第1章 第9話
暗闇の中を浮かんでいた。全身が心地よい暖かさに包まれている気分であった。靴の底が、固まった土の表面を踏みしめる感触がした。全身を包んでいた暖かさと暗闇が一瞬の内に消え去っていった。輝夫は向かって左側にある木の前に立っていた。無数の星々から発せられたほのかな光に照らされて、他の2本の木と一緒にそよ風の中で木の葉を揺らしていた。肌色の光を放っていた木は全く光を発してはいなかった。
自分の部屋に戻ると、輝夫はベッドに横になって天井をただ見つめていた。遮光カーテンもレースのカーテンも、全開にした窓から無数の星から発せられた微かな光が入り込んでいた。部屋の明かりは一切点けていなかったので、星の明かりだけが部屋の中を照らしている唯一の明かりであった。この無数の星の明かりの殆どは輝夫が生まれる前の光である。はるか昔の遥か遠くの光が今輝夫の部屋を照らしている。輝夫が今見つめている天井にはブロックの映像がおぼろげな形で映っている。輝夫は昨晩とそして今経験したことが夢ではないことを何故か確信することができた。それでは昨晩の中央の木の茶色の光と、今晩見た左側の木の肌色の光は何だったんだろうか。いろいろ思い巡らしている間に輝夫は眠り込んでしまった。
輝夫は左側にある木の前に立っていた。朝の眩しい太陽が白い光を三本の木に浴びせていた。輝夫は両手の手のひらで左側の木の幹に触れた。なんの変哲のない木であった。こうして朝の光を浴びて三本の木の前に立っていると2日続けて起こったことが何故か単なる夢であったように思えてしまうのであった。
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