番外編
番外編 ウォール
「ふざけんなっ!!!俺を外すだと!?」
ギルドの談話室で俺の怒声が響く。
それを3人掛けのソファの真ん中で、ムカつくぐらいの余裕さで対峙しているのが、俺が入ってるチームのリーダだ。
「僕は言ったよね。素行が直らなけば君のことを1から考えなきゃいけなくなるって。
なのにウォールは、この前喧嘩してたよね?それも、民間人と」
「先に喧嘩仕掛けてきたのあっちだ!!納得いくわけねぇーだろ!!!」
「はぁ…僕達はSランクチームだよ?ましてや、もうすぐ勇者選考時に、そんな事されたら困るんだ」
この国では30年に1度勇者が選ばれる。その最有力候補として、俺たちのチームが上がっていた。
「そんなことわかってんだよ!けど、舐められたんだから仕方ねぇだろ!!」
机の上に置いてあったコップ等が、一瞬浮かぶ程の勢いで手を置いても、こいつは平然としてやがる。
「そういう問題じゃ…」
「ガリュ!連れてきたよ~!…あれ?まだ話し中だった??」
「ほら、やっぱりもう少し待った方が良いって、言ったじゃない。」
「すみません、ノックはしたんですが…」
見慣れたチームメイト2人の内1人が、音を立てて片手で扉を開けて入ってくる。
もう1人は、最近ギルドに入ってきた女で、回復魔法と光魔法どちらも使えると噂されていたやつだった。
なんだよ、そういうことかよ。
「ウォール、何か勘違いしてるようだけど…」
「勘違いじゃねぇだろ。素行が悪いなど適当なこと言って、ただ単に、俺をチームから外す理由がほしかっただけじゃねぇか!!!」
こいつらは!!
俺を邪魔だと思ってただけなのかよ!!
「俺がどんだけ、このチームに尽くしてきたかわかってんのか!?俺の力がなきゃここまであがれてねぇぞ!!」
「そういうとこだよ!」
最初に楽しげに入ってきた奴が、俺に言い返してきやがった。
「ウォールのその乱暴なところと、恩がましいとこ、みんな迷惑してるの!」
「そうね、他のチームにも貴方の態度の悪さは目に余るもの」
次から次へと不満を口にするやつらに、どうしようもなく、イラついて、握り閉めている拳から血が出てくるのを感じる。
ガリュは、そんな2人を咎めることもせず、冷めたような目を俺に向けてくる。
「あぁ、そうかよ。お前らは、俺のことがそんなに邪魔だったのかよ。
いいぜ、お前らの願い通り出てってやるよ!!!
俺が居なくなれば、こんなチームすぐに廃れるがな!!!」
捨て台詞をチームの面々に向けて放ち、最後に俺の代わりの奴を目にした。
こんな奴に…!!俺は…!!クソっ!!!
大きな音をたてて、扉を閉めた俺は、チームを抜ける申請と共に、ギルドも辞めた。
くそっ!!あいつら…!!俺が使う魔法の方が絶対に強いってぇのに!!
あんな貧弱そうな女を代わりにするなんてよぉ!!
堪えきれない怒りを、道の端にあるゴミ箱で発するべく、蹴りを入れる。
地面と一体型になっている為か、吹っ飛ぶことはなかったが、半分ほどへこみ中身が少し出てきた。
出てきたゴミが俺の足につくと、尚更怒りが抑えられなかった。
「くそっ!!!!」
人通りがないと思って、怒声を響かせたが聞いていた奴がいたみたいで、俺に声をかけてきた。
「誰が騒いでるかと思えば、ウォールじゃねーかぁ!久しぶりだなぁ!」
そいつは昔、近所でよく一緒につるんでいたヤローだった。
久しぶりに会ったことと大声を出していたことで、呑みに行こうという話になった。
酒場では、思い出話に花を咲かせ、今の近況を愚痴る。
「ギャハハハッ!英雄になるって頑張ってたのになぁ!そりゃあ災難だぜ!」
大笑いするヤローにまた、イラつくがこいつの提案にそれもなくなる。
「それならよぉ~今オレがいる組織に入って、そいつらに目にもの見せねぇか!
