第21話 おじいちゃん
誰も理解できていないのか、元気になった夜一は魔獣への威嚇を辞めず、フシルはいつでも魔法を放てるように魔力を貯めている。
バリオンは知らん!なんも喋らないからどう思ってるか察せません!
「マナカ!!何してんだ!」
夜一が不安げに声を張り上げて攻撃を仕掛けようとするが、それを手で制するように向ける。
「大丈夫、危なくなったらすぐに退避するから!」
安心させるように明るく言うが、足ががくがくと震えますけどね!?
だけど、そんな怖さよりもこの魔獣が呟いた言葉が気になってしょうがなかった
まるで、誰かに謝ってるように聞こえたから、その謝罪は私しかわからないなら、真偽を確かめる為にも近づいて聞き取るしかない。
私は大胆にも、スリッパや靴下を脱いで沼地から様変わりした泉に足をつける。
泉は意外にも浅く、魔獣の所まで膝上あたりまでの水位でとどまりそう。
このパジャマも着替えたい…どこかに服ないかな…それに私、よくスリッパで交戦できてたな、誰か褒めて。
幸い、仰向けに上半身を浮かべて、足は水に浸っている為、全然動かない。
よかった、そのまま動かないでね…
僅かに呟いてる声を拾いに警戒しながら歩み寄る。
少しずつ、じりじりとにじり寄りながら魔獣の傍らにまでたどり着く
【マ〝ァ……ダ……】
まだ……?いや、違うな…
かすれ切っている為、正確に聞き取れない…
もうちょっと、もうちょっとだけ…
触れるか触れないかの距離に迄、耳を寄せる。
【ゴメ…ナ〝ァ……イィ……!】
近づきすぎたぁあああ!!
息を吹き返したかのように上体をおこし、抱き着かれてしまった。
支えきれなかった私は、背中側から倒れ水しぶきをあげる。そして、人型のドロドロとはまた違う黒い影のような物に飲み込まれていく。
あ、これ、私死ぬ…?
「マナカ!!」
「主様!!」
薄れゆく意識の中、目の端で私の名前を叫びながら、水しぶきが壁となって夜一たちを阻んでいる景色で途切れる。
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ここ…どこ…?
辺り一面に広がる光景は、曇り空が無くなり、薄暗かった森が晴々としている。更に木や草の緑が生い茂り花々が美しく色んな色を携えて咲き誇っている。そして、なにより泉が透明になってはいたけど、ここまで太陽の光を浴びてキラキラと輝いてはいなかった。
まるで楽園を眺めてるみたい…
おかしいなぁ…私人型魔獣に飲み込まれたと思ったんだけど…
いつの間に移動した?
…移動…なのかな…気分的になんか夢心地に感じてるから不安だ…
それに夜一達、無事かな…あぁ!もう!どうすりゃいいのよ!!
四苦八苦としていると、急に場面が移り変わり、目の前にタレ目がちの男が現れる。
その容貌はとてもよく見慣れた人物と似ていた。
うぉっ!?いきなりテレビみたいにザザって変わった…ビビるわ!!場所は泉を少し移動したぐらい?
てか、この人……お、お父さん……?
でも…メガネかけてない…ド近眼のお父さんがメガネなしで過ごせるわけない…ましてや、いい歳してコンタクトを毛嫌いする人がいきなりするなんて思えんし…
〔へぇ〜この森を守護してるニンフっていう精霊なんだ!
君みたいな可憐な子が守護してるから同じく、この森も素敵で綺麗なんだね!〕
めっちゃクサイこと言うねこの人
絶対お父さんじゃないわ
〔そ、そんなこと…でも、この森を褒めてくださりありがとうございます…〕
〔テレテル!ニンフサマテレテル!〕
〔もう!お前たち!〕
蛍のように小さな光の粒が、自分の周りをぐるぐると周り囃し立てる。
え、これは誰の声?意味がわからない!?
