第4話
「こっ、これは!」
先程よりも感じる強い力に、王子は一旦夫人から離れ、ギルバートとユリアの元に戻る。
「……力が戻っているのか」
そして、完全に力を取り戻した魔物は夫人の体のままニヤリとしさらに「はははは!」と高笑いをしてこちらの方を見ていた。
「……」
さっきまでの夫人とは違う禍々しい力が離れていても感じる。それくらい、今の夫人の力は凄まじい。
「だが、早めに終わらせないといけないな」
「はい。このままでは夫人の体が力に耐えられなくなります」
二人の会話を聞いてギルバートはハッとした。そう、ライア夫人は魔法の使えない人間。
一応、魔法が使えない人間でも魔力は存在しているのだが、魔法が使えない人間はその魔力を収める器が小さいのだ。
そして、そんな人間に巨大な魔力が入れば当然その器はあふれ出す。つまり、収まり切らない。
「ずっと彼女に憑いていたとしても、突然魔力量が増えたのは見た目が変わった事で明らかだ」
「そうですね」
しかし、今のままでは夫人は魔物に取り憑かれたまま。そのまま倒してもまた夫人の中に戻るだけになってしまう。
「……とは言え。このままではいけませんね」
「はい、仮に倒したとしても夫人の体に戻るか」
「はたまたあの膨大な魔力を持ったまま別の人間に取り憑く可能性も否定出来ない」
押し寄せてくるプレッシャーは計り知れない。普通であれば気絶していてもおかしくないほどだ。
「スッ、スティアート」
「なんだ」
「コレを使え」
「なっ!」
これまで固まったまま状況を見ているだけだったラファエルが突然そう言って『ある宝石』を瞬間。王子は珍しく目を見開いて驚いていた。
「お言葉ですが、あなたの実力では……」
「いや、違う。だが、良いのかそれは家宝の様なモノだろう」
「良いんだ。薄々勘づいていたんだろ? お父様が病に伏せている事くらい。それに、今までの俺の態度や今回の出来事で完全に俺の家は終わりだ。今まで散々迷惑をかけてきた落とし前くらいつけさせてくれ」
ネックレスに付いた真っ黒な宝石のギュッと握りしめて軽く目を閉じたラファエルに、王子は何も言わずにギルバートの方を見る。
「……ギルバート」
「はっ、はい!」
突然名前を呼ばれると思っていなかったギルバートはその場で姿勢を正した。
「ラファエルを夫人に出来るだけ近づけて欲しい。そして、夫人からあの魔物が離れた瞬間を……叩く」
「え、でも。それは大切なモノでは」
「コレは『闇魔法』の魔法陣が埋め込まれた石だ。コレは『魔力の塊』を取り除く事が出来る」
「なっ、なぜそんなモノが」
「俺のご先祖は魔物と人間の間に生まれた。コレはその名残だ。時間がない。こんな事を俺に言われるのは癪だと思うが、頼む」
「……言っておきますが、魔力をぶつけます。それで怪我をしても文句は言わないでくださいね。姉さんなら無傷なんですから」
ラファエルの言葉を受け取ったギルバートはそう言いつつ、魔法の体勢に入る。
「ああ、分かった」
実はダンジョン巡りに際にレイチェルに何度かしていた事があったが、ギルバートの様に無傷だった。
しかし、普通に考えて人に向かって魔法を放つという事は御法度だ。
そもそも、魔法が使えたとしても通常であれば「無傷」という事はありえない。
ギルバートはふて腐れたように言ったが、コレもギルバートなりの優しさだったのだ。
「行きます!」
「ふん、今度は何を……っ!」
そうして放たれた魔法と共にラファエルも突っ込んできた事に驚愕していたものの、この驚きはこちらとしてはむしろ計算の内だ。
「お母様を……離せ!!」
ラファエルの声と共に放たれた魔法陣が展開し、王子はそれを合図に突っ込んで行った……が。
「なっ!」
夫人は魔物と離れる事が出来、ラファエルに受け止められたモノの、その肝心の魔物は王子の攻撃をスルリとすり抜けていた。
「ふん、魔物は飛ばないとでも思った?」
そう言って逃げ切りを確信した魔物の高笑いは……すぐに止まった。なぜなら――。
「なかなか愉快そうだな。そんなに面白い事があったのか?」
魔物の背後に、レイチェルが倒しに行ったはずの魔王が立っていたのだから。
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