第17話 夢じゃない

 

 私はきっと、まだ夢を彷徨っている感覚だったんだ。

 目覚めたら見知らぬ場所で、襲われてもレベルアップする自分。物語の中でしか知らないドラゴン。犬のような見た目の夜一。全部が全部、ゲームの世界を体験している覚めない私の夢なんだと。

 モンスターを倒しても、実際にはドロップ品が出るぐらいで血生臭い場面を目にしたわけじゃない。

 怖い化け物に遭遇しても怪我という怪我をしたわけでもない。

 だからかな、尚更ここは現実じゃないんだと思い込んでしまっていたんだ。私が過ごしていた世界じゃないから、危険になっても死の危険なんてないって、けど、ここは夢の中じゃない。

 今私がいるのはリアルなのだと、そう訴えるかのように赤い液体が私にこびりつく。


 腹を貫かれ倒れ伏すその人を目撃した人々は、悲鳴を轟かせる。更にはそんな悲鳴を上げるている人々に向かって、蔦は地面を掘り進んで次々に襲い掛かる。夜一たちはその人達を助けようと魔法や身体能力を活かして、蔦を引きちぎったり、砂嵐を防いでいた。

 血を浴びた私は思考を停止し、呆然とお腹から蔦が引き抜かれる姿をみることしかできなかった。

 周りの喧騒が耳に入ってきても、ただ立っている事しかできない私は頬についた血が流れ落ちポタポタと地面を汚していく様を理解できずにいる。


『マナカ!!危ない!!』


 危険を知らされても、手は震え一向に身体を動かせないでいた。そんな私に巨人のような植物は巨体を揺らし蔦を伸ばしてくる。

 死んでしまうのだろうかと、他人事のようにしか思えない私の脳は、身体を動かす指令を放棄している。

 その場から動かない私に夜一やフシルは混乱の中をくぐり抜けて、向かってこようとしているが、騒ぎは街中に広がっているみたいで、逃げ惑う人々が色んな場所からやってきたりして妨害を受けているようだ。

 蔦はいよいよ、私の腕に絡みつくときつく締めてくる。

 痛い…痛いよ…苦痛に顔を歪ませてやっと頭がクリアになって、今の現状を把握する。

 それでも、体は震え動かすことができず、逃げれない。

 分からない、わからない!私はどうしたらいいの!

 当惑する私に蔦は、スルスルと肩まで巻き付いてきて、ついには首を絞めてこようとした。

 咄嗟に魔法で引きちぎればと、思いついたが恐怖でなのか、目の前で人が血を出して倒れた姿を目にした私はうまく魔力を操作することができずにいる。


『『マナカ/主様!!』』


 夜一とフシルの叫び声を聞こえた気がした。

 それと合わせて、横からぶつかる衝撃がきて、地面に転がる。


『ぬ、主様…お、お逃げくださいまし!!』


「フシル!!」


 フシルが人混みから先に飛び出して私にぶつかって蔦を風魔法で切り裂いてくれたようだ。

 その際に追撃で蔦がフシルを掴み身動きできない状態にした。

 こ、攻撃魔法で…!…っ!!想像できない…!蔦に対抗するための魔法が思い浮かばないよ…!!フシルが!フシルが危険なのに!!

 賊を倒したときのように魔力もイメージも練れず、血だらけの光景しか出てこない。

 どうして…どうして肝心な時に力が出せないのよ…!!

 ずっと怯え続ける自分に嫌気がさす。今動かないで、フシルが貫かれた人みたいに死んでしまったらどうするのよ!!

