第22話 ルビィーナ

 それから何度か場面が移り変わっていく。まるで映画のワンシーンをスキップ感覚で体験している感じで、もう少し会話を聞きたいときには違う景色になるから歯がゆい。


 そして、一つ思ったことがある。それは、場面が変わるたびに毎回おじいちゃんとバリオンさんが登場していることだ。




 ルビィーナさんの記憶の大半はおじいちゃんたちで占められているってことなのかな?




 おじいちゃんたちが語る話は、どれも新鮮で胸が躍るものばかりで、ルビィーナさんは聞き入る。また同時に、おじいちゃんたちがやってくるたび、淡いくすぶった感情が心に芽生え始めていることに私は、ちょっと気恥ずかしい。


 いくらあんまり鋭くない私でも、感情がリンクしてるから丸わかりだよぉお


 身内の恋愛は小っ恥ずかしい…




 でも、このルビィーナさんの記憶を私はなんで眺めてるんだろ…


 それにこんな幸せな景色が続いてるなら、やっぱり魔獣のではないよね…?


 うーん、わからん…




 おじいちゃんが笑えば、表情は分からないけど、心があたたかな気持ちになっていく。そんな光景ばかりだった。




 なのに…




 〔どうしてだ…どうして俺たちだったんだ!!!


 こんなのおかしいだろ!!〕




 〔帰りたい…帰りてぇよ…〕




 穏やかな筈だったのに、場面が変わり、不穏な雰囲気になり始める。




 おじいちゃん…?




 〔マスター…〕




 〔みんな、いなくなった…俺の大切な人達は…みんないなくなっちまった…〕




 泉の前で両膝を地面につけ、空を仰ぐおじいちゃんは虚ろな目をしていた。




 〔ここは…俺にとって…つらいだけだ…〕




 〔…〕




 空を仰いだまま、立ち上がるおじいちゃんに、ルビィーナさんの心は締め付けられる。


 何かを言ってあげなければいけないのに、なにも言葉が思いつかない。


 ましてや、全てを知らない自分にとって、おじいちゃんを慰める事などできないと自分自身に失望している。




 〔苦しい…苦しい……〕




 〔マスター…一体何が…〕




 ルビィーナさんが問いかけても、おじいちゃんは口を閉ざしたまま、今度は泉を見つめる。




 〔なぁ…ルビィーナ…俺は…俺たちはどうしてこの世界に呼ばれたんだ…〕




 〔この世界は…醜いな…〕




 〔マスター…?マスター!!〕




 やっと、口を開いたおじいちゃんはそう言葉を残し、泉へと体を沈めた。


 急いで、おじいちゃんを助けに飛び込むが、泉に沈んだおじいちゃんは何処にもいなかった。




 泉を隅々まで、血眼になって探した。


 探しても…探しても…おじいちゃんは何処にもいなかった。




 〔ルビィーナサマ…ゲンキナイ…


 ルビィーナサマ!オハナイッパイサカス!ソシタラゲンキ!〕




 泉だけじゃなく、森のあらゆるとこを探しても見つからないルビィーナさんは、最後におじいちゃんを目にした、泉の前で立ち尽くす。


 そんなルビィーナさんに小さな粒の精霊たちは、元気づけようと色んなお花を咲かしてみせるが、目線は泉から離れなかった。




 そんなところに、おじいちゃんとは別の男の人の声が聞こえてきた。




 〔おい、あれ見ろ、金なりそうなモンスターがいるぜ〕




 〔お!ホントだ、早速捕まえよぜ〕




 それは、私と対面した賊共と同じ人種のやつらだった。




 醜い…




 〔おい!あっちにも希少な精霊いんぜ!捕まえよ!〕




 〔ここは金になりそうなもんばっかだな!〕




 醜い…醜い!醜い!!


 こんなヤツらがいるから…こんな奴ばかりがいるから…!


 マスターはいなくなったんだ!!!




 消してやる…全て…全て消してやる!!




 〔ヒィイイイ!!や、やめろ!やめてくれ!〕




 〔ルビィーナサマ!ヒトコロシタラオチャウ!!ダメ!!〕




 賊共を消し去ろうとするルビィーナさんを必死に止めようとしてくれている。


 だけど、ルビィーナさんの心には響かなかった。




 〔殺さなきゃ…マスターは、戻ってこない…〕




 〔ルビィーナサマ!〕




 目の前が真っ黒に染まる。




 消さなきゃ…消さなき…!


 全部…全部…!


 また綺麗だって……また素敵だって……


 マスターがまた言ってくれるまで…消さなき!!!




 〔ぎゃああああ!!〕




 こいつも…




 〔や、やめてぇえ!!〕




 こいつも…!




 〔うあぁぁああ!!〕




 こいつも…!!




 マスターが醜いって…汚いっておもうもの全部!全部!!消してやる!!!!




 だから…




 だから…マスター…




 それ以上…苦しそうに泣かないで…








 ___


 _______________


 ___________________________________










【…ナ゛ガァ…ナ゛ァィデェ…】


【マ゛…ズ…ダァ…】


【ワ゛ラ゛ァ…デ……】




 映像は終わり、いつの間にか私は、涙を流していた。


 闇に包まれながら、頬を流れる涙を拭ってくれてるこの人は…




「マナカ!!」




 ずっと私を包んでいる闇に体当たりをしていたのか、ボロボロになった夜一が内側からみえる。フシルは息切れを起こしながらも、光魔法を矢継ぎ早に放っている。


 心配かけさせちゃった…




「ごめん!!!私は無事だよ!!」




 夜一たちに生きている事を伝え、それ以上ボロボロになって欲しくなかったから攻撃をやめさせる。


 そして、ネックレスの石を力強く握りしめる。




「バリオンさん…この人は、ルビィーナさんなんだね」




「…やはり…そうなのか……」




「わかってたの?」




「姿かたちが昔とは違い、完全に魔獣となってしまっていたから最初は分からなかった。


 だが、この泉を見つけた瞬間に気づいてしまった。」




 石越しでも、バリオンさんの声が物悲し気なのを感じる。




【マ゛ァ…ズ…ダァ……】




【ゴメ゛ェ……ナ゛ァ…ザィ…】




 どうして、ルビィーナさんは謝ってるのだろう…?


 それに、私はおじいちゃんないのに…マスターって…




【モ゛リ゛…ヨ゛…ゴォ…レ゛ダァ】




【マ゛ァ…ズ…ダァ…イ゛…ダ…ギレェ…ナ゛…イ゛…】




【ヨ゛ゴォ……ジ…ダァ…ゴメ゛ェ……ナ゛ァ…ザィ】




 あぁ、この人は…おじいちゃんの為に…




「ねぇ、バリオンさん…どうしたらルビィーナさんを助けれる?」




 ルビィーナさんが人を殺してしまった事は、悪いことだけど…


 おじいちゃんのことをこんなに思ってくれた、この人を助けたい…




「一度堕ちてしまい、魔獣となった精霊を元に戻すことは出来はしない…」




 そんな…




「…だか、お主の魔力で扱う、光魔法で浄化をできるかもしれん」






 私が扱う魔力で…?


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