最終話 解決編

 スイートロール支部の依頼を秒で解決してモングモングにさっさと帰った俺は、ナーリンやらモースやらからすごいすごいと褒め称えられている中、唐突に、ほんと唐突に送還……というか、地球と異世界の中間点である例の部屋に招かれた。いや、さっさと還してほしいとは言いましたけどね、少しは空気読んでくれませんかねえ……。


「おや、機嫌が悪いようですがどうしましたか? そろそろ良いかな? ってこちらに戻したのですがって、痛い!? 何か干し肉のようなものを投げつけられたっ!?」

「今ちょっとしたクエストを終えて祝勝会をしようって所だったんですわ……頭痛がする酷い世界でしたけど、それでもいい思い出になりそうなイベントが始まるところだったんですわあ……まーたしてもお別れする前にさよならバイバイっすわぁ」

「あらら……それはゴメンナサイ。それで、一体どの様な旅路だったのか聞かせてくださいませんか?」


 クソが、サラッと流して切り替えやがったこいつ。 ああ、いいさ教えてやるよ! ガチャから生まれたなんとも言えない世界の話をな!


 もひとつオマケにビターンと干し肉を投げつけてやると『だからなんなんですかこれは』と言う。『干し肉だ』といえば、見れば分かりますと頬をふくらませる。なんだよてめえ可愛いじゃねえか。


 かくかくしかじかニクガカイキュウショウナンダヨと、かいつまんで説明をすると、腹を抱えて笑い転げやがった。なんでも『ギルドのランクシステムが妙な世界』という事しか知らなかったようで、まさかギルマスの好き嫌いが階級章に使われていて、それもそれを模したものではなくて実物であるということを初めて知ったらしい。


「そ、それで貴方は胸にほ、干し肉を付けて活動してたんですか?」

「ああ、そうだよ! 場所が場所ならSランク様だ!」

「さ、最高ランクの証がニッ、肉だなんて! あはははははは!」

「ちなみに下位ランクはギルマスの嫌いな食い物な。ナスから始まるんだってさ」

「ナ、ナス! ナスッランク! あはははは! 私はおナスの煮浸しとか好きですけどね、あはは、ナスランクって! ナスをっ 胸に付けてるぼ、ぼうけんしゃ……あははは」


 ゲラゲラ笑い転げてますけどね、あのギルドはまだマシだったんだぞ。少なくともどれもが胸に付けられるものだったからな。ああ、そうさ本当の地獄はスイートロールにあったんだ。


 お供のナーリンの案内で隣街、スイートロールに向かったわけだが、門を潜った瞬間漂う甘ったるい香りったらすごかったね。嫌な予感ったらすごかったね。


「肉や魚も好きだけど、この甘い匂いもたまんないですね!」

 

 なんてナーリンがはしゃぎだしちゃってさ。匂いの元がそこらの屋台やらお店やらならまあ、それも微笑ましいんだが……やっぱりそこは予想通りってわけでな。


「指名依頼を受けたリュージュ・アルタイルだ」


 なんて受付嬢に言ってギルマスに取り次いでもらったんだけど、そいつがまたアレなんですわ。プリンですぜ、プリン。頭にプリン乗せてんだよなあ……ああ、流石に直接じゃあなかった。小皿に乗ったプリンを頭に乗せてんだ。そらもう、ぷるんぷるんよ。


 頭の上にプリン乗っけた強そうなねーちゃんがよ『よく来てくれた!』なんていうんだ。その度、プリンがユッサユッサ揺れてな。俺が好きなのは頭の上のプリンじゃあなくて、お胸の辺りでユッサユッサ揺れるプリンだって話なんだが、まあそれはいい。


 傍らに控えるサブマスだかなんだかの女性もまたすげえんだ。こいつはこいつで頭の上に小皿に乗ったロールケーキを乗せてやがる。


 だから俺は言ってやったんだ。


「あんたらのギルドで上級の連中が長持ちしねえのは階級章のせいだ!」


 ってな。


『ば、ばかな!』


 とか言いやがったが、ナーリンまでもが『マジかこいつ』みたいな顔で俺をみてやがったが、ばかなはこっちのセリフっつーか『馬鹿だろお前ら』って思わず言っちゃったよ。それには流石にムッとした顔をされてさ『一体何が馬鹿なのだ』なんて言うわけ。


 そりゃさあ、そうやって事務職ばかりの生活になってりゃあわかんねえよなってことでさ。


「それを証明するために俺と手合わせをして欲しい」


 と、申し出たわけだ。ギルマスつっても、元は冒険者だ。強そうな奴と手合わせが出来るとなりゃあ目を輝かせるわけだよな。そのまま修練場に案内されてな、そらもうウッキウキで剣を構えるわけだ。


