第10話 おじいさん

 

 胸元でうるさく震える水晶玉を懐から取り出し、気になってしょうがない女の子からわざわざ離れた位置に移動したオレは、やや機嫌悪げにババアに返事をする。


 “昨日と違ってぇ機嫌わるいじゃなぁ~い”


「いいところで邪魔されたからね~」


 “あらぁごめんあそばせぇ”


 クスクスと笑いながら謝るババアにさっきまでいい気分だったのが急激に下がるのと同時に、あの子がどこかへと逃げていく気配がして後ろを振り向くと、座る主を失ったベンチだけが取り残されていた。


「あぁ~!ババアのせいでせっかく見つけた面白い子が逃げちゃったじゃーん!もうむり!何もやる気しねぇー!」


 “私のせいってなによぉ~連絡ぅ~しただけじゃなぁいのぉ~”


 水晶越しでぷんぷんと言っているババアに内心気持ち悪いと思っていたら、そのまま言葉に出していたみたいで余計にめんどくさく怒られる。


 “あのねぇ~貴方にはだぁ~~いじなぁ~お仕事をぉ~頼んでるんだからぁ~ちゃんとしてくれなきゃダメじゃないのぉ~”


「うっせぇーな。ババアが連絡してくる前に楽しんだら報告するつもりだったわ~」


 通信しながら、手の中で水晶を転がしていると呆れのため息が聞こえた。だがそんな声も無視してやる気を失ったオレはその辺に寝っ転がり水晶も地面に置いた。


 “もうぉ~。それでぇ~そのするつもりだった報告ってぇ~?”


「あぁん~?この街にはどこにもいなかったし~来た気配もなかった~

 突然消息不明になったんだったら死んでじゃねぇ~」


 “……そうぉ~貴方が探してダメならぁ~ダメねぇ~”


 人探しの件でここまでオレを信用してるのも単に能力が特殊だからってのもあるが、オレは気になる存在である女の子を報告しとかなきゃ後々嫌味を言われるかもしないと思った。

 奇妙なオーラのこと言っとくかぁ?…いや、オレの今の仕事は捜索だけだしいっか~それにまだ独り占めしたいからやめとこっと~

 そんな気まぐれな考えを察したのかババアは逃げた女の子のことを質問してきた。

 それを曖昧に返事をして、もう眠いからと通信を切ろうと動くけど、その前にババアが余計な一言を漏らす。


 “ジルみたいにぃ~スマートにいかないからぁ~女の子に好かれないのよぉ~”


「あの蛇野郎と比べんなよババア~

 あぁ~最悪~オレはしばらく仕事頼まれてもしねぇ~から~!じゃ~ね~!」


 ちょっとぉ待ちなさいぃ~という言葉が聞こえたが、遮って水晶を暗くすると、ババアを映し出していた画像は消えて、ただの白い玉に戻った。

 蛇野郎は陰険だから、そんな奴と比べられるとイライラとする。それに、強い奴だから、殺したくてたまらなくなるんだよなぁ~

 いつかヤリ合って殺してぇな~


「あの子のオーラも相当強者だったな~けど、弱そうでもあるからな~…やっぱり、もっとあの子のこと知っていかなきゃ~

 弱いのかな~強いのかな~あぁ~楽しみだな~」


 ババアとの会話でテンションが下がっていたが、女の子ことを考えたら、一気にルンルンとした気分になり。もう一度どうやって会うかと想像しながら昼寝をむさぼった。




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 私は今、非常に困っております。


「ほっほっほっほ?え~と、それでお嬢ちゃんは誰だったっけな~?」


「おじいさん…私はマナカでおじいさんの依頼をしに来ました…その質問15回目です…」


『バリオンを相手してるみたいだな』


 夜一、そんなこと言ったらまたバリオンさん拗ねちゃうでしょ…

 それにしても、依頼の詳しい内容を把握できないからどうしよう…

 道具のこととか聞いたらすぐに答えてくれるからそこまでボケてないと思うのに、私に対してだけなのか、全然覚えてくれない…わざとか…?いや、バリオンさんがそうだからって、このおじいさんまでもそんな意地悪なことしない!しないはず!そうだよ!

 この道具屋も外見がちょっと古びてて一瞬閉店してるのかなとか失礼なこと思っちゃったけど、そんな外見を直せないほどだからか弱いおじちゃんなんだ!


「それでな、孫が可愛くて可愛くて…」


 何も聞いてないのに、また孫の話をし始めること繰り返し数回…全く現状が進みません…


『主様、ここはいっちょ光魔法でパッと光らせて本題に入らせまするでございます!』


 フシルはなんでそんな力技押し切ろうとするの…夜一に似てきた!?


「ほっほっ!かわいい孫はおじちゃんが扱う魔法道具が一番珍しいのそろってるって言ってくれるんじゃよ~」


「そ、そうなんですか」


 一応おじいちゃんっこの私にとって話を聞くのはそこまで苦ではないからいいのだけど、依頼の日数が今日までらしいから先に済ませてからのがゆったりできるんだけどな…


「わしの道具屋はな、若い時から集めてるものが多くての

 いろんな街からや、いろんな森から採集したものやら作った物やらが置いたあるから珍しいは当然じゃって~!」


「おじいさん冒険家だったんですか?」


 おじいさんの話が段々気になるような展開になってきてしまったので、依頼のことよりもついそちらに質問をしてしまった…

 冒険してたなんてちょっとわくわくしちゃうじゃん…初依頼、失敗でもいいか…


「…ほっほっほっ、お嬢さんもっと詳しく話すにはまず道具の整理をしていきながらの方が面白いぞ!

 ほれ!まずはあそこの棚からじゃ!」


 おじいさん!?急に活気あふれてますがどうしました!?私として全然ばっちこいですが…


『…やっぱりバリオンみたいなやつなんじゃね?』


 それは失礼だって。















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