第4話

「このコンパクトでスタイリッシュな外観からは連想できないかも知れませんが、CD、テープ、レコードが再生できます」

修はプロジェクターに映った映像と、壇上の台の上に置かれた新製品を提示しながら説明を始めた。

「今この製品は一見単なるオブジェにしか見えないと思いますが、このように手で触れると、レトロな木目調の形になります。上部を軽く擦るとこのように開きます。あとはアナログレコードを載せるだけです。ひとりでに蓋は閉じられて音楽が再生されます。ボリュームや音質の調整はここに触れるとスイッチ類の映像が出てきますので手で触れて調整することができます。このように触れると音楽は停止して蓋が開きます」

修はアナログレコードを取り出してジャケットに戻した。カセットテープのケースを開けて、カセットテープを取り出して説明を続けた。

「こういうふうに触れると、1970年代にでていた高級オーディオデッキを彷彿させるような形になります。前面に触れるとオーディオデッキのように前面が開きます。カセットテープを軽く載せるだけで閉じられて音楽が再生されます。音量と音質調整も同じように前面に触れるだけでスイッチ類が表示されます。また同じように触れると音楽が停止して前面が開きます」

修はカセットテープを取り出してケースに戻した。CDのケースを取り出し、CDのディスクを取り出して説明を続けた。

「このように触れると最新のCDプレーヤーを彷彿させるものになります。このように触れると前面からトレーが出てきます。CDを載せるだけでトレーが戻り音楽が再生されます。このように触れると音楽が停止してCDが出てきます」

修はCDを取り出してケースに戻してから説明を続けた。

「このように触れると液晶ディスプレイの形になります。このように触れると、先程再生したアナログレコードと、カセットテープとCDに入っている曲なのですが、これは入っている曲を以前全曲再生したのでこのように表示されます。この製品はWIFIでインターネットにつながっているので、クラウドに再生した曲が自動的にアップロードされています。今まで操作を手で触れることによって実行しましたが、これらすべてのタッチによる操作はデフォルトで設定されています。このタッチ操作は好みの好きな設定にして覚えさせることができます。でもさらに便利なことは、この製品は音声認識をすることが出来るので、同じような操作を音声によって操作することができます。曲の選択も音声によって操作することができます」

 新製品のプレゼンが終わると、研修室の座席のすべてを占めていたスタッフたちは、同僚の小嶋由紀夫を除いて、急き立てられるように後ろの出口の中へと飲み込まれて行った。最後尾の座席にまだ座っていた由紀夫は立ち上がって、プロジェクターのスクリーンが、まだ降ろされたままのプレゼンター用の机の方に向かって、歩きながら由紀夫が話し始めた。

「こうやって見ていると本当に素晴らしい製品ができたもんだね」

「これは由紀夫の技術チームの研究成果のお陰だよ。有機ELを使ってこれほどのことまで出来るようにするなんて、素晴らしい発想力だと思うよ」

「有機ELディスプレイの柔軟性と映像によって、作り出される錯覚によって、疑似体験的な使い方をしようなんて・・・修の発想だよ」

「確かにアナログプレーヤーと、カセットプレーヤーと、CDプレーヤーを一体化してUSBメモリーに録音させるというような製品は出ているが、それをクラウドにつないで使えるという製品はまだ出ていないから、それだけで充分売れる製品になるのに・・・有機ELディスプレイを使ってここまでの製品にできたなんて・・・今日プレゼンをやってみて自分ながら何か感慨深いものを感じるよ」

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