第13話 恋の始まりとは違います。
待ち中で出会った不審者は、私に気付くと食べていた手を止め、
印象深いニタリ顔で手を振ってくる。
完全に逃げ切れたと思ったのになんでいるの!?
怖い!怖すぎる!!ストーカーか!?
フシルと夜一も不審者を確認すると眉間を寄せて、口を歪ませる。
私も同じ表情をすると、セルナちゃんがお知合いですかと尋ねられてしまった。
「全く他人です。むしろ、私のストーカーなのかと疑っております。」
「え~ひど~
町中であ~んな熱い抱擁をした仲なのに~」
「そ、そうなんですか~!」
頬を真っ赤に染めながらチラ見できる隙間を開けて目を覆うセルナちゃんはキャーと黄色い声をあげる。
「違うよ!?なにやらおかしな誤解が生まれてるけど、突然後ろから抱き着いかれた被害者が私!?
あっちは変質者!!」
「っていう照れ隠しだもんね~」
座っていた位置からまたもや音もなく、移動して私の肩に手を添えて引き寄せられる。
この人ほんと気配ない…それに距離感近いし、セルナちゃんが益々勘違いを起こしてしまう…
夜一たちは私とセルナちゃんを交互に目視して、ここで威嚇してもいいのかという表情をする。
私は泊まらせてもらっている場所でごたごたと問題を起こしたくなくて、冷や汗を流すだけになってしまってあたふたと慌てるしかなかった。
それをいいことに不審者は肩から腰に手を下げて更に密着状態にさせられる。
「はー!なー!しー!てー!!」
「人前だから恥ずかしいんだね~」
「キャーッ!大胆ですねー!」
「セルナちゃん!違う!この人変態!!」
「……変態?そうなんですか…?」
流石に、必死に訴えている表情をしている私が本気だとわかってくれたのか、セルナちゃんは乙女な顔から疑念を抱いた目になる。
「変態って~ちょっと落ち込むな~
というかオレを加害者みたいに言うけど~オレ~君たちに一回も攻撃とかしてないのに~そんな敵対視向けられるのはお門違いってやつだよ~これ昼間の時も言ったけどね~
角でぶつかって運命的な出会いをしたと思ったのにな~」
不審者だけどもお綺麗な顔を寄せられてしまい、怖いのと一緒に目の保養ありがとうございますと思ってしまった。
って、バカ私!いくらイケメンだからって照れるのは違う!
これ以上近寄らせない為に手で不審者の顔面を防ぐが、この人の言葉にも一理あって思いっきり突き放せられないし…
「うぅ…それを言われるとそうですけど…」
だとしても、初対面で抱きしめてくるのは変質者の何者でもないじゃん…
夜一…助けて…
今度も間に入ってもらおうと目配りするが、来てもらう前にセルナちゃんが夜一とフシルの目の前で仁王立ちをする。
「マナカさん…!恋の始まりは大切にしなきゃダメですよ!!
セルナちゃん!?どうした!?
夜一たちなんか困惑してるよ!?不審者もニヤニヤも止めて目をぱちくりしてるし…まつ毛ながっ
「街中で偶然ぶつかり運命を感じる…これは恋の始まり!
そして、何度も出会い、惹かれ合い…たまにすれ違う…
そうやって色んな障害を乗り越えて愛へと変わる!!」
「う~んロマンス小説の読みすぎかな~」
小さい体を大きく動かせて熱弁するセルナちゃんに、若干引き気味の夜一たち
不審者は冷めた目なのか笑顔なのでどういう感情かわからない…突っ込みを入れてるから呆れはしてる感じはする…
もうややこしい…
「セルナ~
お客さんにご飯は提供したの~?」
「あ、今持ってく~」
呼ばれたセルナちゃんは、速足にこの場を去ってしまった。
結局他人だってこと証明できなかった…むしろ、変な誤解させたままだ…
「もう!いい加減離れてください!!」
全部この変態な不審者のせいで!セルナちゃんが勘違いを!!
それにずっと抱き着かれて居心地が悪かった私は、慣れない拳を不審者の腹に叩き込む。
「…拳…痛い…」
「女の子がそんな乱暴しないの~」
腰から手を離してはくれたけど、腹に沈めた拳がめちゃくちゃ痛い…
まるで、壁に殴りつけたような感覚…これもっと力入れてたら血が出てたよ…きっと…
その様子に呆けていた夜一たちがすぐさま駆け寄ってきてくれて私の心配をしてくれた。
君たちだけが味方だよ…
「ん~そういえば~昼間になかったオーラがリスズちゃんから出てるけど~
どうしたの~人殺した~?」
「なぜにそんな物騒な疑いかけてくるんですか!?というかリスズちゃんってやめてくださいよ…」
『こいつの方が、よっぽど人殺しの匂いぷんぷんさせてやがるのによく言うぜ…』
その通りよ!匂いとかわからないけど!
「え~その黒いの絶対…?…面白い物持ってるじゃ~ん」
愉快そうな表情から、何かを気づいたのか一気に不気味さを増した笑顔を私のバックに向ける。
この人初対面時も言ってたけど、オーラってなに?リスズ呼びの抗議も無視するし…ほんとよくわからない人だ…
早く解放してくれないかな…私はご飯を食べてシャンプーブローした夜一を抱きしめながら安眠したいのに!
「マナカさ~ん!シンさんの隣に夕飯置いときますね~!
ごゆっくり!」
「まって!?セルナちゃん!?この人とは他人だって!?」
「私わかってます!素直が一番ですよ!では!」
違うと否定しようにも、すぐに厨房に戻っていくセルナちゃんに私はただただ唇を結んでしょんぼりとするだけだった。
いいさ…この人になるべく近づけなきゃいいだけさ…
「温かいうちに食べな~ここのご飯美味しかったよ~」
こいつめぇ!…口が悪くなってしまう…落ち着け私…夜一とフシルを撫でくり回して精神統一よ…
『食べづれぇ…』
『主様食べさせてくださいまし~』
文句をこぼしながらされるがままの夜一と甘えてくれるフシル…心が浄化される…ありがとう…
存分に味わった私は、フシルにご飯をあげながら自分の分を完食していく
それを未だに不気味な笑顔を携えながら不審者は眺められて背中がムズムズとしてしまう。
自分の分食べ終わってるじゃん…どっかいってぇ…怖いよ…
そう念じていても不審者は消えず、もっと恐れる発言をしてきた。
「あとでリスズちゃんのお部屋に連れてってね~」
「お願いです。来ないでください。」
一旦落ち着いた心が再び恐怖で激しく動き始める。
セルナちゃん…やっぱりこの人、変態の何ものでもないよ…
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