【過去】パーティー
前書き
こっちもぼちぼちやっていきます。
◆
夜の街道で野営を行うグレン、ルーナ、テッサ、ハンスが夜食を食べていた。
固いパンに燻製肉といった最低限度のものであり、三人の少女たちの生まれを考えるとあり得ない食事としか言いようがない。しかし、逃避行を続けている彼女たちはそれに文句を言うことなく淡々と胃袋に押し込んでいく。
「なんと言うか……偶に思うんだが食べ方が綺麗だな」
そんな中、少女ながら威厳溢れるルーナが、パンを雑に扱わずに食べるグレンに話しかけた。
「ふっ。これでも私、上流階級のパーティーに出席したこともあるのでございますことよ。マナーは完璧でございますです。はい」
「なんだその言葉使い。一からやり直しだ」
ニヤリと笑うグレンが滅茶苦茶な言葉使いを披露すると、ルーナは呆れたように首を横に振って落第だと認定した。
そんなグレンが出席した上流階級のパーティーとやらにハンスが興味をひかれた。
「どんなパーティーだったんだ?」
「向こうの大陸でドラゴンを殺したとき王城に呼ばれてな。下々ながらよくやった!褒めてつかわすってパーティーに呼ばれたんだよ」
「本当にドラゴンを殺したのか?」
「おうよ。まあおとぎ話で語られるような真のドラゴン、古龍と言われるような奴じゃなくて単なる成体だけどな」
「いや、単なるって……十分凄いと思うんだけど……」
ハンスの質問に大したことじゃないと答えるグレンだが、空を飛び火を吐くだけではなく強靭な鱗を兼ね揃えた十メートル以上の怪物を殺せるのは極々限られた者達だけである。勿論頂点存在である古龍ともなれば、人類は討伐をほぼ想定していない。
そのため視線を合わせているルーナとテッサは、例え古龍ではなくとも成龍を討伐したと宣うグレンが、本当のことを言っているのだろうかと疑っていた。
「それは宮廷作法で困ったでしょう」
「おう困った困った。本当に困った。幾ら傭兵の待遇がいいあっちの大陸でも、王城のパーティーに呼ばれる奴はそういないからな。俺も全く考慮してなかったから不意打ち受けたし、なによりマナーなんて知らねえときた。そのせいで王城から講師がやってきて詰め込まれたんだけどよ、頭が爆発するかと思ったぞ」
テッサは当時グレンが直面した巨大な壁を予想して問うとまさにその通り。農村の焼け跡から拾われて成長した男に宮廷作法など分かる筈もなく、急遽詰め込み教育が行われてグレンの脳が許容量を大幅に超えた過去があった。
「それに面白くなかった。いや、扱いが悪いとかじゃなくて単純につまらんかった。あっちの大陸の文化的に傭兵だからって露骨に馬鹿にする貴族はいないけど、ただ人と話して酒も食い物も碌に食べられなかったからな。酒場で打ち上げの馬鹿騒ぎするのが傭兵流なんだなと心底思った」
「まあ……それは……」
今にも苦笑しそうなグレンに、ルーナたちはそれはそうだろうと言いそうになった。
貴族のパーティーとは政治の場であり、親しい者や家族の中で行われるようなものでないなら、酒だって僅かにしか飲まない。もし酔っぱらって重要なことをべらべらと話せば政治的に死ぬし、がっついて食事をすれば育ちが悪いとみなされてしまうのだから、彼女たちにしてみれば楽しむ場ではない。酒場で馬鹿騒ぎするなどまさに世界が違う。
「だから俺をパーティーに招待するときはいいお酒をよろしくな。美人の姉ちゃんがいるならなお良し、姉ちゃんな」
そんな経験をしていたグレンは、厚かましくルーナたちにパーティーの要望をする。しかも美人の姉ちゃんと強調して小娘三人を揶揄う始末だ。
明らかに将来有望なルーナ、ハンス、テッサだが、現在は小娘であるのは間違いない。尤も、将来その小娘と呼んでいた女に押し倒されることが確定している男の遺言でもあったが。
「覚えておくといい。全てが元に戻ったら国で一番の酒を用意してやる。まあ、女の方は相手が断るだろうから無理だな」
「では私がお酒の手配をしましょう」
「えーっと、そうだな。ワインセラーはないが我が家の武器庫なら見せてやるぞ!」
「ぷぷぷ。期待して待ってるぜ。っていうかハンス……もうちょっと……こう……」
ルーナたちがパーティーの予定を決めると、グレンはぷぷぷと笑いながら未来に期待して、ハンスの武器庫云々になんとも言えない表情となった。
「ああでも、美人の嫁さんがいる予定だから、パーティーで鼻を伸ばしてたら怒られるなあ。困ったなあ。子供にも怒られちゃうかもなあ」
「ふっ。言っているがいい」
グレンはなおも未来を勝手に考えて、美人な嫁と子供を伴いパーティーに出席する妄想を垂れ流し、ルーナに鼻で笑われてしまう。
何度も述べたが自分が過去にぶん投げたメイスが常に頭をカチ割る男と、将来男を墓穴に叩き込む女達の若き日の一幕であった。
そして今回の頭にメイスだが、具体的には本当にパーティーに出席することになり、しかも非公認だが美人な嫁と子供もいる状態でである。ひょっとしたらグレンは預言者なのかもしれない。
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