第11話 違和感
「この宝石はの~妻にプロポーズするときに渡したものなんじゃよ~
夜になると青く光り、太陽に当てると花を咲かす珍しい宝石での~わしの国ではこれを愛する者に渡すのが流行っていたんじゃよ~」
「すごいロマンティックですね!」
フシルは高いところに羽を使って整理してくれたり、夜一は物珍しく匂いを嗅いで回っている。
おじいさんは道具の整理と共に一つ一つ話を聞かせてくれた。
娘さんに関わるものや、お孫さんにもらった物、旅の途中で探し当てた物、交渉を重ねて何とか手に入れたものばかりで、とても売り物にするには勿体ない物ばかりだった。
どうして、こんなにも想いがあるものを商品にしているんだろう?
ご家族の方もそうだけど、おじいちゃん自身が悲しくならないのだろうか?
魔法道具らしきものや、武器などを手に話すおじさんは楽しそうに見えるけどな…あ、商品と私物を分ける為か!
「これはの~孫がわしのように将来旅に出たいと言っていたから渡した物なんじゃよ~もう今から修行だー!と庭で振りまわしていたもんじゃ」
渡したもの…?振り回して危ないから預かってるのかな?
「……?お孫さんは今おいくつなんですか?」
「孫は…はて、いくつだったけの~確か……それでこれはの~」
まただ…
ご家族のことを詳しく質問する度、おじいさんは時が止まったように数秒止まって、再び違う道具の説明をしていく。
うーん、結構なお年をとっているみたいだから仕方ないのかな?
まぁ、これはこれでしゃべり方が可愛いからいっか
「そしてこれはコントロールストーンでの~お主が首につけている物と同じものじゃな~」
「え?そうなんですか?」
「なんじゃ?知らないでつけておったのか?それは不思議なことじゃの
てっきりわしは、そこまで透明にしておるから、相当な魔法使いかと思ったのじゃがの~
魔力や能力が何もない者が持っていても、ただの灰色の石ころの筈なんじゃが?」
白くて長いあごひげを触りながらほっほっほっと愉快そうに笑うおじいさん。
透明にしてるとは?バリオンさんにもらった時、そんなこと言ってなかったけど…
バリオンさんが私と一緒に外の世界を見る為のネックレスかと思ってたけどなぁ
今日の夜、問い詰めなきゃ
「ほれほれ、まだ片付けは終わったらんぞ~犬さんたちも手伝っておくれ~」
『任せろ』
夜一の言葉は通じてはいなけようだけど、鳴き声で返事したと思ったのか、微笑みをみせて一撫でした後一緒に別のコーナーへと歩いていく。
不審者の人みたいに知らない人は警戒すると想像したけど、案外夜一もお年寄りには優しいのね。
フシルもさっきの失態の挽回とばかりに気合をいれて取り掛かってるから、これは今日中に終わるかな
さーて、私も意外と広いおじいさんの道具を言われたとおりに片していこうと。
それにしても、お店なのに人通りが少ないところでやっているなんて、大丈夫なのかな?
繁盛とかしたら大変そうとは思うけど…まぁ趣味っぽいからわざとそうしてるのかも。でも、こんなに乱雑に置かれてるなんて…おじいさんも切り盛りするのに精一杯そう…
すごいな…私だったら老後は庭とかで優雅に過ごしたい…その為には稼がなきゃね!
いや、そのもっと前には元の世界に戻らなきゃ
バイトとか無断で休んでることとかになってるよな…お母さんたちも心配してるかも…ダメダメ!気分をここで下げたらあきませんよ私!
ただの女子高生だったのに急に異世界転移なんていう体験、元の世界に戻った時に自慢できるじゃん!就職に有利かも!そうよ!夜一たちもいるんだから思いっきり異世界を堪能しよう!
うん!テンション上がってきたよ!この勢いでどんどん仕事していこう!気分を切り替えた私は、指示された箇所を黙々と作業し終わるとおじさんに次の整理場所を尋ねる。
「そうじゃな、次は薬系かのぉ
お!そうじゃお嬢さんはこういう武器は使うかの~」
おもむろに整理途中の武器の中から一本の剣を取り出してきた。
長さ的に下から私の腰ぐらいまであって細い剣で、シンプルな作りをしているみたい。
おぉ!これはRPGにありそうな武器!
「ちょいと構えて振ってみい」
「あ…はい」
受け取った剣は持った感じ軽く、持ち手の部分のシルバーが近くで見るとカッコよかった
「えっと、えい!」
『下手くそ』
『ぬ、主様…その振り上げ方はいささか危ないでございまする…』
「ほっほっほっ、やっぱダメかいの~」
し、しょうがないじゃん~!剣なんて持ったことないんだから~!
「すまんの~お嬢さんにはこっちだったの」
冒険者みたいにカッコいい剣は初心者には向いていませんでした…
代わりにという風におじいさんが短剣を取り出してきてくれた。
短剣は少しウェーブがかかっているみたいな形で柄の部分の真ん中に黒い球体がついている。
「ここを手伝ってくれているお礼じゃ
お嬢さんのお役に立てておくれ」
「え!いいんですか!?」
「あぁ、その分はしっかり働いてもらうがのぉ
ほっほっほっ!」
「ありがとうございます!」
おじいさん優しい人だ…!優しさに触れた私は、おじさんのお店をめいいっぱい綺麗にすることを目標にして、夕方ぐらいまでに依頼を完遂することができた。
「ほっほっほっ。今日はありがとうの~」
「いえいえ、お手伝いできてよかったです!また何かあったら言ってください!
おじいさんの頼みなら依頼じゃなくてもなんでもしますよ!」
こんなに親切にしてくれたおじいさんには、お金なんてもらえないしね!
そんな私におじいさんは、目じりを下げて微笑む
「ほっほっほっもう大丈夫じゃよ。」
おじいさんはどこか儚くて、少し妙な胸騒ぎがした。
だが、依頼達成のハンコを押してくれるおじいさんはおおらかに笑い元気に店へと戻っていった
「……」
『マナカ~、オレ腹が減った~』
『夜一に同意したくはないですが、私めも…』
「そうだった、夢中で片付けてたからお昼食べ損ねちゃってたね!宿に戻ってご飯作ってもらおうか!
依頼達成の報告は後日でいいみたいだし!」
私の案に夜一は尻尾をぶんぶんと振りご機嫌さを表し、フシルは私の方に乗ってすりすりとしてきてくれた。仕事後の癒し…!
「そうと決まれば、速足で帰ろー!」
『『おう/はい!』』
ルンルン気分で先頭を歩く夜一に、ついて行く形で私はモヤモヤを抱えながら後ろを歩く。
今日はあの不審者に合う以外はそこまで運が悪いことはなかったのに、何だろうこの拭えない違和感…
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