第5話

「今回は試作品ということで、表紙以外で5枚のシートからなる製品にしました」

瑞穂は彼女を含めて10人のスタッフが座っている丸テーブルで、一見普通の絵本に見える製品を手にして説明を始めた。他の9名のスタッフたちも、瑞穂が手にしているものと同じ製品を手にしていた。

「表紙をめくると自動的に電源が入ります。使用感は普通の絵本のような感覚で、絵本を読むことができます。最後まで読んで閉じた場合、次に表紙を開いた時、次の別の絵本を読むことができます。標準で1000冊の絵本を本体に内蔵することができます。表示させる順番も自由に設定することができます。WIFIにつながっていれば、購入した絵本をクラウドに保存しておいて、いつでも内蔵してある絵本と交換することができます。読んだ後付属のブックスタンドに立てかけると、自動的に充電するようになっています。この製品は、タッチパネルの対応の有機ELディスプレイの技術をもとに、開発されたものです。この製品開発のために他社から技術協力をしていただきました。以上で大まかな製品説明を終わりにいたしますが、出版会社の絵本部門がこのような製品を販売すると、本来の商品である絵本の販売に影響があるのではないかという不安がでてくると思います。そしてこれも私ども企画班が考案したことなのですが、ソフトは実際の紙媒体の絵本の付録という形でのみ販売しようと思います。ただ紙媒体をデジタル媒体にしただけでは、それほどの購買意欲を起こすことはできないと思います。そのためソフトにはタッチパネルを使用して遊べる、という付加価値をつけたいと思います」


「ここのお店なかなか感じがいいわね」

パスタの麺をフォークに巻き付けながら瑞穂が言った。

「おとといショッピングの帰り、無性にパスタが食べたくなって・・・たまたまショッピングをしたお店の隣に洒落た感じのパスタ店があったの。寄って食べてみたらすごく美味しかったの。そう、ここがそのお店よ」

サラダを食べながら瑠美が言った。

「うん。すごく美味しいわ」

口元からフォークを離しながら瑞穂が言った。

「瑞穂のプレゼンとてもよかったよ」

「それは瑠美がパワーポイントで、入念にプレゼン資料を作ってくれたからよ。実際あの製品は発案から完成までの間の重要な部分で、瑠美が関わったところが多かったわ。だから瑠美がプレゼンをやるべきだと、わたしはずっと言ってきたのに」

「瑞穂に何度もプレゼンをお願いされて断るのが辛かったけど・・・その度に同じ理由を言ってきたから、あえてここでまた言うのは憚るけど・・・でもまたあえて言いたいの。わたしは本当に人前で話すことが苦手なの。人前に出ると顔が真っ赤になって、全くあがってしまって、声がもう出なくなってしまうの。だから今の会社の面接試験に通ったことは、今考えてみると本当に奇跡のようなものだったわ。後で聞いた話だけれど、面接を担当してくれた人が、筆記試験の中にあった論文試験の答案を読んで、とても評価してくれたらしいの。その人が面接のなかでとても気を使ってくれて。あの時はもう真っ白になってしまって、ほとんどのことは覚えていないんだけど。わたしが普通に話せるようにうまく誘導してくれたみたいだったの」

「この会社のいいところなのかも知れないわね。いい人材を発掘する力があるのかもしれないわ」

「でも、瑞穂は本当にすごいわ。短い期間であの製品の下調べをしたんでしょう。あの製品のすべてを理解しているような感じだったわ」

「本当のことをいうとほとんど理解できていないわ。マニュアルを読んだけど難しくて、途中で読むのをやめてしまったわ」

「それにしてもあんなに上手に説明できるんだからすごいわ」

「わたしはある意味で要領がいいのかもしれない」

「流暢に説明できる瑞穂が羨ましいわ」

「わたしに言わせると、あのようなハイテクの製品の仕組みを理解している瑠美が信じられないわ。わたしにとって別世界のひとのように思えるわ」

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