第5話 自重? んなもんするわけねーだろ

「わしが場長のマズルじゃ。手ぶらということはワームボックス持ちだとでもいうのか? ならばあ早速じゃが獲物をだしとくれ」 

 

 出たよワームボックス。そうとも、俺はワームボックス持ちなんですわ。ドヤァドヤァ!


 あ、若造めまだ信じてない様な顔をしてやがるな、待ってろ、今すぐに出しちゃるわ! いや、頼むから今すぐ出させて下さい! ストレージの中は時間が止まっているし、他の物に匂いが映るということもないのだが、艶めかしい足が生えた鮭なんて気持ちが悪い物をずっと入れておくのはとっても嫌だからな! 金になるって言われてなかったらぜってーストレージになんていれねえわ。

  

 一刻も早く解き放ちたかったので、もう遠慮なくどばどばと。人の足を生やしたキモい鮭たちをドバドバドサドサ放出してやった所、場長の爺さんも、若造も、モースまでもが目を見開いて驚いた顔をする。 

 

「ううむ……モースの言う事だから何か事情があるのだろうと思っていたが、まさか本当にワームボックス持ちだとはのう! それに凄まじい量のフォレストサーモンじゃこれで今日登録したばかりの新人だとは。しかしこれは久々に……魚が……いや、肉が出たと言えような」 

 

 魚が持ち込まれるのはそこまで珍しいのかな? ていうか、肉と言い直してるのが意味分からん……ああ、そうか。足かぁ……どうみてもそこは肉だもんな。  

 それはそれでというか、あんだけ狩り場がありながら肉が久々ってのはもっとおかしいが、これ以上この気持ちが悪い魔獣がひしめく場所に居るのが嫌だったので、後の事はまかせて受付に戻ることにした。


 と、背中越しに呼び止められたので(まさか解体を手伝わされたりしねえよな)と怯えながら振り返ると。 

 

「明日の朝には査定が終わるが、その前に討伐報酬は払われるから安心しとくれ」 

 

 マズル氏が親指を立てそんな事を言う。どうやらモースから事情を聞いたようで手を回してくれるらしい。正直ほっとしたわ。まずは保証料の銀貨2枚を払わない事にゃ街から追い出されてしまうからな。いくらカードを作ったからと言っても、それはそれ、これはこれって融通が効かねえのもまたモースだ。ほんと助かったわ!

 

 再びギルドのドアを潜って受付に行くと、報奨金としてキモい鮭1体当たり20銀貨、合計銀貨240枚が支払われた……が、これが多いのか少ないのかは正直分からんな。まあ、ナーリンが目をまん丸くしていたので、駆け出しからすれば結構良い稼ぎになったのかもしれん。 

 

 受け取った中から早速モースに銀貨2枚を支払うと、ニヤリと笑って。 

 

「ちゃんと約束を果たせたようだな。ようこそモングモングへ! 改めて歓迎するぜ! アルタイル殿!」 

 

 俺の肩をバンバンと叩いて安堵の表情を浮かべていた。彼はくそ真面目すぎるだけで、意地悪で俺を街に入れまいとしたわけでは無いからな。善良な俺を街の外に追い出すようなマネはしたくなかったに違いない。 

 

「ほんと凄かったんですからね。あのフォレストサーモンをばったばったとなぎ倒して! ぽいぽいと収納して! 魚だ肉だとわたしもう、興奮しちゃって……!」


「マジかよ……なるほどなあ、確かにこれは肉かもしれねえなあ!」 

 

 いやほんと君達お肉が好きね。俺にはちょっとアレのお肉部分は無理かなあ……お魚部分も嫌かもしれない。 

 

 いまいち会話のノリについて行けず、苦笑いを浮かべていると、受付のお姉さんに呼ばれた。

  

「ルーチェ・アルタイルさん。能力測定の用意が出来ましたので、どうぞこちらへ」 

 

 そういや階級章とやらを作るために能力測定をするんだったか。一律最低ランクから始めるんじゃなくて、能力が高いやつはある程度上の階級から始められるってシステムでやってんのは好感が持てるね。魔王ワンパンで倒せるやつもFランクでゴミ拾いから! ってのは見ていてモヤモヤするもんね。


 てなわけで連れて行かれたのは、ギルドあるあるの演習場で、またまたベタなことに人型の的や、円形の的が置かれているような場所だった。恐らくあれを斬ったり射ったりして能力を測るんだろうな。 

 

