第18話 元凶

 逃げている最中なのに騒ぎ立てる私たち


 それをなにもせず、眺めているのかもわからない黒い物体の人型


 後ろから多分追ってきているであろう、黒いドロドロ


 シュールだ




「シュールだ、じゃない!私は一刻も早くこの森から出たい!


 夜一!走って!」




「そうだな、こんなワシミズ族と言い合いなんかしてる暇ねぇや」




「突っかかてきたのはそっちでございまする!」




 この二人ついさっきまで初めましてだったよね?


 仲良くない?




「ぐすん…みんな我を無視する…」




 ごめんって!


 拗ねやすいバイリオさんにも手っ取り早くわからせる為、ネックレスの石に触れる。




「バリオンさんあれがなにかわかる?」




「ふむ……


 マナカ!あの者から早く離れよ!!


 この森を濁らせている魔の瘴気と同じ空気を放っている!!」




 同じって…え!?元凶ってやつですか!?


 だからあんなドロドロしてるんか!


 …ドロドロ関係ある?




【マ゛ァ………ダァ………】




 またなにか呟いてる…


 バリオンさんも何も言ってこないから、分からないのかな…?


 これ私だけって、ユニークスキルの生き物マスターのおかげ?


 おかげってのも変か




「!!主様!危ないでございまする!!聖なる光ホーリーフラッシュ!」




 フシルが背後の黒い物体に一早く気付き腕から出ると、ピカッーと目が潰れそうな程の光る魔法を発動させた、それと同時に夜一も素早く横側に移動する。


 連携プレー…君らほんとに初対面?


 黒いドロドロは光で怯んだのか、その場に蹲るように少し小さくなってる。段々黒いスライムに見えてきた…


 ブラックスライムって名付けよっと




「この魔法、こんなに力強い物ではなかったはず、でございますのに…」




 困惑しているのか、フシルは暫く放心状態のように魔法を放ったブラックスライムを見つめていた。


 レベルが一気に上がってること、そういえば話してなかったわ…




【マ゛ァァァアアアアアア!!!!】




「ワシミズ族!気ぃ抜いてじゃねぇ!」




「フシル!!」




 光る魔法を使ったせいか、立ち竦んでいた人型が急に雄叫びを上げる。そして、フシル目掛けて、自身に滴り落としていたドロドロを噴射するかのように攻撃をしかけだしてきた。


 間一髪のところで、私は身体強化し、夜一よりも速くフシルを庇う。


 耐性かは分からなかったけど、多少背中の下あたりの寝間着にあたって溶けただけで、肌は火傷程度ですんだ。


 痛い!!でも、この程度だったら我慢できる!


 というか寝間着溶けてる!?危なすぎませんか!?




「この野郎…!マナカを傷つけたこと後悔させてやる!!」




 夜一の兄貴ぃ!カッコイイです!!


 夜一が毛を逆立たせて人型に突進する。人型は再び腕を垂れ下がらすと、手のひらを地面に向ける。


 そうすると、フシルが縮こませたブラックスライムが地面を這って人型に吸収される。吸収されたそれは、夜一の突撃を防ぐ為に壁のように立ち塞がる。それを瞬時に夜一はジャンプで反転して、壁に足をつけ、衝突を免れる


 夜一俊敏だ…すごい…




 ていうか、あれ賊共取り込んでたよね。それを更に取り込むって…


 これが食物連鎖ってやつか、夜一も気味悪がってる…


 安らかに成仏してください…




「ぬ、主様…お、お背中が…」




「ん?あぁ、これぐらい大丈夫!


 回復魔法できるようになったから、後で直すよ!」




「…私なんかのせいで、申し訳ございませぬ……」




 若干涙目になっているフシルに罪悪感を抱かせないよう、気にしないでと優しく撫でる。




「私が勝手にしたことなんだし、フシルが謝る必要はないよ」




「…っ!」




「フ、フシル大丈夫!?庇いきれてなかった!?」




 どこか怪我した!?もっと涙目になってる!?ど、どうしよう…


 夜一に頼りたくても、今人型と睨みあったままだし…




【マ゛……ダァァアアアア】




 何がまだなんですかぁああ!?


 また叫びだしたりして、怖いんですが!!




 叫びを皮切りにドロドロが、一層人型の髪や服からでてくる。遂には、巨大な塊となりゴーレム的な形へと変貌する。




「えぇえええ!?ちょ!それありなの!?


 ど、どうする!?安全圏にいるバリオンさんご意見を!!」




「その言い方棘がないか…


 まぁ、戦うか逃げるかだろう」




 バリオンさん、それは私もわかってます。




「よし、最初の目的通り逃げよう


 夜一乗っけて!」




「…倒さねーのか」




 そんな残念そうな顔しないでください。夜一君は戦闘狂ですか。そんな風に育ててませんよ!




「急に大きくなってから、どんな強敵でも勝てそうな感じになってんだ


 マナカ…ダメか…」




 やめて!悲しそうな目を向けないで!!




【ア゛ア゛ァァァ】




 ゴーレムっぽいのは、拳を私たち目掛けて、振り下ろしにかかる。


 夜一は振り下ろされる前に拳の上にのり、目標をずらせるよう踏み台にする。そのままジャンプをしゴーレムの首元を噛みつきにいく。


 一瞬、細身の男が振り払っても落とせなかった光景が脳裏に過ぎった。けれど、それも杞憂に終わる。夜一の牙が深く突き刺さり、思いっきりちぎる。最後にもう一回というように、ちぎったドロドロをその辺に吐き捨て、もっと深く牙を食い込ませる。ゴーレムは夜一を引き離そうとするが、夜一は掴まれないように離れ、再度距離をとる。




「ぺっ!普通にちぎり取れたぜ」




 夜一…あんたすごいよ…


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