第2話
それは兄の高校の卒業式が終わって、春休みに入ってからのことであった。兄はウィーンの音楽学校への入学が決まって毎日時間が許す限り家でピアノの練習をしていた。
僕は何をやってもダメであらゆることでうまくいかなかった。特に学校の成績は伸びるどころか毎回試験のたびに下がっていく感じであった。僕の通っている高校は中学の時にあまり成績が良くなかった者が多かったので、僕は最初の成績がクラスの中で上位であった。しかし、回を重ねるごとに僕の成績は下がってしまい今では中の下までになってしまった。僕は勉強をしていない訳ではない。時間の許す限り勉強しているつもりでいる。勉強することが嫌いな訳ではない。どちらかというと好きである。でも要領が悪いのである。他の人がどうでもいいと思っていることに関心興味が湧いてきて先へ進んでいかないのである。だから試験で高得点などとれるはずがない。でも音楽の成績だけは良かった。一学年の時のクラスは全員が芸術科で音楽を選択しているクラスであったがクラスの中でピアノを習っていたのは僕だけであった。それだから僕の音楽の成績がクラスでトップであったのは特に不思議なことではなかったのかもしれない。でも、音楽だけは今でも一番好きである。ピアノを弾くことは好きである。ピアノを弾いていることがとても楽しく感じられる。しかし、楽譜通りにはなかなか弾けるようにならないのである。エリーゼのためにでさえ最後まで完璧に弾けたことがないのである。それなのにショパンのエチュードやバラードが弾けるようになりたくて何時間も練習するのだが、一向に先へ進まないのである。しかし、兄は全く違うのである。どんな高度な曲でも短時間で制覇してしまうのである。ショパンのバラード第一番を彼は難無く弾けるようになっただけでなく彼独自の解釈で非常に独創的な曲に仕上げてしまうのである。僕の家にはピアノが2台ある。どちらもヤマハのピアノで一台はグランドピアノで、ピアノ専用の部屋にあった。もう一台はアップライトで茶の間にあった。いつの間にかグランドピアノは兄が、アップライトは僕が弾いていることが習慣のようになってしまった。以前は兄がピアノを弾いていない時、グランドピアノの方を弾いていることがよくあったが、最近はウィーンの音楽学校に入学が決まり、毎日ほとんどの時間グランドピアノの前に座っているので、僕がグランドピアノを弾くことはほとんどなくなってしまった。
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