第6話 こ、これが最高ランク!

 ギルドの酒場でモースから飲み物を奢られ、先ほどの剣技について簡単な説明をしていると……。 

 

「あんたがアルタイルか。俺はミート、モングモング冒険者ギルドのマスターだ」 

 

 肉のような名前を名乗ったその男は、名は体を表すとばかりにムキムキで、剃り上げた禿頭と相まって中々にデンジャラスな外見をしている。うちの近所を歩いた日にゃあ秒で職質喰らうレベルだわ。 

 

「ああ、リュージュ・アルタイルだ。ギルマス自ら来て下さるとは光栄なこって」 

 

 そう言うノリが好きなんだろう? と、へりくだってみせれば、ニヤリと歯茎を見せて笑い、ドカっと俺の隣の席に腰掛ける。 

 

「どうやら、腕っ節だけじゃ無くて性格も面白え奴のようだな。おめえの強さは見せて貰った。冗談かと思ったが、こうやって隣に座ればわかる。おめえ、良い肉してやがるなあ」 


 良い肉って……いくら名前が肉だからといってその評価はどうなんだ? せめて筋肉とか言ってくれよ。それはそれで嫌だけどさあ。 

 

「そいつぁどうも。それで……あんたが来たって事は、俺が預かる階級章には期待して良い……ってことかね」 

 

 ニヤリとニヒルに笑い、敢えて調子に乗ってみれば、思った通りお気に召したようで嬉しそうに笑う。 

 

「がっはっは。俺を前にしてそこまで減らず口を叩ける奴は久々に見たぜ……ああ、文句ねえ、おめえは文句なしの最高ランクだ。

 おめえ……いや、冒険者リュージュ・アルタイル。貴方は当ギルド最高ランクを名乗るに相応しい。どうか、これを受け取り、胸に付けて欲しい」 

 

 そう言えばナーリンの胸元には何やら黄色い三角の妙なバッジが付いてたっけ。なるほどな、あれが階級章だったか。 

 

「どれだけ滞在するかはわからねえが、居る間は力を奮わせて貰いますよ」 

 

 階級章が入っているらしい小箱を受け取り、ミートと硬く握手をする。気付けば周りには多くの冒険者が集まっていて、皆一様に俺に向かって羨望の眼差しを向けている。 

 

 ふふ……いいね……! 前の世界では皆から成果を褒められチヤホヤされる前に送還されてしまったからな。こうして俺TUEEE系主人公を演じられるのって最高に気持ちが良い! 

 

 早く付けて見せてくれ、そう言わんばかりの視線が集中している。どれ、ご期待に応えるとするかね。 

 

 シンプルながらもそれなりに良い材質で作られている箱を開けると……あれれ、おかしいな……俺には干し肉が入っているようにしか見えないぞ。 

 

「マスター……あの、これは」 

 

「ああ、それこそが当ギルド最高峰の証! ギルド至上でも2名しか存在しない肉ランクの証だ!」 

 

 肉……ランク……だと? 

 

「凄い! 凄いですよ! リュージュさん! ギルマス以外に肉ランクに到達する人が出るなんて!」 

 

「凄い……のか?」 

 

「凄いともさ! アルタイル殿! 魚ランクすら滅多に現れないのだぞ! ナーリン程の力をもっていてもチーズランクなのだ。魚ランク、そして肉ランクの凄さと言ったら……」


 ……あぁー、それかぁ……肉だの魚だの言ってたの、それかあ……。

 ていうか、百歩譲ってランク名がおかしいのは許そう。理解してやらんこともない。それも個性だからね? 個性って大事だもんな。 

 

 だが、この記章はどうだ。肉じゃねえか、干し肉じゃねえか、干し肉そのままじゃねえか! 肉の形をした木製の記章とかじゃねえ、肉だ! NIKUだよ? 肉そのものじゃねえか! 