「俺はここから動かねえ。あんたからでいいぜ」


 って言ったらもう、喜ぶ喜ぶ。


『いいねえ。久々に血が滾る気分だよ!』


 高らかにそう声を上げ、ガっと地を蹴って俺に向かってきたわけですよ。まあ、流石にギルマスを張るだけはあるよね、それなりにスペックは高かった。ただ、流石にあっちの世界で色々無茶をやらかした俺に敵うほどじゃあ無かったからな、適度に刃を交えてやったのさ。


 んで、そろそろいいかなってんで言ってやったわけ。


「あんたなかなかやるな。けどさ、いいのかい? 頭の上の大事なやつ、開始直後にぶちまけてたぜ!」


 ってな。


『馬鹿な!』

  

 きました、ばかな。ばかなじゃねえよ、馬鹿なんだよ! 頭の上にプリンを乗せたまま動いたらそうなるだろうが! プリンの下はロールケーキなんだろ? それだって同じだっつーの! その下がシュークリーム? ああ、勿論落ちるだろ! コロンと落ちてぷちゅっと中身でちゃうでしょ!


 その下のクッキーでようやく胸に付けられる物になるようなんだが……なんで焼き菓子で統一しなかったんだよ、このギルマスはよ!


 んでまあ、詳しく話をきいたんだけどね? 一番紛失事故が少ないのが下位ランクのピクルスとニガウリに塩辛なんだと。なんだよ塩辛って。なんであんだよ塩辛!

 塩辛なんてぬるっと落ちちゃうんじゃねえの? って思ったんだけど、匂いからしてもう嫌だから密封容器に入れて胸元に付けさせるんだってさ。だから滅多に紛失しないんだって。何言ってるかもうわかんねえわ。


「どうだい? あんたらは書類と戦うようになっちまってるから気づけなかっただろうが、実際に戦ってみればわかるだろう? これじゃあせっかく昇格しても維持なんて無理だよ。第一、プリンにロールケーキにシュークリーム? 生物じゃねえかよ! そんなの依頼で2~3日出てたら腐っちまう! 上位ランクの依頼ってえのは2~3日でノルマを果たせるほど楽なものばかりなのか?」


 ド正論をぶつけてやったさ。ハっとした顔をしていたね。


 んで、少し気になったからさ、ギルマス達はどうしてたんだって。お前たちだって頭の上のソイツを維持するの難しいんじゃねえの? って聞いたら、毎日仕事の終わりに食べてから帰ってるって言ってた。いや、食って良いのかよ? 良いんだってさ。活動する時だけつけてりゃいいから、出勤してから新しいのをつけるんだと。無くしたり腐らせたりする前に申請すれば交換できるんだってさ。 


 ふーん、ばっかじゃねえの? 交換できるシステムはいいよ? でもさ、出勤したらオヤツを頭の上に乗せてさ、そのまま1日仕事した後に退勤前に食って帰るってさ、ばっかじゃねえの? ばーっかじゃねえの! お前ら毎日甘いもん食いたいだけじゃねえかよ!


「ねえねえ、ルーチェさん。それで結局どうやって解決したの? 私達、管理者である神々が世界に与えた仕様はある意味縛りとも言えるから、そう簡単に『食べ物を階級章にする』という理は変えられないはずですよ」


「つうかまんま『食べ物を階級章にする』世界だったのかよ! 何処かに食い物じゃねえ真っ当な素材で階級章を作ってる所もあるのかなあって思ってたけど食い物縛りかよ!」


「まあまあ、それでそれで?」


 ……それで合点がいったわ。プリンを模したバッジとかにしたら? って言ったらすごい勢いで『無理だ!』って言われたからな。別にいいじゃん、って思ったけど、食べられる物以外を階級章にするなんてありえないーみたいにさ、凄い剣幕で否定されちゃったもん。


 全部神々のせいなんじゃねーかよ! 魂に刻まれた制約かよ! 嫌すぎる!


