人間・・・、魔族やエルフより遥かに短命。力、魔力共に弱く、基本的には取るに足らぬ存在。だが、古の時代より、歴代の魔王を倒してきたのも人間だった。短命故か、魔族より遥かに高い繁殖力を持つ種族。


 弱き故に数を増やし、群れる。弱き故に技術を磨く。部隊を展開し、訓練により一つの意思を持つが如く動き、戦う。兵器と呼ばれる大型の武器を創り出し、それを効率的に運用する為の戦術までも構築する。


 魔族の中には人間の戦い方を否定する者も多い。だが、我はこの弱き者の戦い方は嫌いではない。初めて、人間の戦い方を見たときには感動すら覚えたものだ。自らの力を知った上で、それを活かす方法を探す。方向性は違うだけで、強くなろうとしていることには変わりない。


 何度か、魔軍にも導入できないかと模索してみたが、駄目だった。ゴブリンなどの元々群れる魔族はある程度の連携が取れるものの、人間の精度には遠く及ばない。高い知能を持つ高位魔族ならばとも思ったが、個の力が強過ぎて、そもそも群れることを嫌がるものばかりだった。


 ガイをはじめとする六人の魔将たち。この六人を同時に相手にしたこともある。我の見立てなら、この六人が人間と同様の連携が取れたなら、我をも上回る力を持つと思ったからだ。だが、結果は我の完勝。魔族には向かない戦い方なのだと理解した。


 しかし、その連携を活かした戦い方も、高位魔族には通じなかった。せいぜい、中級魔族に通じるかどうかの力。それが、弱き者の限界のはずだった。

 そんな中に、突然変異的に現れる「勇者」の存在。種としての力を超越し、魔族に挑む者・・・。


「魔王様・・・何やら楽しそうですね。」


「そう見えるか?」


「はい。」


「確かに、ここ数百年、鍛練ばかりで少し飽いていたところよ。・・・ガイ、最後まで我についてきてくれるか?」


ガイはハッとした。絶対的な力を持つ魔王が最後などという言葉を口にしたのは初めてだった。あの勇者がそれほどの力を持つものなのか?俄かには信じがたい。だが、自分は魔王に忠誠を誓った身。その意思は微塵も揺るがない。

「は!魔王様が私を必要としてくださるならばどこまでも。」


「頼りにしているぞ。」



 それからまた一月ばかりが経った頃、勇者発見の報が、ガイ、そして魔王の耳に入るのであった。


~つづく~

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