 

「……なあ、マスター。これはその……肉その物だな?」 

 

「何当たり前のことを言ってるんだ?」 

 

 当たり前なのかー そうなのかー 俺をからかってるんだと思ったけどそうなのかー……あー、そういえばナーリンの階級章に虫が群がってたな……あれ、チーズなんだな……。 

 

 周りの視線に耐えきれなくなったので、なんだか微妙な気持ちなのを抑えて胸元に干し肉を装着した。 

 

「うおおおおおお!!! 肉ランクだ!! ギルマスに続いて史上二人目の肉ランクが今ここに生まれたぞおおおおお!!!」 

 

「「「うおおおおおお!」」」 

 

 盛り上がる冒険者達、冷めていく俺の心。 

 

「肉ランクとなればそう腐らせることはねえだろうが、腐りきっちまう前に依頼をこなし

てくれよな。肉ランク……おめえさんなら維持してくれると信じてるぜ」 


「リュージュさん! 凄いです! 胸の肉がよく似合ってますよ!」

「うおおおおお! すげえ、胸に輝く肉!」

「憧れちゃうぜえ!」

 

 ついていけない流れに気が遠くなるのをなんとかこらえながら聞いた話によると、このギルドにおけるランクはピーマンから始まるらしい。 

 

 ナス、ピーマン、しいたけ。この3つが下位ランクと言われるもので、ギルドマスターが嫌いな食べ物なんだそうだ……ってうるせえよ! お前の好みかよ!

 

 ナスから始まるそのランクは能力が認められると上のランクに上がり、しいたけの次からギルマスが好きな食べ物に代わり、そこまで到達すると「高ランク」として認められたことになるそうだ……なんだか頭が痛くなってくる。 

 

 チーズ、魚、肉……これが上位ランク 3種であり、チーズまで上がれるのはほんの一握り。ここまで上がってきているナーリンは中々腕が立つ冒険者だという事らしい。 

 ……駆け出し冒険者だと思ってたのに。 

 

 そして、この階級章は全ランク等しく食材その物を使っている。一定のポイントを得る度新しい物に更新されるシステムで、依頼を受けずにさぼっていると更新がされず、最後にはカビが生えてしまうらしい。 

 

 そうなると高額の再発行手数料を支払うか、三ヶ月間ナスランクとして過した後、再試験をし合格しなければ元のランクに戻れないとあって、皆必死に依頼をこなしているんだそうな。 

 

 ……なんだかクラクラしてきたけれど、まあ、以外とよくできたシステムだなとは思う。

下位ランクなんか物が生なのでコツコツと頑張らないと腐らせてしまうことになるし、上

位ランクは長期の依頼を考慮してチーズや魚の干物、干し肉なんかになってるしさ。 

 

 ……ただ、そのどれもがギルマスの嫌いな物、好きな物というのはやはり頭を抱えてしまうがね……。 

 

 なるほどなあ……これは確かに酔っ払って無い限りはこうはならんわなあ。何をどうすればこんなにもアホな仕組みを作るよう、人間達を誘導できるのか、神様達の神力にゾッとするよ。


そして一週間が経ち、そろそろ還してくれねえかなあと天を仰いでため息をついていると、息を切らせたナーリンが俺の元に駆け寄ってきた。

 

「リュージュさん! 大変、大変ですよ!」


 肩で息をするナーリンを落ち着かせ、飲み物を与えて話を聞いてみれば。


「指名! 指名だよ! しかも隣街のギルドマスターから直々に!」

「ギルマスから直々に……?」


 なんとも厄介な依頼の匂いがするぜ……ああ、なるほどな。俺がまだ帰れずに残されている理由――それがようやく舞い込んできたというわけか。


 良いだろう。一体どれだけ面倒な案件かは知らないけれど、やらねば帰れないんだ、全身全霊をかけてやってやろうじゃないの。


「うん……それで、依頼内容がかなり大変みたいで……その、これを見て下さい!」


 ナーリンから手渡されたのは封筒に入れられ、蝋で封印がされた依頼書。

 なるほど、ここまで仰々しい依頼書だ、ただ事では無い何かが起きているってわけか。


 封筒から依頼書を取り出し、目を通す。


 ……なんてこった。


『冒険者ギルドスイートロール支部の危機を救って欲しい』


『当ギルドは先月ギルドマスターが置き換わり、シュガー・マカロフが代表を務めているが、マスター交代後、高ランク冒険者のランク維持が出来ないという原因不明の事態が発生している』


『最高ランクたる肉を冠するリュージュ・アルタイル氏は高度な魔法を修めるほどの頭脳を持つと聞き及んでいる。どうか、力を貸していただきたい』


 ギルドスイートロール……スイート、ロールね。ギルマスの名前はシュガー・マカロフと。


 あれれ……ぼく、犯人わかっちゃったんですけどお……。

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