第1章 第15話

 輝夫は遮光カーテンもレースのカーテンも全開した窓越しに、前庭を見ていた。雲の隙間から漏れてくる星の明かりと、輝夫の部屋から漏れてくる明かりだけに照らされて、前庭は薄暗い光景を寂しく見せていた。輝夫は道路沿いに立っている3本の木のうちの真ん中の木をじっと見つめていた。輝夫はその木が光ることを確信していた。その木が輝きだしたらすぐにその木の近くに行くことを決心していた。そのことが今回は危険な状態に輝夫を巻き込むのではないか、などという考えは少しも浮かばなかった。

 真ん中の木がほんのりと赤くきらめいていた。その光は少しずつ輝きを増して行った。やがてその赤い光は輝夫の部屋にまで入り込んできた。輝夫の部屋が真っ赤に染まってしまうほどであった。輝夫は階段を降りホールを通り玄関の扉を開いた。真樹夫と萌子はすでに寝込んでしまったようで静かであった。赤い光が、開いた扉から溢れるように入り込んできた。ホールと玄関が赤い光で真っ赤に染まっていた。

 輝夫は真ん中の木の前に立った。強烈な赤い光のため木の幹をまともに見ることが出来なかった。自分の足元を見ていた。地面が燃えるように赤くなっていた。履いている靴もズボンも光で真っ赤に染まっていた。輝夫は瞼を閉じた。体中が心地よい暖かさに包まれた。暗闇が体中を覆った。暗闇の中を体が浮いていくのを感じた。暗闇の中を時々赤い線が走った。

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