 自分自身を叱り、建物から崩れた石を手の甲に突き立てる。

 すると、さっきまでの震えも止み蔦に掴みかかる。


「フシルを放しなさいよ!!」


『主様!私のことはよいでございまする!!夜一と共にお逃げください!!』


「嫌だ!!ここで、フシルを見捨てたら一生後悔する!!こんな状況にならなきゃ、現実だって自覚しないほどの愚か者だけど…!仲間を見殺しにするような人間になりたくない!!」


 そう啖呵を切って、フシルを締め付けてる蔦を力いっぱい引きちぎる。フシルに絡まっていた蔦は取れたがまたそこから分裂し、私も一緒に締め付けてくる。

 私は咄嗟にフシルを抱え込み、蔦はそれ事絞めてきた。


『マナカ!フシル!今助ける!!…!?』


 視界が暗くなり、夜一の声が僅かに聞こえたのを束の間、締め付けていた感触はなくなり。暖かな温まりが訪れた。



「…生きてる?」


 状況把握するため、瞼を上げると、誰かに横抱きにされていると分かった。

 その人は、私と同じ黒髪をしており、オールバックの髪形に前髪を部分を少しだけ垂らしていた。

 髪形だけはキッチリとした印象をしているのに、目は眠たげにしてそれを台無しにしているような人だった。


「は、はい…ありがとうございます」


「うん、危ないから下がってね。」


 助けてくれた人は私を地面に下すと、背後に庇い、とても大きな剣を片手で構え、植物の巨人に突っ込んでいく。植物巨人は蔦を無数に伸ばして、襲い掛かるが、助けてくれた人は目にもの速さで大剣を振るうと植物が一気に散らばる。

 凄い…あんな大きな剣を片手で持って切り刻むなんて…

 目を丸くしている間、夜一が真横に駆けつけてくれて私の安否を確認してくれた。


『マナカ!怪我はないか!?』


「う、うん…フシルも私もなんとも…」


『夜一!遅いでございまするよ!!』


『すまねぇ…だが!ここからは俺に任せろ!!マナカ!俺をシェーンペルマの時のように大きくしてくれ!!』


「わ、分かった…でも、その前に蔦で貫かれた人のところに連れてって!」


 やっと正気になった頭は難なく夜一を森の時と同じ大きさにすると、守ってもらいながら血を出して倒れたままになっている人の傍による。


『ぬ、主様…この者はもう…』


「…やってみなきゃわからない、やれなきゃ私は、この世界にちゃんと立って歩めないから」


 初めて人が死んでいく様を見た。初めて死の恐怖を心の底から感じた。元の世界ではありえそうであり得ない事だらけで絶望しそうになる。

 けど、夜一やフシルがいてくれるから…

 この人も救ってみせるよ。それがチートが使える異世界転移の醍醐味でしょ!


 両手を穴が開いている個所に当て、人が回復するイメージを思い浮かべる…

 上手くできない私に察して、フシルがその辺に転がっている本さんを見つけて届けてくれた。

 ナイスフシル!本さんの助けも借りながら魔力を操作しながら、流れ込ませていく。

 すると、段々穴が塞がり、青白かった顔が血色よくなる。そして、広がっていた血だまりは体に戻るように吸い込まれていく。

 目は開けなかったが、息をしているのがわかると、私は一安心した。


「よ、よかった…生き返った…」


 そう油断をしていたら、またもや蔦が私の真後ろの地面から生えてきて襲い掛かってきた。


『そう何度もやられせるかよ!!』


 夜一は大きな口で、何本かの蔦を噛んで引っ張ると、蔦は脆くも千切れる。

 流石夜一!


「そうだ!私を助けてくれた人は!?」


 先ほど向かっている後ろ姿を見た後回復魔法に専念したからどうなっているのだろうと、戦闘状況を確認する。

 そこでは、襲われそうな人を助けながら、伸びてくる蔦をどんどん切っている場面だった。砂嵐も避けながらだからか、相当苦戦しているようだ。


「夜一!フシル!私たちも加勢しよ!なにより、おじいさんがくれた剣がどうなっているか凄い気になるから

 それを取り出すことを目標に行くよ!」


『『おう!/はいでございまする!』』


 身体の震えはもうしない。ここからは全力が出せるよう頑張るよ!

 命第一にね!!



























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