第17話 黒いドロドロ

 逃げようとしていた身体を顔だけ後ろに向けると、鬼気迫るオーラを背負った夜一が走ってきていた。

 感動の再開のように、細見の男を無視して抱き着きに行きたい衝動に駆られたが、フシルを腕に持っているので無理でした…

 それに、あのスピードだったらすぐに追いつて……デカくない?


「夜一そんな大きかったっけ!?」


「急にデカくなったんだよ!

 それよりも!今は逃げるぞ!!」


「あ、うん!」


 夜一が逃げている理由はわからないけども、逃げるの賛成です!

 大きくなった夜一は助走をつけ、後ろ足をばねのようにして跳び上がる

 そのまま、細見の頭上を飛び越えると私のもとまで、やってきた。

 細見は夜一のデカさに驚いているのか、それとも物凄い速さで走ってきて頭上をとんだことに驚いているのかわからないけども、腰を抜かして地面に尻餅をついていた。

 へっ!そのまま地面にへばりついてな!

 口には出さないが、表情で表現していると、デカくなっている夜一に寝巻きの首根っこを掴まれフシルと一緒に背中に乗せられる。

 手際が良いね夜一君、大きくなった君のもふもふな背中にちょうど座れました。


「おい、そのワシミズ族はどうした」


「えっと、一時的ななか「私は主様の一番の契約獣でございます!!」


 フシル君やい、君は人の言葉を遮るのが好きなのかい

 夜一もそんなフシルに牙を剝き出しにして、威嚇しないの…怯えて私の胸に蹲っちゃったじゃないの…

 てか、君らは言葉が通じるのね


「マナカ生きててよかったが!後で説明してもらうからな!この浮気者が!!」


「ご、誤解です夜一君!!」


 浮気者のと罵らしりづつも、私の安否を気遣ってくれる君が好きよ!!

 いや!おかしい!どうして浮気者扱いになってるの!?


「に、逃げんじゃね!」


 地面と仲良くしていた細身は、懲りずに魔法を使ってこようとする

 だが、魔法を使う前に、夜一が走ってきた方向から黒くドロドロとした物体がプッシャ!と細身の背中全体に打ち当たる


「ぁあががぁあああ!?」


 黒い液体は背中に衝突した後、スライムが潰れた状態の様ににウニョウニョと広がり、頭や足先まで覆いつくしていく。

 細見は、背中から張り付いてきている物体を、手で搔き毟るように引き剝がそうともがいている。

 だけど、いくら剝がそうとしても、ドロドロとしているはずなのに手は空を払うばかりで、一向に剝がれなかった。

 更に物体は口付近まで覆うと、中に侵入していき、細見はおぼれたような呻き声を出して悶える

 そして、そのまま膝から崩れ落ちた。

 な、なにあれ!?


「ちっ!もう追いつて来やがった!」


「な、なんですかあれは!?」


「よ、夜一君やい!?君は一体何から逃げているの!?

 そ、それに、あいつ悪い奴だけど死んじゃうよ!」


「他のやつなんて気にしてられっか!逃げなきゃ俺らがやられる!」


 黒い物体は細見を完全に包み込むんだ後、ドロドロした大きな塊となり、液体が滴り落ちては、地面に吸い込まれていく。

 塊は、次の標的を見つけんばかりに小太りにズルズルと移動して、細見のように覆い被さる


「ねぇ…ねぇ…!あれどうなってるの…!?」


「後で話す!!今は時間がねぇ!!舌嚙みたくなかったら口閉じてろ!」


 言うが早いか、その場から駆け出す夜一に振り落とされそうになり慌てて毛にしがみつく

 その際に、フシルを押しつぶす形となってしまい、ふきゅっと声がした。

 あ、ごめん…わざとじゃないの…

 その間にも夜一は、どんどん黒い物体から距離をとるように走り続ける。


「夜一は、やっと合流できたようだの」


「てめぇバリオン!!転移させんならもっとましな所にマナカと一緒にしろよ!!!」


 怒りを顕にする夜一に平謝りをするバリオンさん

 それにもっと憤怒する夜一

 わかる、わかるよ!私もその態度は怒りたい!こっちはおっかない想いでいっぱいだったのにってね!

 というより、ずっとバリオンさん喋ってなかったよね?


「そういえば本を呼び出しながら、魔法を使った途端にバリオンさんと喋れなくなってたわ」


「まだ魔力操作に慣れていないのだろう、我も急に途絶えたので不安にかられたぞ

 ところで、さっきの不躾共はどうした?お主が石に魔力を注がないと周りが見えぬからわからんぞ」


 不便だな…口頭だけでいいよね


「えっとね、…うわぁ!?」


 急に止まってどうしたの!?


「マナカ…ちょっと降りて隠れてろ」


 どうして止まったのか気になり、身体を傾けながら前方を覗くと、そこには、逃げている原因と同じ黒い物体の人型が立ち止まっていた。

 人の形をしているが、頭部からドロドロと黒い液体を滴り落とし、目はそれのせいで確認できない。

 口元はかろうじて出て、一文字に閉じており、腕をだらんと垂れ下がらしている。

 更には、鎖骨の下あたりから液体を服のように胴体を包み込ませ、ゆっくりと泥のように垂れ流している。

 お、お化けだ…お化けを目撃してしまった!!

 めちゃくちゃ鳥肌が立っているよぉおおお


「あれは魔獣か……?」


「ぬ、主様…私、怖いでございまする…!ま、守ってくださいまし…!」


「おい!マナカにそんなくっつくな!」


 君たち余裕過ぎない!?もしかし、あの気味悪い人型からひしひしとヤバイ雰囲気醸し出しているのわかってない!?


【…マ゛ァ……ダァ……】


 …?


「お主たちどうしたのだ?我は周りを見れないからわからぬぞ

 魔獣が出てのか?状況を説明してくれぬか」


 バリオンさんはとりあえず放置


【……ゥ……ダァ……】


「ねぇあの怖いの何か言ってない?」


 私の言葉で二人基二匹は首を傾げる

 シンクロしてて可愛い…君ら仲良くなれるよ…


【……ゴォ……イィ……】


「鳴き声しかわかんねぇ

 ただ、襲ってくる気配がないことはわかった」


「同じくでございまする。この間に早く行きましょう!ほら!走るのですよ!」


「てめぇが指図すんな!!」


「大声を出さないででございまする!動き出したらどうするんでございますか!」


「お前だって大声出してんじゃねぇか!」


「喧嘩しないの!後ろからくる黒いのが追いついて来たら、板挟みになるよ!」


「黒いの?……我にもいい加減教えてくれ……」


 もう!私たち逃走中なんじゃないの!?

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