第2話

ピンポーン


「!!」

 突然鳴ったドアホンにびっくりして、本を落としそうになった。適当なしおりを挟んで、ドアホンに向かう。

「げっ! お義母さま……」

 時計を見ると、時刻は午後1時を過ぎていた。かけ直しますと言っていたのをすっかり忘れていた。


 ピンポーン


「あっちゃん、いないのー?」

 ドアホンに続いて声までかけてくる。まだ耳は遠くないんで1回で聞こえてます! なかなか出ないのは、手が離せないからです! と言いたい気持ちを押し込め、ドアホンの通話ボタンを押す。

「はーい」

 努めて明るい声で出る。

「こんにちは、あっちゃん。田舎から桃送って来たから、お裾分け持ってきたよー」

 旦那の実家は、自転車で10分程度の近さ。アポ無し来訪もお手の物。

「わざわざすみません」

 返事をしてから、ハッとする。

 テーブルの上には、赤いきつねの空容器と箸がそのまんま!

 お義母さまが上がる確率は、3回に1回。これまで良き嫁、良き母の皮を被ってきたのに、ここでしくじる訳にはいかない。

「ちょ、ちょっとお待ちくださいねー」

 空容器をゴミ箱に、箸を流しに放り込む。うどんの汁があちこちに飛んだ汚いテーブルを雑に拭きながら、よくこんな汚いテーブルで読書してたなと後悔しても、後の祭り。

 あまりお義母さまを待たせる訳にはいかず、いろいろ後回しにして玄関に走る。

 大丈夫! 今日はすぐ帰ってくれる!

「お待たせしました」

 笑顔を貼り付け、すぐ帰れと祈りながらドアを開く。


 被っていた皮が剥がれるまで、あと5分。

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至福の時まであと5分 OKAKI @OKAKI_11

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