第13話・序章ⅩⅢ「進化」
「う~~・・・ん。」
一通りの検査を終え、結果を記した書類を確認しながら所長が唸っている。前にもこんなことがあった気がする。
「ああ、すいません、リーバ殿。あなたの身体のことですが・・・。」
「はい。」
「当面、心配はないでしょう。むしろ・・・。」
「何ですか?」
「以前検査したときより、全体的に身体能力の向上が見られます。血中の『命の雫』の濃度も以前よりも濃くなっていますね。」
「どういうことなんでしょう?」
「ここから先は完全な推論になりますが・・・。」
「構いません。」
「リーバ殿の身に起こったことが事実であるならば、恐らく、リーバ殿は世界樹の中にいたんだと思います。」
「世界樹ですか?でも、私がいたのは・・・。」
「この街のように、世界樹の姿そのものを確認できる場所は稀ですが、根自体は、この世界中に網の目のように張り巡らされていると言われています。」
「もしかして、魔素による魔石の力の回復というのは・・・」
「はい。この街の周りはその濃度が高くその分回復が速いのです。人間や魔族の勢力地はここより濃度は薄いですが、存在はします。地下に世界樹がある証拠です。」
エルフが言う、「世界樹がこの世界を支えている」というのは、正しい見解だと思った。魔素のことはよくわからないが、もし、植物の生育にも関係しているとすれば、世界にとって死活問題になりうる。
「話を戻しましょう。リーバ殿が、その、吹き飛ばされた後、リーバ殿の体内の命の雫が、世界樹の根に吸収されたのかもしれません。」
「・・・・・・。」
「その後、世界樹の樹液として流れる命の雫が、元の姿に戻ろうと、形作ったんではないかと。完成して飾っていたパズルが、衝撃を受けて飛び散り、そのピースの一つ一つが、自らの意思で元の場所に戻っていったような・・・。そして、骨や筋肉が再生される際、より強い状態で再構成されたんだと思います。」
「ああ・・・骨折とか筋トレ後の超回復みたいなものですか。」
「あくまで、推測ですがね。」
「武具に関しては、今、工房で詳しく見てもらってますが、あなたが身につけていたことから考えると恐らく、同じように世界樹に一度吸収されたんじゃないかと。」
「成程。」
「そして、世界樹の中で再生を終えた後、逆に異物として判断されたあなたは、外に放り出された。この街に出てきたのは、たまたまの偶然か、それとも何か強いイメージがあって、この場所が選ばれたのか、それはわかりませんがね。今後・・・ないに越したことはありませんが、同じようなことがあった場合もここになるのか、まったく別の場所になるのか、見当がつきません。リーバ殿、何か心当たりはないですか?」
「・・・うーん、・・・ないですね。」
一瞬、心当たりが思い浮かんだが、さすがに言えなかった。
「どちらにしても、前例のないケースです。私どもで、どこまでやれるかはわかりませんが、なにか違和感があったらすぐにお知らせください。」
「はい・・・。ありがとうございます。」
こんな体になっても、まだ人間扱いしてくれるんだな。なんだか、嬉しいな。
一礼して、所長の部屋を後にする。そのまま、工房へ向かう。
「おお!リーバ殿!お待ちしておりました!!」
リーバの姿を確認すると工房主がシュバッと傍にやってきた。
「これは一体誰の仕事ですか!?是非お話を伺いたくてですね!」
いや、話を聞きたいのはこちらなんだが。しかし・・・仕事??
「これはすごいことですよ!まさに武具における一種の革命・・・!」
悪い人じゃないんだが、この人は相変わらずだな・・・。
「リーバ殿はこちらに・・・。またあなたですか・・・。やれやれ。」
少し呆れた様子で、ミディエラがやってきた。
「ああっ、すいません。つい・・・」
バツが悪そうに工房主は苦笑している。そして数枚の透き通った紙をもってきた。
「これを見てください。」
紙をテーブルに並べると、テーブルが光を帯び出した。下からの光を浴びた紙から模様が浮かび出す。
このシルエットは剣だろうか・・・。この白く浮かび上がってるのは何だ?骨?いや、葉脈のような・・・。同じようなシルエットが二枚並んでいる。でもこの白い部分の面積が全然違う。
「これはリーバ殿のルーンソードの内部構造を映したものです。」
「ふむ・・・この白い部分は、コンポジットの痕ですね?」
ミディエラが口を挟む。異なる素材を繋ぎ合せる技術だったか。
「その通りです!で、もう一枚を見てください。これが今のルーンソードです。」
一枚目は世界樹の根と魔物の皮の境界にのみ、白い部分が見える。しかし、二枚目は、剣全体にくまなく、白い線上のものが拡がっている。
「これは・・・」
ミディエラが息を呑む。
「表面上の材質はそれぞれのままですが、内部的には、ほぼ一つの材質、つまり癒着ではなく同化に近い状態です。そしてこの白い管の中には微量ですが世界樹の樹液の成分が確認されました。」
「それって・・・」
「剣が命を持ったといえばいいのでしょうか。この剣が傷つけられると自動的に修復が始まるようです。魔石にはそんな効果が追加で付与されている形跡はありませんし、それ以前に、装備者ではなく、剣自身の自己修復機能なんて私は聞いたことありません!」
「・・・もしかして、鎧や盾も・・・」
「はい!同様の状態が確認されてます!まさか人間の国にこんな加工技術があるなんて!是非詳しく話を聞かせてください!」
目を輝かせながら、ズズイッと詰め寄ってくる工房主。リーバとミディエラは顔を合わせ苦笑するしかなかった。
~つづく~
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