 でまあ、あんたらのせいでそんな具合にめっちゃ否定されるわけじゃん? せめてぷるんぷるん、ふわんふわんしねえような物、少なくとも頭の上に皿を乗せるような真似をさせ無ければいいんだろうと考えたわけですよ。


 干物やらチーズやらはまだマシだったからな。ソレに習ってクッキーで統一したらどうだって提案したのさ。


 そりゃもう、渋い顔をするったらないね。このギルドにとってクッキーとは上位と注意の間に存在する無難なランク。嫌いじゃないけどどうでもいい、それがクッキーとのことだ。失礼だよね、クッキーにさ。


 それでもクッキーは普通に美味しく食べられるものだからな。最終的にプリン味のクッキー、ロールケーキ味のクッキー、シュークリーム味のクッキーをそれぞれ作って食えるバッジにすることで話がついたよ。


 味見したかって? ああ、したよ。普通にうまかったよ。なんたって俺が試作品を焼く羽目になったからな。前の世界で培った料理スキルなめんじゃねーですよ。ナーリンもご相伴に預かってうまいうまいってワッシワシと階級章を食べてましたわ。


 ただまあ、下位ランク向けのはどうなんだろうな。うん? いやあ、作るでしょう、クッキー。統一しないと気持ちわりいもの。作りましたよ、ピクルス味、ニガウリ味、塩辛味野クッキー。


 試食したかって? ああ、するわけねえだろうが馬鹿たれが! なんだって俺が地獄みたいなフレーバーをわざわざ味見しなきゃねえんだ。前の世界で培った料理スキルを無駄に使った気分にされたんですよ。ナーリンですら渋い顔でいやだいやだと階級章に砂をかけてましたからね。


 ただまあ、普通は階級章を食うような事は無いらしいからな。大抵、交換された古い階級章はギルドで飼ってる獣魔のオヤツなんかにしてるらしいからそう悲劇は起きねえだろう。連中は悪食らしいからな。


 まあ、塩辛味のクッキーは酒に合わせれば悪くないのかも知れねえけどな。それだけは味見してもいいかな? って逆に思ったもん。しょっぱい系の海産フレーバークッキーなんてものを食ったことがあるけど普通に美味かったからね。


「いやあ、ほんと素晴らしい体験をしてきたようでなによりです」

「うるせえよ!?」

「下位ランクバッジの味がすごく気になるのですが、食されなかったようで残念です」

「そういえばストレージにいくつかお土産として入れて……」

「さて、リュージュさん。今回のお仕事、ご苦労さまでした」

「露骨に流したな? 毎回そうやって流せばいいと思ってりゃいいさ。そのうち口の中にピクルス味のクッキーを転送してやるかんな」


「ヒッ……こほん。唐突なお別れをさせることになった事につきましては本当にゴメンナサイ。こちらからは外界の様子がはっきりとわからないので、カンで呼び戻すしか無いのです」

「マジかよクソみてえなシステムだな」

「クソなんですよ、ほんと……まあ、システム開発部の方に改善案を上げておきますので、今後に期待ということで」

「そういう部署あるんだ……」


「さて、報酬ですが以前お伝えした通り、貴方が降り立った世界で得たものを所有できるという事は覚えていますか?」

「覚えてるけど……もらってきたの、干し肉の階級章をふたつとプリン味のクッキーとひどい味のクッキーくらいのもんだぞ。正直いらねえからあんたにやるわこれ……」

「いりませんからね!? ……こほん。いいですか、リュージュさん。貴方が得たのはだけではありません」

「それだけじゃない……? まさか妙な病気を貰ってきてたり……」

「そういうのでもありません。貴方はギルドの仕様が変な世界で新たな縁を手に入れました」

「世界名ひどくね? まあそのまんまなんだけど。んで、新たな縁っていうと……」

「ナーリンやモースを始めとして……あれ、4,5人くらいしか縁を結べてませんね」

「そりゃあね? 大した活動をする前に呼び戻されたから……まああんまり長く居たいような場所でもなかったけどさ」

「喜んで下さい、リュージュさん。その縁を通じて後日になりますが、再びギルドの仕様が変な世界に行く事が可能となります」

「いや、別にそこまで行きたいと思わないけど……」

「様々な世界を巡り、ポイントが溜まれば……最初に行ったあの世界にもまた行けるようになるかも知れませんね」


 ガタッ!


 ニヤリとイタズラげに笑う女神の言葉に思わず無い椅子を鳴らして立ち上がってしまった。マジっすか、マジでマジっすか! 俺が英雄としてチヤホヤされて、可愛いミルクシアとイチャイチャできるあの幸せな世界にまたいけるんすか!


 血走った目でそう問えば、今は無理だがやがて叶うと。それも、俺が消えてそう時が経たない時間に合わせて戻れるそうだ。


 おまけとして、それに至るまでに訪れた世界にも自由に行けるようになるらしいが……それはまあ、別にいいかな。


 とにかくだ。ミルクシアのおっぱいに再び顔を合わせることが出来る。もとい、ミルクシアと再び顔を合わせることが出来る! それだけで俺のやる気はマックスに振り切れたのでありました。


 

 つづく?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

唐突に還されたと思ったら変な世界あっちこっち行かされる羽目になりました 茉白 ひつじ @Sheepmarshmallow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