第5話 ひと段落

 

「ありゃ~残念~」


 言葉とは裏腹に、へらへらとした口調で両手を肩辺りで掲げている白髪なのに毛先は黒くなっている人。距離が数センチ離れたことで、容姿が目につき凄く整った顔立ちをしていることが確認できた。

 危うく唇を奪われそうになって、めちゃくちゃドギマギとしてしまった…

 恋愛初心者にいきなりやめて…というより、初対面にいきなりあんな事してくるのやばい人じゃん!

 通報ものですが!ほら!夜一たちも警戒して、すごい唸り声あげてる…え、夜一親の仇かってぐらい怖い顔しながら唸ってる…あ、やばい咬みつきそう!?


「夜一!?」


『下がってろ!こいつから、冒険者でも有り得ない程の夥しい血の匂いがしみつてやがる!!』


 夥しい血の匂い…

 現代日本では、聞きなれない単語の為、処理するのに数秒かかった。

 この世界なら当たり前だと勘違いしそうになるが、夜一が言っているという事は普通ではないと理解する。

 そして、理解した後に背筋に冷たいものが走る。

 あり得ない程って…もしかして、命の危機的なヤバイ人とぶつかったの!?

 …深く謝罪して、速攻逃げよう。

 今にも襲いかかりそうな夜一を抱え込み数歩離していた距離をもう数歩、後退る。

 小さい中型ぐらいの大きさなのにずっしりしてる…夜一筋肉だるま…

 フシルは、私の肩に戻ってきたけど少し、震えている。夜一の発言に怯えちゃったかな…


「怖い怖い~、君の犬、すっごい牙向けてくるね~優秀な番犬だ~」


「あ、あの本当にすみませんでした…!今度からちゃんと前を見るので、じゃ、じゃっ!さよなら!」


「えぇ~、もうちょっとお喋りしようよ~」


 やばい人に頭を下げて、歩いてきた道を戻ろうと足を踏み出したら、フシルが乗っていない方の肩を掴んできた。

 しつこい勧誘かこの人は!


『グルルルルッ!!』


「おっと~危ない危ない~」


 抱え込んでいた夜一は、怒りを含めた唸り声をあげながら手に牙を突き立てようとした。

 だが、咄嗟に手を引っ込められる。夜一はますます警戒心を募らせて、私の腕から這い出て、再度対峙する。

 私は逃げる推進派なのに、夜一は好戦的すぎるよぉ…

 この状況にもはや涙が出そうになる…そんな私と反して、ヤバイ人は何やら楽しそうで口元がずっとニヤニヤとしている。それに、猫のような目つきで、そこからわかる緑の目が段々違う色に変わってきている気がする。


「普通の犬そうなのに~強いオーラだねぇ~君たち面白い~!

 あぁ~ヤリ合いたいなぁ~」


 怖いよぉおお!!この人本格的にヤバイ人だよぉお!!笑顔が更に恐怖をあおるよぉお!!


「ねぇ~オレと楽しいこと…」


「あぁーーー!!あそこにお巡りさんがぁーーー!!おーい!!ここに不審者ですーーー!!」


「おまわりさん~?」


 本格的に戦闘が始まりそうな雰囲気を感じ取った私は、この人の気をそらすアクションを起こした。すると、お巡りさんという単語がわからなかったのか首を傾げて後ろを向くだけだった。

 焦る想像をしたが、視線をそらしてくれただけでもチャンスと思った私は、素早く夜一を抱えなおして身体強化と獣魔法で、できる限りの全速力でこの場を後にした。


「ぶつかってすみませんでしたーーー!!」


 残されたやばい人は、最後に不穏な言葉を言っていた気がしないでもないが、ビビりちらした私にはわからなかった。

 ある程度、あの場から離れた私は未だに警戒心マックスな夜一を地面に下す。フシルは突然の全速力で捕まるので精一杯だったのか、目を回してぐったりとしてしまっていた。

 ごめんフシル…


『あの野郎…次は噛み千切るっ!』


「次はないです!?合わない方向で警戒して夜一君!?」


 それにしても、あの怖い人何だったんだろう…夥しいほどの血の匂い……殺人鬼か!?

 はぁ…この世界に来てから落ち着けたの夜一に出会った時だけだよ…


『…そうだな…確証がねぇが、戦っても勝てる気が全くしなかったからな…』


 好戦的な夜一が勝てそうにないだと…!?逃げて正解じゃん!?


「まぁ、難は逃れられたからよし!夜一!フシル!私はもうへとへとです!!宿探し再開しよ!!」


 兎にも角にもずっと動きっぱなしだから限界が近いのよ…フシルも気絶してるし…

 丁度いいところに宿ないかな…


「あ、あの!宿をお探しですか!」


 キョロキョロと辺りを見回していると、10歳ぐらいのツインテールをした女の子に話しかけられた。

 どうやら、宿にお客さんを招きいれるために、外で接客をしているみたい。

 探すのも大変だったので、ありがたく宿を紹介してもらうことにした。

 いやー、怖い目にばっかりあっていたので、女の子が天使に思える。

 早速宿に着いた私は、スライムを倒したときに得られたお金っぽい金貨を一袋出した。そしたら、宿屋のおばさんが腰を抜かしてしまった…女の子はなぜか爛々とした目つきに変っていて、おばさんの代わりにチェックイン的なのをしてくれた。

 君、商売上手ね…


『…マナカ…金貨は一枚で一週間分ぐらいだと思うぞ…そんなに出しちまったら、また変な奴らに目をつけられちまう…』


 常識がわからないんだもん…まぁ、これで2か月ぐらいは持つからいいでしょう!

 お金のことはまた勉強していけばいいし。部屋に入ったら私は休みたいの!お風呂にも入りたいの!!

 そうして、部屋に案内された私と夜一たちは、そこそこ広い部屋に感動する。

 希望していた、浸かれるお風呂はなかったけども、シャワー室があったので嬉しい…説明などは軽く聞いて女の子が去っていたのを確認したら、服を即座に脱いでシャワー室へと駆け込んだ。


『あいつ…もっと慎みもてよ…』


 と呆れた声がしたが、むしむし

 今は、汗やなんやらをさっぱりさせたいの!!

 あぁ~気持ちいぃ、何日もたっていないと思うのに、久々な感じがして気が抜ける。

 そして、シャワーにあたりながら怒涛のように過ぎた出来事を思い出していく。


 私って、なんで異世界に来たんだろう…いろんなことがあっという間すぎて、全然深く考えなかったけど、おかしいと思うこといっぱいあった気がする…

 おじいちゃんもこの世界に昔、来ていたみたいだし…そんな話一回も聞いたことなかった…なんでだろうな…

 普段から考えてもわからないことは、スルーしていく私だけど、こんな不思議でありえない出来事は慎重になっていかないとダメだろうなぁ…

 はぁ…夜一たちと出会えてよかった…一人のままだったらきっと泣いてるな。大泣きよ。…癒しのモフモフを夜一たちから堪能させてもらおう。

 そう決意した私は、体を洗い流して、そうそうにタオルを巻いて出ると、夜一たちはベッドで寝てしまっていた。

 そうだよね…夜一たちも戦闘して、休む暇なかったもんね…


「夜一、フシル、ありがとね…」


 一撫でづつし、私も眠くなってしまい欠伸をしたあと一緒に横になった。

 明日のことは、明日やればいいさ…おやすみ…




























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