【現代】オークとオーガの軍勢。千万死満到着
列強国バンベルト王国軍着陣。この情報はサリーン帝国の野営地に到着している各勢力に一瞬で伝わる。
元々バンベルト王国は注目はされていた。唯一生き残った王族のルナーリア女王が、国内の内乱だけではなく、その隙を突こうとした周辺各国や組織を叩きのめして、列強の国体を維持している偉業を持つ国だから。
だけではない。
バンベルト王国にちょっかいを掛けた者達が捕らえられ、身代金で支払う羽目になった、目を疑うような総額の原因にして勝利の原因が。
溢れる死が軍を率いているのだ。
◆
「邪魔をする」
野営地の本陣。しわがれた声と共に、顔に黒い布を巻きつけた怪人、傭兵にしてバンベルト王国大将軍“千万死満”が足を踏み入れた。
本来なら国際会議が行えるような面々が揃っている場で、このような出で立ちが許される筈がない。兵や将軍が今すぐ布を取れと怒鳴る筈だが、全員が視線を向けるばかりで、それ以上のことは誰もできなかった。
(あれが千万死満……!)
(伝説の傭兵!)
例え近年は活動していなくとも皆が知っているのだ。どれだけの強者であっても捕まり金に換えられ、場合によっては殺されてしまうことになる人型の死。それだけではない。生物の頂点である筈の古龍、真なる巨人すらも圧倒する埒外の中の埒外であると。
そしてなにより発する圧。
(巨人かなにかか!?)
(デカすぎるぞ!)
本陣にいる者達は、かつて若き日の千万死満が、初めてこの大陸の傭兵ギルドにやって来た時と同じような、巨大な圧力を感じて一歩後ずさる。とは言え変わっていないのは、千万死満が成長していないからではなく、必要な圧だけを発しているからだ。
そんな中、態々千万死満に近づく壮年の男性聖職者がいた。名をチェスター。戦神達に仕える者達の一派、“粉砕する鎚”教の大司祭である。
「お久しぶりですチャンピオン」
「チャンピオンはよしてくれ」
チェスターが聖印を結びながら、恭しく金髪に白髪が混じった頭を下げると、無機質な圧を放っていた千万死満が、今日初めて苦笑という感情の揺らぎを見せた。
「いえ。鎚の神ロヴォゴンの代闘士をチャンピオンと呼ばずどうします」
皴のある顔に至極真面目な表情を浮かべるチェスターに、千万死満は肩を竦める。
混乱期のバンベルト王国において、千万死満と宗教勢力とのいざこざは一度や二度ではなく、今もその関係はかなり微妙なものだが、粉砕する鎚教だけは例外だ。
名前通り鎚、つまりメイスを振るう神として知られる戦神ロヴォゴンの代理として振舞うことが許されている千万死満は、チェスター達からしてみれば神の使徒なのだ。それ故に病人、女性、聖職者の決闘を代理で行う意味の他に、神の代理人として戦う意味を込めて、千万死満にチャンピオンの称号を送っていた。
そして逆に千万死満も、ロヴォゴンの方に称号を与えていた。
メイス愛好会永久名誉会長を。
「若気の至りが大事になった」
(酒場で酒を飲みながら、メイスで意気投合した爺さんが神とか誰が思うよ)
千万死満の言葉通りこれは完全に若気の至りだ。
こちらの大陸でメイスが全く流行っていないことを嘆いていた若き日の彼は、同じく千万死満の故郷である別大陸ではメジャーなのに、こちらの大陸で全く信仰されていないことを嘆いて、やけ酒していたロヴォゴンの分霊と遭遇して意気投合。
気が付けばメイスの話題で朝まで語り合い、千万死満は故郷の粉砕する鎚教の者とコンタクトを取って、こちらの大陸での布教に協力した経緯がある。
つまり粉砕する鎚教において、チャンピオンという全く異なる階級に位置する千万死満だが、普通に所属しても大司教以上は確実な功績を残していた。
それでもメイス自体は下火だが。
(レースだけでもなく、この化け物まで来るとは!)
一方でチェスターの敬意とは違い、恐怖を覚えている者は多かった。
秘密結社、地平線の副総裁ミガルもその一人だ。レースだけでも手に負えないのに、その化け物がはっきりと自分より格上だと見ている千万死満は、彼らにとっても鬼門だった。
(しかも“壊れずのメイス”まで! 本気ではないか!)
千万死満が腰に携えている、一見すると土と岩を削り取って、メイスに仕立てたような物体もまた、ミガル達にとって嫌な思い出だ。
神々がこの世界に残したと伝わる神器だが、ハッキリと所在が分かっている物は少ない。その数少ないものこそが壊れずのメイスであり、単純に名前の通り決して壊れることがないこれは、神ロヴォゴンとは関係なしに、千万死満が遺跡で見つけたことが、一部裏世界で知られている。
(総裁ですら逃げるしかなかったのに!)
それに興味を示した地平線だが、直接赴いた総裁は千万死満を見るなり逃亡した経緯があった。後に総裁は、たかが壊れないものを見るためだけに、なにもかも壊せる奴の傍に寄れるものかと発言した。
「それでは軍議を始める」
そして千万死満が登場してからも、レースを含めて続々と関係者が集まり、人類の危機に対しての軍議が行われようとしていた。
(これで楽隠居とか無理じゃね?)
一方、目立っていなかったバンベルト王国のもう一人の代表である老将軍ジャクソンは、本陣の雰囲気を感じ取り、千万死満ことグレンの楽隠居なんてものは無理だなと思うのだった。
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