うぅ…首が動かない…
というか、全体的に動かせない…何故だ…
〔その子たちも精霊?〕
〔はい、見習いの子たちです。
…そ、その!貴方のお名前を伺っても…良いですか…?〕
〔名前?俺は陽太ようたって言うんだ!〕
〔ヨウタ!ヨウタ!〕
陽太…陽太っておじいちゃんと同じ名前…
〔おい!陽太!お主また名前を交換してるのか!〕
横からいきなり、小さく羽が生え背丈が1mありそうな生物が、おじいちゃんと同じ名前の人の横っ腹に突っ込んできた。
痛そっ!………ん?この声…バリオンさん?
〔ぐへぇ!!…き、急に突撃してくんなよ…〕
〔お主がホイホイ契約してないかを止めてるだけだ!〕
〔ごめんって!そんなカリカリすんなってバリオン〕
この子バリオンさん…?
言葉とは裏腹に頭を撫でられ、目を細める小さい版のバリオンさん。それを暖かい目をしながら微笑む男の人に、おじいちゃんが笑った時の表情が重なる。
この人皴とかないけど、昔写真観して貰った時の若い時に似てるし、おじいちゃんなのかな…?
〔陽太さんは、ドラゴンの赤ちゃんと仲が良いんですね…?〕
〔赤ちゃんではない!!わざと身体を小さくしているだけで、立派な大人だ!〕
発言が子供じみてる…
〔それ言うと益々子どもぽいっぞ〕
〔コドモコドモ!〕
〔なにを!こやつらめ!〕
流石おじいちゃん、同じ思考だ
…バリオンさんは見習いの子たち?に怒鳴ってても、手を振り払って追いかけないとこ、ちょっと可愛い
〔バリオンは、ここに来て助けてくれた、1番の親友なんだ〕
〔ふ、ふん!調子良いことばかり言いおって!〕
この2人のやり取り、なんだか微笑ましい…
〔可愛らしいですねふふっ
それにかっこいい名前です〕
〔そうだろ!そうだろ!こやつがつけてくれたんだ!〕
胸をはり、鼻を高くして語るバリオンさんにおじいちゃんは恥ずかしげに指で頬をかいてく。
〔いきなりデレた発言されるとキュンってしちゃうだろ〕
おじいちゃんだ、こんな風に言うのおじいちゃんしか有り得ない。
あと、さっきから一緒に会話してるの、女の人の声かな?自分自身から発してるみたい…
〔…あ、あの!私にも名前をつけてくれませんか!〕
〔え?それは良いけど、この場合って契約になるんじゃ…〕
〔陽太のユニークスキルだとなるが、いいえって返事すれば大丈夫だろ〕
〔なるほど!そういえばそうだったな!
それなら…〕
〔契約したいです!〕
間髪入れずに、バリオンさんの頭に置いてた手を握りしるめる声の主。
〔陽太さんの契約霊になりたいです!〕
〔ケイヤクケイヤク!〕
〔えぇ!?き、君この森の精霊でしょ?平気なの?〕
〔この森から出れはしないですけど、契約霊にはなれます!それに!いつでもここに転移できます!〕
〔デキマスデキマス!〕
声の主すごい積極的…小さい子達も合いの手すごいし…
〔ふむ、それは良いかもしれんぞ!〕
〔ホイホイ契約するなって突撃して来たのに、こいつは…はぁ、まぁいっか!友達増えるのは嬉しいしな!〕
楽観的だなぁ流石おじいちゃん
それより、やっぱりこれ、私自身が声出してる?
と、すると…魔獣に飲み込まれて、ここに来たから……これは魔獣の記憶とリンクしてる…?
いやいや!まっさかー!
〔うーん、それじゃ君の名前は…ルビィーナ!ルビィーナなんてどう?〕
〔ルビィーナ…はい…はい!私の名前はルビィーナですね!ありがとうございます!〕
〔ルビィーナサマ!ニンフサマハルビィーナサマ!〕
この声の主、すごい喜んでるのが伝わってくる…
感情も重なってる?
〔うん!改めてよろしく!ルビィーナ!〕
神獣陽太、ニンフの精霊ルビィーナと契約するか?
はい/いいえ
全ての種族本…!?
おじいちゃんも持ってるの!?
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