第9話・序章Ⅸ「報告」
「数体・・・に?滅ぼ、された?・・・もしかして高位魔族か何かか?」
街にはかなりの数の衛兵が常駐している。魔物が大きな群れをなして、同時多発的に襲いかかるのならまだしも、たかだか数体の魔物相手に、統制のとれた衛兵達が遅れをとるとは考えにくい。救援が遅れて大きな被害が出たとしても、最初に襲われた村一つ・・・、それが妥当なところだろう。複数の村が滅んだということは、救援に向かった衛兵達が返り討ちにあったということだ。そんな強力な魔物は、この辺りで聞いたことがない。
「いや、言葉通り、魔物だ。逃げのびた兵の話によると、その魔物は赤く光る不気味な眼に、金属質の硬い肌を持ち、矢も剣も弾いてほとんど効かない。こいつらが、この近辺で度々目撃されていた魔物の正体らしい。」
・・・---ドクンッ・・・
リーバの胸が大きく脈打つ。凍る背筋。その特徴の魔物に心当たりがあった。
「鎮圧失敗の報を受け、すぐに新たな討伐隊が組まれたが、このざまだ。剣よりも魔法の方が効果があると、ようやくわかってきたが、撃滅には至っていない。」
「この街が襲われるのか?」
「今は国主の命で、生き残っている近隣の村に最低限の兵と魔道士を派遣し、深追いはさせず、村に近寄る魔物を、魔法で威嚇して、村の外に追い出すようにしている。つまり」
「行き場のなくなった魔物はやがて街に向かう?」
「ははは。そこは、おびき出していると言って欲しいがな。」
街に戦力を集中させ一気に叩く気か。しかし、この作戦に失敗すればもう後はない。いつも慎重な国主にしては思い切った手だ。それだけ追い詰められているのか。
程なくして街に着く。街のいたるところに、人が溢れている。周辺からの難民だ。広場には数えきれないほどのテントが張られ、炊き出しなども行われているようだ。
「リーバ殿。こちらへ。」
どうやらギルドが作戦本部のようになっているようだ。沢山の冒険者と兵士がいる。冒険者の集団がリーバの姿を確認して歓声を上がる。その内、何人かがリーバに詰め寄る。
「皆、すまない。先にギルド長に会わせてくれ。結構期限ギリギリなんだ。」
リーバが申し訳なさそうに両手を合わせつつおどけて見せる。ドッと笑いが起き、道が開く。リーバは扉に手をかけ、中に入る。
「おお、リーバ!無事だったか!」
ドカドカと足音を立てながらギルド長が近づいてきた。普段はギルドマスターというより、気のいい酒場のマスターといった風体のギルド長だが、今はその身に鎧を纏っている。緊迫した状況だと肌に感じる。更に奥には、数名の近侍を従え、装飾付きの豪華な鎧を身につけた人物・・・国主が立っていた。
「では、リーバ、早速で悪いが報告を聞かせてくれ。」
「ああ・・・。」
リーバは、魔物とエルフは無関係だということ、エルフには人間と敵対する意思も同盟を結ぶつもりもない旨を伝え、ミディエラから預かった書簡を渡した。
ギルド長は近侍にその書簡を渡し、そのまま国主の手に渡った。
「ほお・・・」
書簡の封を解き、中身を確認した国主は感嘆の声を上げた。
「見たこともない紙だ、こちらに仕入れたいくらい良い品だな。」
そう言うと国主はじっくりと書状に目を通し、大きく息をつく。やがて近侍に合図し、奥の部屋から大きな麻袋を持ってこさせた。
近侍を従えた国主が、俺とギルド長が向かい合って座るテーブルまでやってくる。リーバは慌てて立ち上がり、一礼する。よいよい、と手振りで示し、そのままギルド長の隣に座った。リーバもそれに続いて座る。
「此度の調査、御苦労であった。書面は、其方の報告通りの内容であった。エルフの助力を得られぬのは残念だが、敵対の意思がないとわかるだけでもありがたいことだ。これで我らは目前の敵に戦力を集中できる。よく無事に戻ってきてくれた。これは約束の報酬だ。」
麻袋が、近侍からギルド長を経て、リーバに手渡される。ズシリと重い麻袋の中には金貨がびっしりと入っていた。普段の稼ぎから考えれば半年、いや一年分に近い額だ。
「ギルド長、落ち着くまでギルドで預かっててもらえないか?さすがにこんな大金、持ち歩くのは怖い。」
「わかった。だが、飲み代のツケの分だけは抜かせてもらうぜ?」
「ははは。好きにしてくれ。」
ギルド長は奥にある金庫に、麻袋をしまう為に席を後にした。
国主は興味深そうにリーバを眺めていた。
「其方、リーバと言ったか。エルフの街ではどのような待遇を受けたか聞いてもよいか?」
「はい。エルフの街の代表者の客人、という扱いを受けました。」
「ふむ・・・、何があったか詮索はせんが、其方、余程気に入られたようだな。書状のあちこちに、其方を気遣う文面が見てとれた。其方を無下に扱うな、今後、其方を外交の手段に使うことも許さぬ、ともな。」
「そんなことが・・・。」
「他種族の信頼を得る人材、手放すのは惜しいが、仕方ない。もちろん、其方が望めば、佐官級以上の待遇で迎えるがね。」
「・・ありがたい申し出ですが、私は冒険者の方が性に合ってるように思います。」
「やはりな。いかにも其方らしい答えだ。エルフの信頼を得たのもわかる気がする。悪いが、今の話は忘れてくれ、リーバよ。ただ、この状況を打破するまででいい、冒険者として力を貸してもらえれば助かる。」
「それはもちろんです。」
「では、よろしく頼む。」
---バァンッ!
ギルドの入り口の扉が勢いよく開けられる。
「監視塔の兵より報告!
途端にざわつくギルド内。待機していた衛兵が剣を取り、次々と飛び出していく。冒険者も後に続いた。その中にはリーバの姿もあった。
~つづく~
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