第9話 マイペース

 

 昨夜ぶつかったことに関して、申し訳ない気持ちはあるけれども…いきなり抱き着かれたり、フシルを人質にとったり、明らかに偽名を使われて怪しまない方がおかしくない!?

 夜一だって、フシルのことを呆れはしているが、未だに警戒しているので気が緩まないし…

 この人はこの人で、日差しが暖かいねぇってすごいマイペースだし!?どうしたらいいの!?


「ほら~オレは名乗ったよ~君の名前を教えてよ~」


「……ま…マミです…」


「ん~ほんとの名前は~?」


「…明らかに偽名使ってる人に名乗りません!」


「うんうん、それもそうだね~」


 本名名乗ってないこと認めたし…というか私も噓ついたことなんでバレたの…怖い…

 出会う男の人達今んとこまともな人がいないんだけど…宿屋のセルナちゃんに癒されたい…もふもふの癒しもいいけど、可愛い女の子の笑顔で癒されたい…


「じゃあ、リスズに似ているからリスズって呼ぶね~」


「り、りすず?」


『プッ』


 りすずってなに!?てか、夜一今笑ったでしょ!?


『確かに似てるな…ククッ』


 りすずが何かわからないけど、バカにされてることはわかりました。夜一君後でお話があります。という風に睨むと夜一はそっぽを向いて口笛を吹く。

 夜一めぇ…今会話できないからもどかしいいぃ!


「…ねぇ~君ちょくちょくワンちゃんとかと目線合わせてたりしてるけどさ~おしゃべりしてるみたいだね~」


「え!?そ、それは…あれです!仲良しなので、そう見えるだけです!!よくあるでしょ!長年一緒にいると通じ合うって!」


「ふ~ん…そういうことにしてあげる~」


 マイペースそうに見えて意外と鋭いぞこの不審者…なんで、私尋問みたいにされてるの??

 意味不明な会話をさっさと終わらして、私は初依頼をしたいのに…依頼主さんとか待ってたりするよね…


「それよりもオレが気になるのは~」


 心の中で懸念していると、音もなくすっと離れて座っていた位置を詰められ両手で頬を包まれる。

 このスキンシップというか距離感バグってるよね!?というか動きが速すぎてついていけない!!あの俊敏な夜一も咄嗟に反応しきれなくて驚いてるし!


「アンバランスなオーラが凄い気になるんだよね~内側は強者が持ってるような魔力なのに、外へと放出されているのは微々たるもので~」


 オーラ…?魔力とか言ってるからそういう系かな…って、近い近い!!昨日と同じで段々近づいてきてるし!!


『オラッ!』


「おっと~ま~た邪魔されちゃった~」


『この変態が!!同じような手口使ってんじゃね!』


 そうだ!そうだ!この変態!

 全く…夜一が間に入ってくれたおかげでお互いの顔は離れてくれて助かった…


「手厳しいワンちゃんだ~もっとリスズちゃんの瞳とか観察したかったのに~」


「いや、ほんともうやめてください…私も用事があるのでそっちに行きたいんですが!」


「え~用事って~?もっと君たちのこと知りたいから一緒に行くよ~」


「ダメです!昨日初対面なのにどうしてこんなに絡んでくるんですか!?」


「面白いそうだからに決まってるじゃん~」


 面白そうって…こういうタイプって周り巻き込んでハチャメチャしそうだから関わりたくないよ…


「ギルドの依頼なので、他の人がいたら達成ってならそうなのでやめてください…それに不審者と行動とかしたくないです!」


「悲しいな~オレそこまで変なことしてないのに~」


「さっき後ろから急に抱き着いておいて何を言いますか!」


「え~あれすれば女の子はイチコロって教わったのに~」


「ある程度仲を深めた者同士がやることです!昨日会ったばかりの人にやられたら変質者としか思われませんよ!」


「そうなの~?じゃあ、もうしないから仲良くしよ~!」


 とまたもや腕を広げて近づいてくるので、椅子から立ち上がり避ける。


『こいつ全然わかってなさそうだぞ…』


 ダメだ…誰かこの不審者に対応できる人いませんか…保護者の方ー!!

 フシルも腕の中で眠ってしまってるし、夜一もこの状況の打破をできそうになくて、頭を悩ませていると、不審者の懐から何やら青く光ってピピッという音が鳴り響く。

 その音に一瞬眉を寄せて、終始口角を上げていた口元をへの字に曲げる。

 うげぇ~と嫌そうな声を上げて渋々懐に手を差し込んで、握り拳ぐらいの丸い玉を取り出す。

 みたこともないもので、不思議に眺めていたら不審者に優しく頭に手を置かれて撫でられた。

 頭ポンッだと…好きな人にやられたかった…


「オレの上司から連絡来ちゃった~ちょっと待っててくれる~?」


 そう言い残して、背を向けながら木陰に身を寄せに行った不審者に今がチャンスとばかりに夜一を連れて全速力でその場を逃げさった。

 ふぅ~難は逃れた!!もう二度とあの不審者に合いませんよーに!!


「よくわからないけど丸い玉のおかげで逃げれたね!」


『丸い玉って、多分あれ通信用の水晶だぞ』


「通信用…?携帯みたいなの?」


『ケイタイ…?』


 あ、ケイタイはこの世界なさそう…そういえば、私寝てるときに転移してるから携帯持参してないや…

 現代っ子の私よく気にしないでいられたよ…元々そんなに依存タイプじゃないからあれだけど…


『…ん?あれ私は…?いつの間に寝て…』


『やっと起きやがったか。あの状況で寝れるお前は危機管理能力低すぎだ』


「私もそう思う…」


『え?え?私あのいかにも恐ろしい人物の腕の中で…!?主様の腕の中以外で寝てしまったのでございますか!?

 うぁああああああああ!!!』


 フシル…別にそこまで嘆くことでもないと思うけど…まぁドンマイ

 自分のしてしまった行動に恥ずかしさもあるのか私の胸に顔をうずめて涙をまき散らす。

 それに夜一はうるせぇ!と怒って首根っこを掴んで私から引き離して、くわえたまま歩き出す。抵抗もしないフシルはグスンッとしながら私へと謝罪を繰り返す。


「謝らなくていいって、それよりもあの不審者に撫でられた箇所が気になる…」


 私でもフクロウ?の寝かしつけの撫で方はわからないのに!!あの不審者に先を越されたことが凄い悔しい!キィー!


『気づいたら寝ていましたので…どこを撫でられていたかは…』


「そうなのね…今度フシルを撫でる練習させて…」


『はいでございまするよ!』


『ペッ、立ち直りはやぇな』


「ところで、夜一君不審者がりすずって名付けた時笑ってたけど、りすずって何だい」


 笑顔でフシルを離した夜一に詰め寄ると、目をそらしながらごまかそうとしてきた。

 フシルはりすずと耳にして、小動物のことでございますかと?知っているかのように訪ねてきた。


「小動物?」


『リスズは木に生息していて、尻尾が体の大きさと同じ長さで目が大きな小動物です。房毛が密生しているのが特徴的でございまする!そして、何よりも美味なんでごまするよ!』


 その特徴ってまるでリス…私リスに似てるってか…可愛いけど、絶対にバカにした意味で言ってきたのよね!

 夜一もそういうことよね!酷い!!フシルも想像してよだれ垂らしてるし!やめて!?

 意味を理解した私は、依頼場所までぷんすかと怒りながらフシルの美味とい言葉に身震いをしていました。

 全く!純粋に私を褒めてくれる人はいないの!?


























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