お前の実力なら、すぐに幹部になれるぜぇ!」
ヤローが云う組織は、麻薬、人身売買、殺しなど様々な悪行で名を轟かせるアトゥーリ会らしい。俺は別に悪いことをしたいわけじゃなかったが、あいつらに一泡吹かせてやりたいという、欲望に駆られつい、承諾してしまった。
≪みんな迷惑してるの!≫
いいぜ、てめぇらが俺を悪者扱いするなら、本物の悪者になってやるよ!!
ヤローに通信の水晶越しに幹部の一人に紹介され、そのまま俺はアトゥーリ会に入団した。
俺は魔法に自信があり、元上級冒険者というのも相まって、難なく上の役職についていった。
ここなら、自分の実力を認めらる。正当な評価が得られることに俺は満ち足りっていく。
だが、表では俺を外したチームが、勇者一行に選ばれ、どんどん名声を得ていっているのを耳にする。
その情報を聞いたは俺は、自分の力をみてもらっているのに、堕ちるとこまで堕ちているのを感じた。
また、消化しきれない苛立ちが募る。
俺が…俺がいないのに…!なんでだよ!?絶対に俺の方が強いのによぉ!!くそぉお!!!
唇を噛み締め、悔しいさを抑える。
そんなある日、ワシミズ族が一匹で光魔法を放っている場面に出くわした。
「おいヤロー。あそこで、一丁前に攻撃魔法の練習をしてるワシミズ族がいんぞ。」
「ほんとだぁ、あれ捕まえたらきっと、お頭にご褒美もらえるぜぇ!早速捕まえようぉ!」
一匹でいた子どもらしきワシミズ族は、簡単に捕まえることができ、お頭に水晶から報告した。
“あらぁ~、光魔法を使えるワシミズ族なんて、ちょ~貴重じゃなぁ~い
よぉ~くやったわぁ~やっぱりウォールを期待して損はなかったわねぇ~”
「ありがとうございます。こいつはどこで売りましょうか?」
「ちぇ、オレもいるのによぉ」
“そうねぇ~その子は直接私のところまでもってきなさぁ~い”
「…お頭のところにですか?」
“そうよぉ~ついでに貴方の位置づけに関して考えてあげるぅ~
けどぉ~、その子を逃したらぁ~殺しちゃうかもね~”
間延びした話し方から、最後は脅すように俺たちに言い聞かせると、一瞬背筋を凍えさせる。
水晶越しのなのに、この人の殺気はやべぇ…流石アトゥーリ会のトップ…
“じゃあ~よろしくぅ~”
俺達の返事を待たずして、通信が切れる。
せっかく俺のことを認めてくれている人を失望させないためにも、このワシミズ族を分厚い鉄格子の籠に入れる。
怪しまれないよう、商人のふりをして村を出るまでは、よかったのだが、こいつの親らしき鳥が風魔法を放って来やがった。
「おいおいぃ!畜生如きがオレたちを襲うなんてなぁ!!ウォール!俺に身体強化だぁ!!」
「ヤローが出なくても俺がさっさと終わらすぜ」
と、水魔法で対戦するが、意外にもワシミズ族の親鳥二匹は強かった。
こいつら、魔法に特化してるだけあって威力あんな…けどなぁ!!俺は、もっと鍛えてきたんだよ!!
「
水が渦になり、二匹のワシミズ族を巻き込んで中心に寄せていく。
中心まで、抵抗できず引き寄せられた二匹はお互いにぶつかり合い俺は、水の球を作る。
その中で息をできなくさせ、力が抜け気絶する瞬間を狙って水をはじけさせる。
「ピィ…ピィィ…」
僅かに鳴き声を出しているので死んでないことを確認する。
「ウォールの魔法の扱いはやっぱすげぇなぁ!!流石、Sランクチームにいただけあんぜ!」
「その話はすんじゃねぇ!!」
「わ、わりぃ…」
あいつらの話題を出されただけで、今も怒りが生じる。
とにかく、ワシミズ族を3匹も捕まえたんだ。報酬も期待ができることを確信して、倒れこんでるいる二匹を捕らえる。
その際、大きく鳴き声を出したと思ったら、初めに捕まえた方を逃しやがった。
気づいた時には、もう遠くへと逃げていき走っても追いつけなほどだった。
そのことを、急いでお頭に報告すると、最初は沈黙が訪れたが二匹は捕まえたことによって猶予が施された。
早く、捕まえなきゃ、せっかくの居場所が…俺の命がねぇ…!
