ふわふわのお昼ごはん
七種夏生
思い出のお昼ごはん
「どうして油揚げの上に、麺を乗せるの?」
お昼ご飯中、母が私に尋ねた。手元にはそれぞれ、おうどんのカップ麺。
首を傾げた私は、自分のカップ麺の中に目をやる。
ふわふわの油揚げの上に、絡み合った麺が乗っていた。
「熱いから冷ましてるの」
「冷ましてる?」
「そのまま食べると熱いから、きつねの上にちょっと乗せておく」
「きつね? あぁ、油揚げのことね」
くすくすと笑った母は自分のカップ麺を見つめ、油揚げの上に麺を乗せた。
「何分待てばいいの?」
「三十秒くらいかな、一分以上待てばふわっふわになるよ」
「ふわふわ? うーん……まずは三十秒ね」
秒針が半周したところで、母が麺をすする。
「うーん……うん?」
どうやら、三十秒の魅力は母に伝わらなかったらしい。
さらに三十秒、一分経ったところでもう一度、母が麺をすする。
「あら……あらあらあら?」
目を輝かせた母が、スープから取り出した麺を油揚げの上に乗せていく。
どんどん重ねていくものだから、重みで油揚げが沈んでしまった。
「おいしい?」
私の問いに、母がにっこりと微笑んだ。
「えぇ、とても。美味しいわ」
*
さっき語ったのは三十年前、私が小学生の時のこと。
あの時から二度のリフォームを終えて綺麗になったリビング。
母が座っていた椅子に座った私は、向かい側に座る娘の昼食に目をやった。
彼女と私の手元には、昔と変わらないおうどんのカップ麺。
「どうして油揚げの上に、麺を乗せるの?」
私の問いに、娘は得意げににまーっと微笑んだ。
「熱いから冷ましてるの。それにね、こうするとすごくおいしいんだよ」
小学生になって始めての夏休みを迎えた娘が、油揚げの上の麺を箸で掴んで「はいっ!」と私のほうに突き出した。
「ありがとう」と微笑み、麺をいただく。
「おいしい?」
キラキラと輝く娘の瞳。
ごっくんと麺を飲み干し、娘に向かって満面の笑みを浮かべる。
「ふわっふわで柔らかくて、とっても美味しい!」
ふふんっと鼻を鳴らせた娘が嬉しそうにまた、油揚げの上に麺を乗せた。
どんどん重ねていくものだから油揚げが沈んでしまって、二人して大笑いした。
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