第15話 前兆

 

 扉が壊れたことで、セシルちゃん達が心配して急いで登ってきてくれた。

 そんなセルナちゃんたちに謝罪と弁償金を支払うことで詳しい事情は聴かないでくれた。


 片付けも手伝い、別の部屋をわざわざ用意してもらったので、セルナちゃんたちには感謝しかないです…


「はぁ…濃い一日だった…」


『お疲れ様でございまする!』


『…』


 新しいベットへと仰向けに身を投げ出すと、そのお腹の上にフシルのフワフワした胸毛が乗る。

 服越しでもわかるフシルの毛の柔らかさ、至福です。

 幸せに浸っていると、夜一がずっと無言のままでいることに気づく。

 ノニマスだっけ?あの人に一切攻撃やらなんやらが当たらなかったから落ち込んでるのかな…

 元気づけようにも、私が言ったら同情はやめろとかつっかえられそうだしな…

 夜一に上手い言葉が思いつかなくて、悶々とする。けど、下手な慰めよりもこっちがいいかと名案を思い付き扉前でお座りしている夜一を抱える。

 突然抱えられたことに驚いてジタバタとしているが、そのまま一緒にベッドへと誘った。


『お、おい!』


「今日はもう就寝!私もフシルも、夜一もみーんな傷一つ負わずに過ごせたんだから

 夜一が落ち込むことなんてなーんもないんだからね」


『そうでございまするよ

 今後励めばいいのですよ』


『ありがとうよ…』


 フシルの師匠目線に対して、ため息をつく夜一だったけど、フシルなりの応援だと受けとったみたい。

 うんうん、二人とも段々絆ができてる感じでいいね。青春だぁ

 さて、明日もやることはあるから、二人と一緒にシングルベッドに身を寄せ合って眠りにつこっと

 丁度いいサイズの夜一を抱き枕のように抱き込み、フシルは私の頭上で足を引っかけて目を閉じた。

 眠り方フクロウだね…


『そういえばよ、バリオンがずっとしゃべってねぇけど…?』


 確かに、落ち込んでる夜一がいたらすぐさまからかってきそうなものなのに、一言も発してない…

 寝てるのかな…?まぁ…夜早く寝そうなイメージだしね。…聞きたいことは明日でもいっか。

 そう納得させ、重たくなってきた瞼を閉じた。


『…俺はまだ役に立ててるか…?』


 完全に眠りかけた時、夜一からそうつぶやかれた気がして私は、抱きしめる力を強めてそっと背を撫でた。

 いてくれるだけで助けになってるよ、と伝わるように…意識がなくなるまで撫で続けた。


 そうして、眠りについた私は不思議な夢を体験した。

 絵本で出てくるような大きな国の中心にお城が建っており。お城を囲むように家々が広がる。

 煌びやかに街が活気だつ中、お城から小さな黒い炎が湧き出す。

 小さな炎は徐々にお城を燃やし周りの街にも被害を出していく。

 それが町全体を燃え上がらせた後静かに炎が消えていく。

 炎が消えた国は、最初とは大きく異なり、家やお城は瓦礫となって崩れていた。


 そして、崩れた瓦礫の中心に項垂れる人がいた。

 遠くてどんな人物かわからなくて、夢ながらも近寄ろうとしたが、その瞬間、こちらを振り向いてきた。

 振り向いたその人の目は、くり抜かれたように黒い空洞となっており、どこに視点を合わせているのかわからなかった。顔はこちらを向いてるので私を見ているのだと思うけど、今私は夢で空を飛んでいるので本当に私を見ているかわかなかった。だが、次の行動で確実に私を捉えているのだと分かり、心臓がうるさく鼓動を速める。

 その後お化けのようなその人が、振り向くだけでなく憎悪と怒気が入った叫び声を上げる。


 ”…か、えせぇえ!!!!”


「こ、怖すぎるわぁあああああああああ!!??」



『マナカ!?どうした敵襲か!?』


『ぬ、主様大丈夫でございまするか!?』


 急に眠りから跳び起きた私に夜一とフシルは何事かと心配してきた。


「だ、大丈夫…めっちゃ怖い悪夢見ただけだから…」


『悪夢って…そこまで汗びっしょりにする程だったのか?』


 夜一に言われて、背中や脇がびっしょり濡れていることに気づく

 服がびしょびしょ…ここまで汗かくなんて初めて…

 ギルド行く前に風呂入ろ…


 夜一たちに先にセルナちゃんのところに行ってもらい、私はお風呂を使わせてもらった。

 そのあと準備ができた私は美味しい朝食をいただき、すっかり悪夢のことは忘れた。


 ギルドへと行く旨をセルナちゃんに言って宿屋を出る際、あの不審者のノニマスから言付けを伝えられた。


「2,3日この街から出るそうです!寂しくなったらオレの部屋にいてもいいよ~、出そうです!

 マナカさん、愛されてますね!」


 セルナちゃん…違うんだって…

 誤解を何回も解こうにもダメだった…自分のことだけどもう知らない…数日いないならその間関わらないから、その内忘れるでしょ…

 忘れるために一回頭打とうかな…


 そうやって、バカな考えをしながら昨日と同じ道を辿りながらギルドへと到着する。

 すると、中に入ってそうそう受付のお姉さんに焦った声で話掛けられる。


「マナカ様!!昨日、依頼申請を一緒にしましたよね!?」


「は、はいそのはずです…」


「じ、実はその依頼がないんです!」


 依頼がない??


「書類の整理でマナカ様や他の方の依頼を見ていたんですが、マナカ様の依頼だけ忽然と消えてしまい…

 もう一度データで出そうとしても、そんな依頼はギルドは受けていない、存在しないことになっているんです…

 こんな失敗は初めてです…いえ、むしろ失敗なのかすらわからないんです!!

 このままだと、信頼問題で怒られるだけじゃなくクビになってしまいます!!」


 お姉さん…焦りすぎて説明がわからんことになってるよ…

 とりあえず落ち着いて…

 昨日の違和感がなんだか、ムズムズとしてきた…



















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