第4話・序章Ⅳ「覚醒」

 「・・・ろしいのですか・・・」

「・・・かし・・・ミィさまの・・・」

「かまわ・・・・人間だ・・・・」

「ですが!・・・この・・・ルーミ・・・悲し・・・」

「・・・恩が・・・」

「急げ!もう時間が・・・」


 ---五月蠅い。誰だ、耳元でごちゃごちゃと・・・。

---もう少し・・・眠らせてくれ・・・。


----・・・・・・


 ・・・ああ・・・静かになった・・・

ここ数日、ろくに寝てなかったんだ・・・今朝は少し頭がすっきりしたが、

生きた心地はしなかった・・・今度こそ、ゆっくり・・・

・・・あれ?なんで寝てなかったんだっけ・・・・・・まぁ・・・いいか・・・。


----・・・・・・


 ・・・なんだかあたたかいな・・・いい湯加減だ・・・

・・・ん?・・・・・・湯?


 ---ゴポッ

---ゴポポポッ!


 「所長!目覚めそうです!!成功です!!」

「おお!」

「リーバ!リーバ!!聴こえる!?リーバ!!」


 瞼が重い・・・。でも・・・誰か・・・呼んでる・・・?


 「う・・・?・・・は?」

錆びついた門をこじあけるように、ゆっくりと目を開くと、俺は水槽のようなものに入っていた。足の爪先から・・・頭のてっぺんまで。完全に浸かってる。一瞬でパニックになるには十分だった。


 「----!!?・・・・?!」

でたらめにもがき、水槽を叩くがまったく割れる気配がない。


 ゴン・・・ゴン・・・・ゴボボボボッ・・・!!


 「お、落ち着いてください!今、開けますから!」


 ---プシュウウウン・・・


 どこかから空気が抜けるような音が聞こえ、目の前の水槽の扉が開く。


---ゲホッ!ゴボッ!ガハッ・・・!

転がり落ちるように水槽の外に飛び出て、盛大にむせかえる。ぐるぐる回る頭の中を必死で整理しようとする。確か、俺は・・・


 不意に、背中に柔らかいものを感じる。甘い、いい匂いがする。

「ヒッ・・・ヒンッ・・・よかった・・・ヒッ・・・本当に・・・ヒンッ」

ルーミィが、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくりながら抱きついていた。


 ようやく、意識がはっきりしてきた。そうだ・・・赤い光に貫かれて・・・!

ハッと、視線を下に向け、自分の体を見る。鳩尾のあたりに丸い大きな傷跡、やはり貫かれていたのだ。が、不思議と傷口は完全にふさがっていた。そして・・・。


 「・・・ぉおおおお!?」

自分が生まれたままの姿なのに今更気が付いた。


 「んんっ、ルーミィさま、一度お離れください。その、はしたのうございます。」

咳払いをしたエルフの青年が促す。すましているようだが、なんだか笑いを堪えているようにも見える。


 「え・・・?あ・・・・!?」

泣きはらした顔をさらに真っ赤にして、シュバッとその青年の後ろに身を隠したかと思えば、初めて会った時のように凄い速さで部屋からそのまま出ていってしまった。・・・あいつ、一瞬、視線を下に向けなかったか・・・?


 「リーバ殿。ひとまずこれを。あなたの装備品は今、直させていますので。」

「あ、ああ。どうも。」


 絹のような肌触りの服に袖を通す。どう見ても高級品だ。普段の俺の稼ぎじゃ到底縁のない代物だ。ゆったりとした作りの服のようだが、若干窮屈に感じた。が、そんなことに文句を言う気にもなれない。


 しかし、今、ルーミィ「さま」と言ったか?確かに言葉遣いには品があった気がする。エルフに貴族制があるかどうかは知らないが、いいとこのお嬢様か何かなのかな。


 「すいません、今はそれで御辛抱ください。エルフは人間に比べて背が小さいもので、それが一番大きなサイズなのです。これも今、急ぎ作らせておりますので、明日にはお渡しできると思います。」


 (仕草になんか出ていたか・・・?いかんいかん。)

「いえ、そんな。これでも十分過ぎるくらいです。それで・・・あの・・・。」

「色々混乱されているとは思います。ですが、まずはこちらへ。長老が、食事を一緒に摂りながら、あなたとお話されたいと申しております。」


---ぐぅぅぅぅぅ~~


 食事と聞いた途端に、盛大に腹の虫が鳴いた。我ながら情けない。


 「ははは。そのご様子なら体は大丈夫のようですね。丸二日、眠ったままだったのです。無理もありません。さあ、どうぞこちらへ。」

促されるまま、天井の高い部屋に案内される。先程までにこやかに応対していた青年が襟を正す。こっちまでなんか緊張してしまう。

 

 「リーバ殿をお連れいたしました。」

「うむ。入りなさい。」


 「では、失礼いたします。」

先程の青年が、一礼して部屋を後にする。部屋の中央には大きなテーブル。その奥にいる人物が静かに椅子から立ち上がる。


 凛とした威厳があった。重責を担う者が持つ威圧感にも似た独特の空気。が・・・見た目は先程の青年とさほど変わらない。二十代後半ぐらいにしか見えない。


 「ミディエラです。この街でまとめ役のようなものをやらせてもらっています。」

長老は物腰柔らかに挨拶し、リーバに着席を促すのであった。


~つづく~

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