ヤローと共に、手当たり次第に探索をし、やっと捕まえることができた。
これで…これで俺は…俺は…?
俺は、こんなに焦って何をしてんだろうな…
……そんなこと、今は気にしてられねぇ…急いで、行くか。
近道と、警備の目が薄いシェーンペルマの森付近を通ることにした俺たちだったが、またもやワシミズ族に逃げられてしまった。
あの野郎!!どうやって籠から抜け出したんだ!!
逃げた先はシェーンペルマの森の中とあって、躊躇はしたが命に代えられねぇのとお頭に命令されて、ヤローを連れて入っていく。
そこでは、途中ジャブゴブリンと遭遇したが、アトゥーリ会の道具で煙に巻き戦いをせずに済んだ。
けど、そのあとの小娘の相手が悪かった。
なんだよ!あの魔法は!!威力が馬鹿じゃねぇのか!?それに技名も叫ばずに放つなんて!!そんなの英雄級じゃねぇか!!ありえねぇよ!?
余裕をかいてた俺たちは、規格外の魔法の威力を前にして、怯む。
正直、初めて逃げ出したいと思った。けどなぁ!!ここで逃げたら後がねぇんだよぉお!!
出来る限りの魔法を使って小娘に当てようとするが届かず。ヤローを身体強化させて突っ込ませても効かず、手の施しがなかった。こんな奴に勝てるわけねぇ…くそっ…
俺もヤローみたいに燃やされるのかと、全身、火をまとったヤローを呆然と見ながら頭に思い浮かぶ。だが、こいつはヤローを治しやがった。こいつは何者なんだ…
そんな風に小娘を見ていたら、黒い物に抵抗空しく飲み込まれた。
ちくしょう…!ちくしょう!!ちくしょう!!!死にたくねぇ…!死にたくねぇよ…
俺は…ここで死にたくねぇんだよ…
≪ウォールは乱暴すぎ!!≫
うるせぇ…
≪貴方の態度の悪さは目に余るもの≫
うるせぇ…!
≪みんな迷惑してるの!≫
うるせぇ!!
俺だって…!俺だって!!昔憧れたあの人みたいになりたかったんだ…!!
アトゥーリ会に入って、力を示したかったんじゃねぇ…人が苦しむ姿がみたかったんじゃねぇんだ…!!
俺は…俺は…!!
誰かを救える、英雄になりたかったんだよ…
ガキの頃に眺めた、勇者一行の姿を最後に意識は消えていく。
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次に目覚めたときは、小娘が俺を手当てしている光景だった。
「…んで、助けた…」
「別に、おっさんたち発見して、死んでたら目覚め悪いし。それに、これで恩売っといてフシルにも構わないようにしてくれたらなーって思って?」
「…フン、俺らが手を引いても他の奴らが狙ってくるのは変わらないぜ
ここで、捨て置いた方が得策だ」
そうだよ、俺を捨てたあいつらみたいに、お前も損になるやつは捨てろよ
「捨てないよ。最後まで面倒みるって約束したもん
さて、怪我も治ったしおっさんたちはもう悪いことしちゃダメだよ!バイバイ!!」
そう言い残した小娘は、ワシミズ族たちと速足に離れていった。
最後まで面倒みるか…ずりぃな…俺も…そんな仲間が欲しかった…
小娘の背中が見えなくなるまで、そいつらを眺め、いつの間にか、寝てしまった。
「困りましたね…聖女様がこの森にまだいると思いましたのに…いるのはチンピラ二人ですか。」
「とりあえず、ひっ捕らえて情報を引き出します?」
「そうですね、厄介ごとにならければいいのですが…」
そんな会話が聞こえ、また次ぎに目を開けた時は牢の中だった。
正確の場所はわからねぇが、聖女とか言ってやがったから聖教会だろう。
まぁ、あの小娘のことはすっとぼけてやるよ。
目が覚めたら、もふもふに囲まれたい かむヨン @kamuyonn1
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