「ええと……大剣を担いでいらっしゃるようですが、魔法も使えたりしますか? ワームボックスをお使いのようですし、もし他に魔法がつかえるのであれば、そちらも見せて下さい」 

 

 俺が使うワームボックス……ストレージは魔法では無くスキルだし、前の世界で覚えたあれは魔術と呼ばれている物だったが、魔術と魔法に大した差はあるまい。 

 

 この手の奴で下手に能力を隠してしまったり、物を知らないフリをして『あれ俺なんかやった?』とかやっちゃうと逆に後々面倒くせえ事になるんだよな。ここは多少加減をするとしても、出来ることはある程度見せておこう。 

 

 目を付けられると一番厄介なストレージが一般的な世界だってんなら、後は気をつける事って過剰な力以外にないだろうからな。 

 

 受付嬢に向かって首を縦に振り、まずは剣技を披露する。といっても、大剣はそこまで得意じゃないんだけどな。 

 

「では、行きます……月光斬参ノ型【新月】……」 

 

 大きく円を描くように大剣を回し、2度3度斬撃を放つ。的まで結構な距離が離れている

が、あの程度の的であれば大剣スキルで放たれた剣波で容易く斬れるだろう。 

 

 予想通り、3つの的が綺麗に真っ二つになる。うむ、久々に使ったけれど腕はそこまでさび付いていないな。 

 

「今……一体何が?」 

「わからねえ……剣を回したのだけはわかったが、その後が見えなかった……」 

「何回か斬ってましたよ。でも、的まで遠いのになんで……?」 

 

 おっ。ナーリンは結構目が良いみたいだな。ただ、斬撃までは見えなかったか。そこまで見えていれば一人前だが、まあ、駆け出しだろう事を考慮すれば十分過ぎる目をもっていると言えるな。 

 

「……もう十分な気もしますが、次は魔法力を測ろうと思います。向こうの的を魔法で破壊して下さい」 

 

 魔法力……か。それで的を壊せという以上、攻撃用魔術的な物が存在するのだろう。あれを壊す程度なら礫を飛ばせば簡単に済みそうだが、あの脆い的では貫通して壁を壊してしまいそうだ。

 

 かといって、火属性の爆裂術を使ってしまえば地面に穴が空いて困らせることになりそうだし……ううん、以外と難しい……待てよ、こうすれば解決か。 

 

「では、行きます【結界術式三十二号】――」 

 

 そう言えば此方の世界で術を使うのは初めてだったな。 

 

 ぶっつけ本番になってしまったが、きちんと陣が展開され、的を取り囲むように結界が張られたのが確認出来た。 

 

「わあ……綺麗……」 

「あの……魔法陣は一体……?」 

「空中に……魔法陣?いったいどうなってんだ?」 

 

 むう、此方の魔法とやらは魔術構文が浮かび上がったりしないのだろうか? だったらあっちの世界でかなり無双出来そうだぞ。魔術を使おうとするとどうしても構文が浮かび上がるからな。

 何かの異世界ノベルみたいに無詠唱でこっそりーなんて奇襲はやろうとしても出来ないからなあ。 

 

 っと、壊さなきゃな。 

 

 結界の内側に座標を指定して……と。 

 

「ちょっと眩しいですよ【炎熱柱】」 

 

 ゴウと、音を立て結界の内側で炎が躍る。俺はあんまりこの属性の魔術が得意ではないので、範囲を縮めると何故か温度が上がってしまうのだが……結界の内側で燃えているから問題無かろうと思う。 

 

 術が収束したのを確認し、結界を解くと塵も残さず消え去った的の跡地が姿を現したが……どうやら壁も床も無事だったようでほっとした。 

 

 まあ、的は結構悲惨なことになってしまってやり過ぎた感はあるが。 

 

「こんなもんですかね」 

 

 ちらりと受付嬢を見ると、何やらフリーズしていたようだけれど、声をかけるとハッと我に返り、慌ててパタパタと動き始めた。


 「あ、え、ちょ、ちょっと測定器をマスターに見せて判定して貰ってきますね!」 

 

 てっきり目視で確認していたのかと思っていたが、何やら魔導具できちんと測定していたようだな。

 前の世界にも魔力を測る水晶は存在していたけれど、純粋な戦闘力を測るような物は無かった。 

 

 何かが変わった世界らしいけれど、案外まともで進んだ世界じゃ無いか。 

 

 ……なんて思って居たのが間違いだった。 

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