第4話 金策はテンプレの流れで

 ナーリンの案内でやってきた街、モングモングは立派な壁で護られていて、出入りをするための門前には頑丈そうな鎧に身を固めた頑丈そうな男がそれを守って立っていた。

 俺の前を歩いていたナーリンはギルドカードを見せてそのまま中に入っていったのだが、こちらの世界に来たばかりの俺がそんな物を持っているわけがない。 

 

 であれば、銀貨2枚を払えと言われて小銭を出そうとしたのだが、ここでこの世界の貨幣をまだ手に入れていないことを思い出したわけだ。言葉は通じても金ばっかりはどうしようもねえ。あっちの金なら城を何件か建てられるほどにもってんだけどな……。


 とまあ、身分の証明が出来ないわ、保証金も払えねえわで街について早々に頭を悩ます羽目になっているという訳なのだが――

   

「おねがいだよ! モースさん! この人はあたしの命の恩人なの。ね? 入れてあげて」 

 「だめだだめだ! いくらナーリンの恩人でも規則は規則。身分証が無いなら保証金、これは譲れない」 

 

 一宿一飯の恩とはこの事か、いや泊めてはいねえけど。俺がついてこない事に気づいたナーリンが門まで引き返し、モースなる番兵にしつこく食い下がってくれている。この流れで行けば、ナーリンが建て替えてくれるのがよくあるテンプレなのだが、生憎彼女は行き倒れる程の金なし少女だ。こちらの世界の相場は知らねーけれど、銀貨で保証金って言うくらいだし五千円~二万くらいのもんかね? まさか数百円ってこたないだろ……そんくらいならナーリンだって……払えるよな? 

 

 いやしかし参ったな、このままじゃ期日までずーっと森で野人のように過ごす羽目になるぞ。……いや、カネがないなら作ればよいだけの事だな。ナーリンに代わりに打ってきて貰う……のは無理だな。あのクソでけえ魔物をちっこいナーリンが担いでいける気がしねえ。だったら―― 

 

「なあ、モースさんといったか」 

「む、なんだ? 申し訳無いが規則は曲げられんぞ」 

「いや、今は持ち合わせが無いんだが、ワームボックスに討伐した魔獣が入っているんだよ。 

 何処かでそれを売ることが出来れば金が出来ると思うんだが、誰か見張りをつけて俺に金を作らせてくれないか?」 

「ワームボックス? 本当にそんな物を持ってるというのであれば、俺が立ち会ってやるが……どうせ……んわ!? フォレストサーモンだと!?」 

 

 話が長そうなので、ストレージから人の様な足がついた気持ちが悪い鮭を取り出してみせてやると、俺の話を信じる気になったようで、魔獣を買い取る場所まで連れて行ってくれた。このモース、頭がかてえのを除けば良い奴で、あれやこれやとアドバイスをくれるものだから有り難い。 

 

「ここだ。ああ、先にギルドカードを作っておくと良い。カードが無ければ折角の実績も金にしかならんからな」 

 

 ほんとこのモース、気が利くわあ。素材を売って保証金を作るだけなら門から近い商店でも良かったろうに、わざわざ身分証を作れる冒険者ギルドに連れてきてくれたんだもの。俺が右も左もわからねえ娘さんだったら即落ちですわこれ。


 外で待つというモースと一度別れ、スイングドアをヒョイッと潜ってみれば、まあまあ、見慣れた感じの内装だった。依頼ボードに受付所、奥に併設された酒場に昼から飲んでる冒険者。ふんわり漂う生臭い素材臭と酒の匂い。奥に見える階段はギルマスルームに繋がってんのかな? キモい魔物にとんでもねえとこに来たかもしんねえって構えてたが、こうしてみれば前に行った世界とそう変わんねえな。


 なんだかホッとしたので、受付に向かう。ぜってえ顔で選んでるだろうと言いたくなる程に可愛らしい受付嬢がニッコリと微笑んでいる。ああ、ほんと懐かしいなこの感覚。日本の落ち着いた生活もいいけど、やっぱこういうのもいいよね。


「素材を売りたいんだが、まだ冒険者登録をしてなくてね。先にするように勧められてきたんだが、ここでいいのかな?」

「はい、大丈夫ですよ。登録をしていなくても買取は出来ますが、額が下がってしまいますからねー。登録した方がお得なんですよー……っと、文字の読み書きは出来ますか?」 

「ああ、問題ない」


 こういったやり取りっつうか、なんつうか、ほんと異世界って感じだわな。『読み書きが出来るか』なんて、まず日本じゃ聞かれねーもん。前の世界に喚ばれた際に与えられていた【言語理解】がこっちの世界でもバッチリ効いてるのは確認済みだ。スラリスラリと書いてやらあ。

   

「ルーチェ・アルタイルさんですね。それでは先にカードを渡しておきますね。階級章は能力を測ってからになりますが、準備に時間がかかりますので先に納品を済ませて下さい」 

 

 手渡されたカードはなにかの金属で出来たもので、中々立派なもので、今後ずっとこれを使い続ける事になるそうだ。前の世界ではランクアップをするごとにカードの材質が変わったものだが、こちらではそうではなくて別に階級章というものがあり、それでランクを区別するような仕組みになっているらしい。


 こういう微妙な違いはちょっぴりワクワクしてしまうよな、悔しいけれど。 

 

 大型の納品所はギルドの裏手にあるとの事だったので、一度外に出るとモースが付き添ってくれることになった。え、いや大丈夫っす、こういうの慣れてるんで! って言いたかったけど、ここは俺が知る世界じゃないからな。とりあえず好意に甘えることにした。


 ぐるりとギルドを回って裏に行くと、クソデカ倉庫のような建物があった。他に柱と屋根だけで壁がない建物もあり、どうやらそこが解体場の様で、作業員と思われる暇そうな若造がちんたらサボっていたので声をかけた。


「フォレストサーモンを12体持ってきたんだが、査定はここでいいか?」


 若造は俺をチラリと見て鼻で笑い『どこにそんなもんがあるんだよ。酔っ払うには早い時間だぞ』と言いやがる。ああ、カチーンと来たね。


 なんだとてめえ、表に回ってみやがれ、10人くらい酔っ払った冒険者が居たぞ? おう、やんのか? アイツラ連れてきたら酔っぱらい10人とシラフ3人で酔っ払いの勝ちだぞ? 酔っ払うには早い時間なんて言えなくしてやるぞ? 等と自分でも良くわからないキレ方をしてやろうかと思った時、モースが助け舟を出してくれた。


 

「いや、こいつが言ってるのは多分本当だ。お前だけじゃ手に負えんだろうから場長を呼んできたほうが良いぞ」 

「マジっすかモースさん。あんたがそこまで言うならオヤジを呼んできますわ」


 モースさん、頼りになるわぁ。ありがとうモースさん。おかげで場の空気を変にしないですみました!

 

 いやあ、前の世界では国の支援があったし、冒険者としてもそこそこ顔が売れていたからな。お初のギルドで『グレータードラゴンを狩ってきたぞ』って手ぶらで言っても『まじかよヤベえ、ギルマス連れてくるんで解体場で待ってて下さい!』なんて疑われることなく事が進んでいたからな。こういう如何にもなテンプレ冒険者ギルドを体験するのは逆に新鮮だわ。 

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