第6話 迷子

 トントンッ

 朝日が窓から差し込んでいるのを感じ、扉がノックされた音を聞き取る。

 タオルを巻いたまま寝てしまっていたので、起きて目の間にあったフシルと夜一のもふもふした毛で暖をとる。

 あったかい…けど、毛玉になってる箇所が…あとで洗ってあげよう…

 まだ、覚醒しきれてない頭でぼんやりとそんなことを考えていると再び扉がノックされる。


「マナカさーん!おはようございますー!朝食がご用意できてますよー!」


 可愛らしい声で、ご飯が出来ている知らせを聞いた私は、すぐに行くことを伝え、即座に立ち上がり服を着る。

 ベッドから抜け出した勢いで、夜一達も目を覚まして、欠伸を同時にしていた。

 シンクロしてる…可愛い…

 前足を前に押し出して、伸びをした夜一もご飯だと理解したのかベッドから降りて扉前に座って準備できるを待つ。フシルは嘴で毛繕いをして、一頻りブルブルさせると私の頭に乗ってきた。

 朝から癒しをくれるこの子達、守りたい。


「バックも持って、いざご飯へ!!」


 準備が出来た私は、泊まっていた2階から1階に降りる。昨日名前を教えてもらった、女の子セルナちゃんがいるであろう食堂へと赴く。

 朝食のいい匂いが鼻を掠めて、お腹が空いた音を鳴らす。

 ここまで、りんごもどきしか食べてなかったのと、夜一たちにまともな食事をさせられることにワクワクした気持ちが昂る。

 席に着いた私の前に、朝食を置かれてく。一見、現代にあるような食べ物と似ているが名前が違うらしい。


「どうぞ!お母さん特性のココンスープ、ポロット肉のオムート、デザートに朝採れたてのチゴを添えたヨンクです!ワンちゃん達には、ポロット肉を茹でたものと負担が少ないお野菜を添えてあります!」


 名前は覚えきれなかったけど、おしゃれな朝食なことは確かだね!!うん、きっと!!

 夜一たちにも適した食事を出していて、美味しそうよりも先にその人に会った食材で感心してしまった。

 凄い…絶対この宿の人達は動物好きだ。


「おかわりもありますので、いっぱい食べてくださいね!では、ごゆっくり!」


「ありがとう!じゃあ、いただきまーす!!」


 久方の食事で一口スープをすすった瞬間に幸せが広がる。美味しいご飯はお腹だけじゃなく気分も満たしてくれる…トウモロコシみたいな味でクリーミーな甘みがあってコーンスープに似ている。とすると、オムートはオムレツかな?あとは、ヨーグルト的なものか…

 私のお母さんでもこんなオシャレに作らないよ…関係ないけど異世界凄いわぁ…

 夜一はがつがつとお皿の上のお肉っぽいものとかを豪快に食べてて、いい食べっぷり。

 フシルは食べやすいようにか、一口サイズにしてもらっていて丁寧に銜えて食べてる。

 高貴という言葉が似合うね。

 最後まで残さず食べきった私たちは、セルナちゃんたちにお礼を言って宿を後にした。


 セルナちゃんのお母さんに、ギルドまでの道を教えてもらったのである程度は歩いて行けたけど、初めての街で何が目印なのかがわからず結局迷ってしまった。


「迷子だ…全くどこがどこだかわからない…」


『ギルドだから大きい建物の筈だと思うぜ?俺が知っていギルドは人が大勢いてもスペースがあるぐらいだったし』


『夜一がいっているギルドは帝国ではないでございまする?

 私の見解では、そこまで発達したような街ではなさそうでございまするが…』


「ふむ、我の昔の知識では、ここはまだ畑が多かったのでな、ここまで賑やかでは難しいな」


 訪れたことがあるらしいバリオンさんも、お手上げ…


「おじょーさん、可愛い顔を曇らせてどうしたんだい?お困りならお手助するよ~」


 はぁ…誰かに道を聞くしかないか…

 優しそうな人…と歩ている人に声を掛けようとしたら目の前で金髪の男の人が前方を防いできた。

 また不審者??


「ちょ、無視は傷つくなぁ」


 …話しかけてた?いや知らん。


「う~ん、手強そうなお嬢さんだ

 …何やらお困りの様子だったから声をかけたんだけど、違ったかな?」


 この人は親切な人か…!?今まで賊か不審者ぐらいしか遭遇してないから判断が…!?

 夜一…欠伸してるや…警戒してないから大丈夫かな…

 フシルは細目で、若干冷めてそうな眼差しがあるように見える。どうした。


『こういう輩は、絡むと厄介とういのが定石でございまするよ。』


 厄介なら違う人頼むか


「あ、すみません大丈夫です。」


「いや~そんなきっぱり断っちゃうか~

 僕も、そこまでしつこい男になりたくないからね。ここは諦めるよ。とほほ…」


 肩を下げて、しょんぼりと見えてしまったので、少しだけ罪悪感が芽生える。

 だけど、ここは何事もなく目的地に着きたい私としては、厄介そうな人は遠慮したいんだよね…ごめんなさい…


「はぁ…暇だし、ギルドで依頼ないか見に行くか…」


「え、今ギルドって言いました?」


「ん?うん…もしかし、君ギルドに用かい?」


「あ、はい…」


「よかったら一緒に行くかい?」


 良い人だ!!この人良い人っぽい!フシルの意見も気になるが、このまま迷って何もできないんじゃどうしようもないしね!連れてもらおう!


「はい!失礼な態度ですみませんでした!お願いします!」


「うん、うん。素直な可愛い子だね。ギルドの用が終わったら僕と一緒にデートでも…」


「それはごめんなさい」


「即答っ」


 爽やかに、歯をみして笑う男の人は、私の回答にもめげずギルドの道すがらでも、ずっと甘い言葉を吐き続けられた。

 ここまで、言われると照れるよりもうんざりが勝つね。フシルの言う通り厄介な人だった…


『この時のマナカは、この厄介がまた違う意味の厄介がやってくることをまだ知らなかった…』


 夜一!?変なフラグ立てるのやめて!?






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